運命はいつでも残酷で
打ち付ける雨と風の強さに体が悲鳴を上げても。
抱えた生命の重さに腕が軋みを上げても。
離すものかと。
この人を離してたまるものかと。
ただただ必死に、貴方を抱きしめていることしか出来ずに
そうして気が遠くなる程何時間も経った後に
ようやく嵐は止んだ。
ホッとしたのも束の間で、徐々に冷えて呼吸がゆっくりとなっていく彼に気付き、慌てて私は陸へと泳いだ。
お願い間に合って。
彼をどうか誰か、救って。
祈りながらようやく着いた岸辺に彼の体を横たえると、白く生気のない頬を見て体から血の気が引くのを感じた。
ああ、人間とはこんなにも弱いのか。
愛しい人の生命の灯火が消えようとしている。
私はこんなにも愛しい人の命を救うことも出来ないの。
気付けば頬を濡らした涙が滑り落ちて、彼の額に落ちる。
もう、二度と叶わなくてもいい。
瞳を交わすことがなくても、言葉を交わすことがなくてもいいから。
だからお願い、生きて。
生きていて。
そう願ったその時、誰かの足音が砂浜を軋ませる音がした。
誰かが来てくれたとハッとして、私は慌てて岩場に隠れた。
お願い気付いて。彼を助けて。
その祈りが通じたように
「王子!しっかりして下さい!」
走って来た女性が、彼を抱き上げ連れて行ってしまった。
ああ、よかったと。
彼はきっとこれで助かったと。
ただただ安堵に満ち溢れて溢れる涙をそのままに私は泣いた。
それが、悲しみの始まりだとも知らずに。