キリエと百花の王
このビール、ポップコーンが欲しくなる。空いたグラスに缶の残りを移してしまって、キリエさんに目をやる。こたつに足をいれて座っていてもやはり、ちょこんといった風。小動物系女子とはこういうものか、勉強になります。
「キリエさんのその髪飾り、何の花? 大輪の花だよね」
「これは牡丹です」
「ああ、そうか牡丹か」
なんとなくわかってたよと言うような返しになってしまったが、全然わかっていなかった。
話があるというのにキリエさんが黙っているから、こちらから何か話してみたほうがいいのかと試しただけ。返事はあった。適当に続けることにする。
「髪きれいだね。色も透き通るような白だし、天使の輪っかがあるんだ。つやさら」
「……私のお友だちも、そう言ってくれました。真っ白い髪も、ひとの血を飲むことも、吸血鬼みたいで格好いいって」
「吸血鬼じゃなかったのか」
驚愕の新事実。吸血鬼であろうと違っていようと構わないが、吸血鬼でないなら、吸血鬼扱いは申し訳なかったかもしれない。
「似たようなものではあると思います。とくに、この国で言われる吸血鬼、ヴァンパイアは、神の敵や悪魔であることは稀のようですから、侮辱とは思いません」
「そうなんだ」
「はい。お友だちが教えてくれました。世界にはまだまだ知らないものがたくさんあって、素敵なひとがたくさんいるんです」
キリエさんは、本当に嬉しそうにはにかんだ。お友だちというのは、キリエさんに血を与えている人間のことなのだろうか。
「この牡丹の髪留めも、お友だちにもらったものなのです。ただの球だった私のお守りを、こんなに素敵なお花にしてくれたのです。おそろいで、嬉しくて……」
キリエさんの表情が曇る。
「お守りの意味は、あの人から聞きましたか?」
「え? グリスキオン、グリシィオン? から、見つからないためのお守りと聞いたかな」
「そうですね。我々は、我々によくしてくれる方々を守らなければならないのです。ただ……我々にはもうひとつ、あります」




