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焼けた蝶

 もらいもののビールと緑茶、同じくもらいもののチョコレートに白菜の浅漬け。キリエさんはどれもお好みではないようなので、こたつから出て新たにもらいものの日本酒とせんべいを持ってきた。注いでみる。するとキリエさんは、いただきますと手を合わせた。子どもの姿のせいで困ることって、もしかしてこれか。


「これ冷やしてあるんだけどこのままでいい?」


「ぬる燗にできますか?」


「お、おう」


 ぬる燗ってどのくらいだ? 便利道具で検索して、電子レンジに突っ込む。本格的なやつでなくて申し訳ない。様子見しつつ、まあこんなものかと出来上がりを持ってまたこたつに戻った。でも冷酒で飲む用の酒だと思うんだ。


 とりあえず問題なかったようで、キリエさんはおちょこに口をつけると、ほほを緩めた。とっくりとおちょこも誰か処分、もといプレゼントしてくれないものか。


「シルバーブレットと呼ばれるものを、ご存じですか?」


「あの、あれ、吸血鬼とか、狼男を倒すやつ?」


「はい。グリスキオンのはじまりは、我々ときずなを繋げた者が、死にたがりの我々を殺したことです。何があって今のような、我々を殲滅せんとする組織になったのかは知りませんが……。グリスキオンは、はじまりの銀珠を所有しています。今も、それを少しずつ武器に使用しているはずです」


「はあ。じゃあ人間なの?」


「ほとんどはそうなのでしょう。一人か、二人、何か別のものがいるのかもしれません」


 何というか別世界の話だ。人間でないものとは。一人二人と数えるなら、ペットの犬猫が勘定されているわけではないだろうし。


「問題は、それでは弱すぎることなのです。はじまりの銀珠はもはや、我々を殺す力を持ちません。あれは我々を痛め、癒えない傷をつけるだけなのです」


 わかったような、わからないような、曖昧にうなずいて、私も日本酒を飲んだ。


「あの人は、癒えない傷に、終わりのない痛みに、苦しんでいます。あの人は、おそらく、もう」


 キリエさんは言いにくそうに言葉を詰まらせる。想像はできた。何を言おうとしているのか、わかった気がした。それでも。


「あの人は、生き続けることをやめたいと思っているのです」


 息が詰まる。ミシェルは、死にたいのだろうか。苦しみから逃れたいのだろうか。あるいは。私のように、死ぬことを夢想しながらただ無為に時を過ごしている。

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