表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある夏の思い出  作者: 運河
1/2

おばあちゃん家


  1


 ある夏のこと...

 日差しが強くて、蒸し暑かった頃の話だ...



 「おばあちゃん、げんきにしてるかなー?」


 7才になったミクは電車に揺られながら、田舎に住んでいるおばあちゃんのことを考えていた。

 足をパタつかせながら、手には絵本を持っている。

 車内は冷房が効いていて、涼しくて気持ちよかった。

 昨日から待ちに待った夏休みになり、おばあちゃん家にお泊りに行くため、今ミクは電車に乗っている。

 お泊りには家族で何回かしたことがあったが、一人でのお泊りは今回が初めてだった。

 今日から2泊3日のお泊りをする予定だ。

 ミクは手に持っている絵本を開き、すぐにパタンと閉じた。

 絵本を読もうかと思ったが、なぜか読む気になれなかったのだ。


 (何をしようかなー?)


 とミクは考え、車内を見渡すことにした。

 車内は人が少なく、ミクを含めて3人いた。

 麦わら帽子をかぶったおばあちゃんが目の前の席に座っているのと、スーツ姿の若いお兄さんが出入口の扉に寄りかかって外を眺めていた。

 田舎の電車だから人の乗り降りが少ないのかな?、とミクはそのとき思った。

 車内を見渡すのをやめ、ミクはクラスメイトについて考えた。


 (みんな、夏休みなにしてるんだろう~)


 クラスメイト一人ひとりを思い浮かべていた。

 ミクは2年生になり、クラスの友達とも仲良くなりはじめていた。


 (どこかにお出掛けしてるのかな~?)


 とみんなのことを考えながら、手に持っていた絵本をカバンにしまった。

 ミクは後ろを振り返り、車窓から外の景色を眺めることにした。

 

 「もうすぐかな~」


 まだお昼を過ぎたばかりなので、外は日差しが強く、ぽかぽかと暖かそうだった。

 車窓越しに民家や田んぼがゆっくりと過ぎ去っていく。

 遠くには、屹立する山々が見渡せた。

 すぐに外の景色にも飽きてしまい、ミクは前を向き直した。


 (何をしようかな?)


 と右手の人差し指で頭をトントンと叩きながら考えていた時、麦わら帽子のおばあちゃんが顔をニコニコしながら話しかけてきた。


 「お嬢ちゃんは何歳だい?」


 ゆっくりとした口調で麦わら帽子のおばあちゃんいった。


 「7才だよ!」とミクはいい、

 「おばあちゃんは何歳?」


 とミクは訊き返した。


 「もう忘れちゃったねー」

 「長いこと生きてるからねー」


 昔を懐古するように温かい目で、麦わら帽子のおばあちゃんはいった。


 「そうだ、お嬢ちゃん」

 「この近くに、妖怪の森があるのを知ってるかい?」


 急に思い出したかのように、麦わら帽子のおばあちゃんはいった。


 「しらなーい」首を横に振りながらいい、

 「え!妖怪さんがいるの?」


 目を輝かせながらミクはおばあちゃんに訊いた。


 「もう何十年も昔のことさー」

 「もういないかもしれないねー」


 温かい目で向けながら笑顔で麦わら帽子のおばあちゃんは優しくいった。


 「信じていれば会えるかもねー」

 「うん!」

 「みく、信じるね~」


 元気よくミクはいった。

 ちょうどその時、電車が駅に着き、ゆっくりと扉が開いた。

 麦わら帽子のおばあちゃんは立ち上がって、ミクに笑顔を向けながらその駅を降りていった。

 扉はゆっくりと閉まり、車内にまた静けさが戻る。

 電車はゆっくりと出発し、少しづづスピードを出していく。

 一定のスピードに達した頃、ミクはまた暇になった。

 仕方なくカバンから絵本を取り出して読みはじめることにした。



 読みはじめてから時間が経過し、、、

 絵本を読み終えた頃、おばあちゃん家の最寄り駅に電車は着いた。

 電車から降りて、次の駅に出発していく電車にミクは手を振りながら見送った。

 駅はのどかなで静かな心地良い所だった。

 ミクはその場で両手を横に広げ、目を瞑ってみることにした。

 どこかに張り付いて鳴いている寒蝉、群れをなして自由に空を羽ばたいている鳥が目を瞑っていても感じられた。

 ゆっくりと目を開いて、今度は駅の周りを見渡すことにした。

 界隈に、大きな向日葵の花畑が広がっていたのにミクは気がついた。

 

 「きれ~い」


 向日葵の花畑に見とれながらミクは呟いた。

 たくさんの向日葵は風に靡いて、右に左にゆらゆらと揺れていた。

 向日葵の一本一本がまるで生きているかのように感じられた。

 

 「あ、早くいかなくちゃー」


 ミクは長いことその光景に見惚れてしまった。

 どこにいても目を瞑れば、瞳の裏に向日葵の花畑が浮かぶように感じられた。

 よし!と心の中でいい、ミクは改札へ向かった。

 

 「えーと、切符どこだっけ?」


 改札まで来て、スカートのポケットを手あたり次第突っ込んでゴソゴソとミクは切符を探していた。

 50代くらいの男性駅員さんが、焦らなくていいよと優しく声を掛けてくれた。

 まだポケットの中をゴソゴソと探していると、

 

 「みくちゃん」


 改札の向こう側で、おばあちゃんが笑顔で手を振っているのが見えた。


 「あ!おばあちゃーん!」


 ミクは笑顔を浮かべ、ようやくポケットから切符を見つけて、駅員さんにお礼をいい改札を出た。

 そして、勢いよくおばあちゃんに飛びついた。

 

 「あら、みくちゃん。元気にしてた?」

 「疲れたでしょう?」


 ミクの頭を撫でながらおばあちゃんはいった。

 洋服から、大好きなおばあちゃんの匂いが漂ってくる。

 おばあちゃんは、ミクにとって優しくて自慢のおばあちゃんだ。

 特におばあちゃんの笑顔がミクは大好きだった。


 「うん!げんきだよ!」

 「つかれてない!おばあちゃんはげんきだった?」


 ミクは上目づかいでおばあちゃんの顔を覗き込んだ。


 「私は元気よ」

 「さあ、おうちに帰りましょうか」


 笑顔で優しくおばあちゃんはいった。


 「うん!!」


 元気よく返事をして、おばあちゃんと手を繋いで歩き出した。


 「みくちゃん、お夕飯何か食べたいものはある?」


 おばあちゃんが歩きながらミクに訊いてきた。


 「みくねー、おばあちゃんの料理おいしいからなんでもいいよ!」


 おばあちゃんの顔を見ながらミクはいった。


 「あら、おばあちゃんうれしいわー。じゃあ、今夜はご馳走にしましょ!」

 「うん!やったー」


 満面の笑みを浮かべてミクはいった。

 鼻歌を歌いながら、田んぼと車道に挟まれた歩道をおばあちゃんと歩いていった、、、


 ♦

 ♦

 ♦


 あれから10分ほど経ち、ミクはおばあちゃん家に着いた。

 おばあちゃん家に着いて、玄関で靴を脱いでいる途中だった。

 玄関にはたくさんのサンダルや長靴、下駄が綺麗にそろえられている。

 近くには大きな靴箱があり、その上には木製の熊の置物が置かれていた。


 「みくちゃん、おやつ食べたい?」


 靴を脱ぎ終えた頃に、まだ戸口の外にいたおばあちゃんが訊いてきた。


 「うん、食べるー!」と笑顔でミクはいい、


 家に上がると、40メートルほどの渡り廊下がまっすぐに広がっていた。

 すぐ左側には2階に続く階段があり、右側は行き止まりだった。

 

 ミクは座敷へ向かうため、渡り廊下を歩いた。

 渡り廊下の真ん中まで来て、左側の戸をミクは開けた。

 そこが座敷だったからだ。


 「先に、ちゃんと手洗いと嗽を済ませてねー!」


 座敷と戸を開けたとき、大きな声でおばあちゃんがいった。


 「わかったー」


 と玄関で靴を脱いでいるおばあちゃんにいい、渡り廊下の突き当りにある洗面所に向かった。

 洗面台で手洗いと嗽を済ませ、座敷の前まで戻った。

 座敷に入ると、机や座布団、襖、障子、テレビ、キャビネットの上には家族で水族館に行った時に撮った写真が飾ってあった。

 ミクはカバン置いて、脚を伸ばしながら座布団に座った。

 座敷は静まり返っていて、古時計がカチカチと振り子を左右に揺らせながら動いていた。

 障子の隙間からは庭が見え、薄桃色のブットレアにアゲハ蝶がとまっているのが目にとまった。

 その光景を瞬きを忘れるくらいにうっとりとミクは眺めていた。

 その光景に見とれていると、お盆におやつと飲み物を載せておばあちゃんがキッチンからやってきた。


 「先に食べてていいわよ」


 とお盆からおやつと飲み物を机に置きながらおばあちゃんはいい、お盆をキッチンに戻しに行った。

 おやつはお煎餅ともみじ饅頭で、飲み物はオレンジジュースだった。

 もみじ饅頭は、ミクの大好物の一つだ。

 おばあちゃんも大好物だといっていた。


 キッチンから戻ると暖かいお茶を両手で持って、おばあちゃんが座敷に戻ってきた。

 

 「あら、食べなかったのね」

 「うん!おばあちゃんまってたのー」


 とミクはいって、おやつをもぐもぐと口に頬張った。

 おばあちゃんが戻ってくるまで待っていたのだ。


 「みくちゃん、美味しい?」


 お茶を飲みながらおばあちゃんがミクに訊いた。


 「うん!おいしい!」

 「みく、もみじ大好きだもん!」


 ミクは満面の笑みでいった。


 「それはよかったわ」

 「まだキッチンにたくさんあるからね」


 キッチンの方を一瞥しておばあちゃんはいった。


 「うん!」とミクはいい、


 コップを持って、オレンジジュースを一口飲みこんだ。

 お煎餅を食べようと手を伸ばした時、障子に黒いシルエットが現れた。

 障子の向こうの縁側に何かがいるようだった。


 「あら、お客さんが来たみたいね」

 「おやつのにおいを嗅ぎつけたのかしら」


 微笑みながらおばあちゃんは立ち上がり、障子の戸を開けた。


 「あー!マイケルだー!」


 黒いシルエットの正体は野良猫のマイケルだった。

 毛並みが真っ黒で瞳が黄色く透き通っていて、鋭い目つきをした猫だ。

 おばあちゃんに懐いている猫で、よく縁側に日向ぼっこに来る。


 「ミルクを持ってくるわね」


 おばあちゃんはそういって、もう一度キッチンへ向かっていった。

 ミクは立ち上がり、縁側に座っているマイケルを撫でることにした。


 「マイケルげんきにしてたー」撫でながらミクはいった。

 「にゃ~」と欠伸をするかのようにマイケルは鳴いた。


 少しいてキッチンからおばあちゃんが戻ってきて、マイケルにミルクを与えた。

 小さな舌を使って、マイケルはミルクを美味しそうに飲みはじめた。


 ミルクを飲むマイケルを眺めていた時、ピンポーン!とインターフォンが家中に鳴り響いた。


 「だれかしら?」

 「ちょっと、でてくるわね」


 おばあちゃんは一言いい、玄関に向かって行った。

 あっち行ったり、こっち行ったりと忙しそうにしていて、ミクはおばあちゃんが心配になった。


 「うん!」


 マイケルを撫でながらミクはいった。

 マイケルを撫でながら縁側の先に広がる庭を眺めた。

 庭の奥には大きな森が広がっているのが縁側から見えた。

 庭には小さな池があり、金魚が口をパクパクとしていた。

 どうやら呼吸をしているようだった。

 池の近くには大きな八重桜が一本突っ立っていて、春になると綺麗に咲き誇る。

 毎年、春が来ると、八重桜の下で家族で花見をするのが恒例になっている。

 

 ミクが庭を眺めているとマイケルはミルクを飲むのをやめて、縁側から庭へぴょんと飛び出した。

 ゆっくりとを歩いていく、マイケルをミクは目で追った。


 どこかに向かって歩いて行くマイケルをミクはずっと眺めていた。

 その時、ミクは八重桜で目をとめた。


 

 八重桜の幹に身体を隠して、、誰かがこちらを覗いていた、、、、、


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ