君を誰も救わない
仕事帰りにコンビニに寄って、車の中でぼんやりしていた。全開にした窓から冷たい空気が入ってきて、また出ていく。冬は好きだ。移住するなら寒い国の方がいい。太陽は好きじゃない。
今日もらった伊勢参りのお土産は、ミシェルに会って血をあげてからでなければ食べられない。賞味期限はすぐだというのに。
「よんだ?」
ひょっこりと運転席の窓からミシェルが顔を出した。わざわざしゃがんでこっそり近づいてから声をかけたのだろうか。あるいは、瞬間移動ができるのかも。
「あんこたべるならちもらう」
ミシェルが早口で言った。
私が考えたことが伝わっているのだろうか。不老不死、さらに瞬間移動、読心術とは。
「なんどもちをもらうと、わかる。なんとなく、ぼんやり。よんでること、あいたいこと」
「絆?」
「きずな」
アミュレットに手をかける。
「絆が強くなると、私とミシェルはどうなるの?」
「きみのち、たべた。だから、きみのこと、わかる。どうなるじゃなくて、ちかくなるだけ」
「近くなれば、」
私は寂しいのだ、そう気づいた。だって私は怠惰で、生きることを止めたいと思っても、死ぬことさえ億劫だ。ミシェルは違う。苦しみを表に見せず、楽になるため、死ぬために、自分のために何が必要か考えて動いている。ミシェルは私の夢ではないのだ。
「……願い事が、叶う?」
アミュレットを握りしめ、ナイフを思い浮かべる。簡単に形が変わる。物理の法則を無視して、私の手の中にはアーミーナイフ。
「わたしをころして」
握りしめても、できない。




