n番目の神の子
ハンターが残していった銃には、ご丁寧に銃弾が一発入っていた。銃弾というのは普通こう細長いものなのだろうか、あるいは一般的ではないのか。どうでもいいが、この場合、私が逮捕されるのだろうか。銃刀法違反とかそういうやつで。銃を押し付けられたといって聞いてもらえるだろうか。今すぐ届ければセーフ?
「ころしてくれないの」
「物騒なこと言わないで」
食事をする話をした直後に、何事もなかったかのように、死ぬ話をする。ミシェルはずるい。
「でも、ねえ、ミシェル。あなたが私を殺してくれるなら、私もあなたを殺してあげる」
「きみをころしたら、きみはわたしをころせなくなる。わたしはわたしをころせない」
「私は私を殺せると?」
ミシェルはためらって、だがうなずいた。客観的に見ればその通りだ。人間は自分自身を殺せる。ミシェルには、ミシェルたちという存在には、自分自身を殺せないのだろう。だが人間でも小さく見れば、私には、私を殺せなかった。できるならとうに死んでいる。死に方が決められない。
銃を手に取った。人に向けてはいけません、思いながらミシェルに銃口を向けてみる。人間を殺す銃弾ではきっと彼女は死なない。ミシェルは平然としている。
「……だめだ」
腕を下ろして、銃を助手席の足元に放り投げた。
「お別れ会もしてない」
「おわかれかい」
「あなたが生まれ変われるかどうかもわからない」
「うまれない」
「また会えるかも、死後の世界が同じ世界かも、わからない」
「……さびしい?」
「うまく殺せるかもわからない。痛みもなくて苦しみもないように殺せないかもわからない」
「いいよ」
苦しいのは、痛いのは、今だから。一瞬だけの熱さでお仕舞いになるなら、いいよ。
ミシェルの声が聞こえない。水の中のようにぼやけて遠い。藁でもいい何かを掴もうとした。私はもうぐちゃぐちゃだ。代わりにぶれない誰かにすがらなければ立てない。立ちたくもない。でも生きている。




