見ずに溶ける青
どうしてと聞くことはしなかった。私だって、どうして死にたいのかと聞かれれば答えない。ミシェルは苦しんでいる。なら、私とは違う。何もないのにただ死にたい私とは他人の目が全然違う。
「行きたい場所とかないの?」
「きくりゆうは?」
「理由って、いうか……死ぬ前に見たい景色とかないのなかって、ちょっと思っただけ」
「つれていってくれる、いっしょにいってくれるの?」
ミシェルが不思議そうな顔をしたような気がした。そんな風に見えた。風は冷たくて、銃をダッシュボードに入れて、ミシェルを助手席に招いた。
「私はさ、」
「うん」
「うん、と」
口を開いてみたものの、うまく話せない。ミシェルを助けたいわけでもないし、ミシェルを救えるとも思ってはいない。なのに言葉を選ぼうとしてしまう。
「私は、行きたいところとか、見たいものとか、たくさんある。でも、死にたいが勝ってる。やりたいことがあるから死ねない、死にたくないなんて思えない」
「うん」
「だから、大したことじゃないんだけど。重く受け止めなくていいんだけど。ミシェルのこと知りたい。もう少し、私も、何も言わなくてもわかるくらい、もう少しだけミシェルのことわかりたい」
「うん」
「あなたに似ていない私では、だめかな?」
「だめじゃない。え、とわ、」
ミシェルは何か言おうとして、口を閉じた。切れ長の目が私を見る。うつむいて、ごにょごにょと何か呟いたミシェル。何を言ったのかはわからなかったが、私の手に重ねられた手の温度はわかった。冷たくて、私の体温を奪っていくような、軽い存在。




