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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
8/40

7 最後のプチ贅沢(※晩餐にあらず)とダンジョン作成



 そんな祈りが通じてか、なにごともなく朝を迎えることができました。

 うん、ちょっと自分でもフラグ臭いことを考えてしまったとか思わないでもない。あれですね、暗い中で考え事をするのはよくないということですよ。

 具体的には、夜中に書いた日記とか二次小説とかキャラ設定とかな! 朝読み返して顔真っ赤にしてゴミ箱にダンク! を何度体験したことか!


 余計なことまで思い出してしまったせいでベッドの中でのたうち回り、ギンとヤシチにぎょっとした目を向けられてから起き上がる。

 お早う~、別にどっかおかしくなったわけじゃないからそんな心配そうな目で見ないで。

 匂い嗅ぎながら一生懸命ぺろぺろしなくていいからね、ギン。ヤシチもなにかの呪いが!? みたいな感じで飛び回らないで。


 窓を開けたら、身支度を済ませて朝の食事の準備。もう竈にもすっかり慣れて種火を残しておく余裕までありますよ。さっさと食事を済ませたら後片付けをして外へ。

 ダンジョンの解放まで残り一日ちょっと。今日のうちにやっておくべきことは多々あるのです。




 ギンとヤシチにはいつものようにカマキリ先生の特別集中授業に向かってもらって、草原で思い思いに過ごしている(はずの)トンボ君たちを〈伝達〉を使って呼び集める。

 なにしろ広すぎて草原のどこにいるかわからないからね! ちなみに〈伝達〉のスキルは、一度使うと集中が切れるまで持続することが可能だ。同じ内容ならメールの一斉送信みたいな感じで、複数の相手に指示を送ることもできる。


 しばらく待つと草原のあちこちから、こちらに向かって飛んでくるトンボ君の姿が見える。夜の間ゆっくり休むことができたのか元気いっぱいだ。


「お早う~、今日もよろしくね!」

 目の前の草地にぴしりと整列したトンボ君たちに声をかける。六体ずつの縦二列。昨日の特訓の成果だ。

「今日はスピード測定と最大飛行距離の測定を行います。ちょっとハードに行くから覚悟して臨むように。それでは第一小隊、前へ!」


 ちなみにどのトンボ君がどのチームとかは特に決めてません。

 第一小隊という呼び名もこの場のノリです。なのに、すかさず三体のチームを組んでくれるトンボ君、実はけっこう頭がいいのではなかろうか。



 それから数時間、チームを組んだ状態や個体ごとに能力測定を行った結果、トンボ君たちの最大速度や最大飛行距離などが判明しました。


 あ、測定にはカウントダウンの数字及び階層の広さ(半径1㎞)を利用してます。

 特に位置を指定してなかったため、小屋(というかダンジョンコアのある部屋)は階層のほぼ真ん中にある。階層の端まで行ってループして戻ってくれば2㎞になるという寸法だ。

 トンボ君たちの最大速度はおよそ120㎞/時。最大飛行距離は最高速度だと2㎞弱。

 なお巡航速度(80㎞/時くらい)の場合は測定不能でした。2㎞のコースを何周してもケロッとしてるのですよ……さすがはモンスター、恐るべき体力だ。


 そのあと私も〈視野借用〉のスキルを使ってトンボ君の視野を借りる練習。

 最初は慣れないせいか、自分の視界そのものがトンボ君の視野になって(ほぼ360度が魚眼レンズみたいになって見える)混乱したりもしたけど、次第に見える範囲を絞って、視野の中で自由に視点を移動させられるようになった。方向転換可能なカメラ視点、といった感じだ。


 練習しているうちに、複数のトンボ君の視野を借りることも可能に。

 頭の中に複数の視界があって混乱する……と思ってたらウィンドウにトンボ君の視野を表示することができました。

 相変わらず、妙なところで便利な機能付きだなウィンドウ! でもできるならできると最初から説明して(以下ry


 あと、スキルの使い方を覚えたり工夫したり色々やっているうちにもう一つ、ウィンドウの便利機能を発見しました。……作成済みのモンスターがダンジョンのどこにいるか表示できます。ついでにダンジョン内の構造や配置した構造物も。

 そういえばあって当然だよね、ダンジョンマップ。むしろないほうがおかしいよね! どうして今まで気づかなかったのか不思議なくらいだ!


 蜘蛛教官がフィールドをうろつこうと、トンボ君たちがどこへ行こうと別に心配する必要はなかったという……うん、いいんだ。トンボ君たちはともかく蜘蛛教官はいきなり出会ったら心臓麻痺の危険があったし。

 というか命令不能だから普通に襲われる危険もあるし。本格的にダンジョンを作る前に気づいてよかったと思うことにしとこう。


 うっかりどころでないミスであることには変わりないけどな!

 ……ダンジョンを解放する前に、もうちょっと本格的にウィンドウの機能を確認しとこうと思います。



 というわけでトンボ君たちの性能掌握やスキルの練習を切り上げたあと、ウィンドウを展開してあれこれ試行錯誤。やっぱり色々な機能を見落としておりました。というか、「こういう機能が欲しい」という私の思考に反応して色々増やしてくれることが判明。


 そういえばウィンドウ自体が、イメージではわかりづらいと思った私の思考に反応して出てきたものだし……ウィンドウを作ったのはもしかしたら私自身かもしれない。このウィンドウはワシが作った!(ドヤァ

 だったら、多少ポンコツでもまったくおかしくないと思えるのが不思議なところだ。


 そしていつものように気がつくと日が傾き始めており、カウントダウンの数字を見て慌てて小屋へと戻る。ギンたち? とっくの昔に訓練を終えて私の側で思い思いにくつろいでおりましたがなにか?

 無理はしないように厳命してあるので、最近は回復薬のお世話になることもほとんどなくなってる。皆無とは言わないけどね。特にギン、というか確実にギン。




 小屋に戻ったら夕食を摂ってあとは寝るだけ……なんだけど、今日はほんのちょっぴりだけ贅沢をしました。うん、ダンジョン解放までもう残り一日を切ってるわけですし。

 解放したらどんなことが起こるかもわからない。何事もないのが一番だけど、とんでもないレベルの厄介事がいきなり発生する可能性も決してゼロではない。


 そんなホットスタートは絶対にご免だし、それを回避するためになけなしの知恵を絞ってるけど、想定外の事態というのは常に起こりうる。

 いや、起こりうる事態を想定するための情報そのものが決定的に足りていない状況だ。


 なので、今日まで頑張ってきた自分へのご褒美と、明日以降の鋭気を養うという意味も込めてのプチ贅沢。最後の晩餐、なんて言葉が頭をかすめたけど即刻却下で。

 ええ、そんな意味はまったくないのです。もちろんパインサラダなんて作ったりはしないのです!



 小屋に入って手を洗うと、DPを使って『ジャガイモ(30㎏):1p』を作成。

 場所は食料庫の中にしておいた。塩はともかく、布の塊を移動するのにはちょっと苦労したからね!

 空の木箱が入っていたせいか、ジャガイモは袋入りではなく箱に入った形で現れる。

 うん、普通にジャガイモの形。『異世界の』などという語句が付いてなかったのでちょっとだけ身構えたが、私の世界のジャガイモと同じものと考えていいみたいだ。


 メークインというよりは男爵に近い形をした芋を、小さめのナイフを使ってするすると皮を剥いていく。

 明日の朝食の分を考えても七、八個あれば十分かな。皮を剥いて芽を取った芋は軽く洗って食器棚から取り出したザルの中へ。

 そして竈の火をおこしてから朝のうちに洗っておいた鍋に水を張って火にかけ、皮を剥いたジャガイモと適量の塩を投入。


 ジャガイモが煮えるのを待っている間に、もう一度DPを使って『植物油(20l):1p』と『ランプ(鉄製):1p』を作っておく。

 照明代わりの鍋は使用中だし、できればこのまま調理器具に復帰してもらいたいので専用の照明器具を作成することにしました。

 『照明器具(破壊不能・永続使用):10p』とのどちらにするか迷ったけど、とりあえずはDPを節約しておくことに。油だったら料理にも使えるし! ……フライドポテトができるな、じゅるり。



 一瞬誘惑に駆られそうになりながらもなんとか我慢して、ランプに火を入れ……ようとして油を移す道具がないことが判明。

 ああやってしまった……どうしようかと考え、当面はお玉を代用。

 あ、油は厚紙を口に被せて紐でぐるぐる縛って固定した、小さめの甕に入った形で出てきました。


 慎重にランプに油を移して、細く切った布を灯芯にして準備完了。

 火を付けるのはもう少し暗くなってからでいいので、ぐらぐら煮立っている鍋の中の芋の硬さをフォークで刺して確認し、十分煮えたところでザルの中にお湯ごとあける。

 ほかほか湯気を立てている芋を皿に移したあとで、肉の塊を取り出してきて昨日までよりも若干少なめにカット。食べやすい厚さに切ってから火にかけたフライパンで炒め、塩を振って皿の空いている部分に移す。



 残りの肉を切り分けてギンとヤシチのお皿に盛れば、夕食の支度は終了……っと、もう一つ今日のプチ贅沢があったのでした。


 ウィンドウを立ち上げて『リンゴ(10㎏):1p』と『リンゴ酒(上質:10l):1p』を作成実行!

 食料庫の中の箱の一つがリンゴで埋まり、油の甕の隣には一回り小さな樽が現れる。蓋についた木の栓を開けてみると、ふわりと漂う芳醇なリンゴの香り。これはたまりません!

 取り急ぎ薪を固定具代わりにしてテーブルの上に樽を置く。栓は閉めて横向きに。


 食器棚から取ってきたコップを注ぎ口にスタンバイさせて栓を抜けば、勢いよく出てきたお酒が音を立ててコップの中に溜まっていきます。

 もちろん溢れさせるようなもったいないことはせず、適当なところで栓を閉める。


 箱の中のリンゴを一つ取り出してみれば、真っ赤に熟して皮がぱんぱんに張っている。スーパーでよく見かけるリンゴに比べると少し小ぶりだけど、手に取った感じではそれほど硬くはないみたい。


 リンゴとお酒のコップを両手にうきうきとベッドの前へと移動。コップとリンゴだけラグの上に置いてとって返し、自分とギンとヤシチのお皿を持ってラグの上に上がる(もちろん靴は脱いで)。学生時代にレストランで働いてた頃に覚えた三枚持ちが大活躍だ。

 と、ここで部屋が暗くなってきてるのに気づき、皿を置いてからランプに火を入れて持ってくる。



「いただきまーす!」

 両手を合わせてから久方ぶりの肉オンリーではないご飯を食べ始める。


 うう、ジャガイモが美味しい。蒸かしたほくほく感はないけどしっとりした食感と塩味が相まって最高です。いつもの焼いて塩だけ振った肉も芋と一緒だと進む進む。

 合間にコップのリンゴ酒を一口含むとほのかな酸味と鼻に抜けるリンゴの香り、さっぱりとした甘さが口全体に広がってもう幸せとしか言いようがない!


 気がつくとお肉と芋は皿から綺麗さっぱり消え去っており、コップのリンゴ酒はすでに三杯目となっておりました。お酒を汲みに台所まで二往復した記憶がおぼろげに。

 あ、お酒に関してはほとんどザルなので酔って記憶が飛んでいたわけではありません。そもそもそんなに度数高くないし。ちょっと度数高めのシードルといったところだ。


 だけど明日のこともあるし、泥酔するのは(アルコール度数的には一樽開けても平気そうだけど)避けたいので、ペースダウンすることにしてリンゴをかじる。

 他に誰もいないのに皮を剥いたり切ったりなんて手間はかけませんよ? 新鮮なリンゴは余計な手間をかけたりせずに丸かじりするのが一番だ! 農薬やワックスの心配なんてする必要もないだろうし!

 カリッと音を立ててかじりついたリンゴはちょっと硬めの食感で、噛み締めると口の中いっぱいに甘酸っぱさと花のようなリンゴの香りが広がる。うう、久しぶりの甘味だ!

 お菓子が食べたいなんて欲求は冥王星の向こうまで吹っ飛ばされました。フルーツ最高!


 瞬く間にリンゴを食べ終わり、残った芯をジャガイモの皮を包んだ布に一緒に入れておく。そういえばこれまで生ゴミが出ることはなかったけど、捨てる時はどうしようかな……小屋の外に穴でも掘って埋めておくか。スコップはないけど、ギンに頼んだらきっと嬉々として穴を掘ってくれるに違いない。


 なんて考えながら、台所に行ったついでにまたリンゴ酒を一杯。いやいや、呑み過ぎはよくないからここらあたりでセーブしときますよ……と思いつつ、気がついたらもう一杯。ギンが興味津々でリンゴ酒のコップを見てるけど、わんこにアルコールは厳禁らしいので当然ながらあげません! というか私の分が減る!!

 ヤシチははらはらした感じで口を半開きにして私を見てるけど、大丈夫だよ。私ワインならフルボトルで五本空けても翌日ケロッとして仕事に行けるタイプだし。


 ……ふわふわしたいい気持ちでベッドに入るまでに、結局何杯のお酒を飲んだのかは覚えておりません。ただ、翌朝確認した樽の重さがずいぶん減っていたことだけは確かだ。




 夢も見ずにぐっすり眠って、気持ちよく目を覚ました翌日の朝。

 二日酔い? 知らない子ですね。私の人生において酒でダウンした記憶など片手の指で数えるほどしかない。ええ、皆無とは言いません。世の中には上の上を行くバケモノというものが存在するのだ。


「ん……え? のわああああああっ!? なんでこんな時間!?」

 ただし、気持ちのいい朝だったのはカウントダウンの数字を確認するまでで、ウィンドウを表示して片隅の数字を見た瞬間思わず絶叫しておりました。



 『0:04:18:44』


 残り五時間切っちゃってるよ! というか私何時間寝てた!? 久しぶりに十時間オーバーの睡眠取っちゃってましたか!? よりにもよってこの日に!?


 ま、まあ落ち着け……大丈夫、寝ている間にタイムリミットを迎えたわけじゃない。ほんのちょっと寝過ごしてしまっただけのことよ。久方ぶりに呑むお酒が美味しすぎたのが悪かったのだよ。

 だからといって寝坊した事実が消えるわけじゃないが、過ぎたことを嘆いても失った時間を取り戻せたりはしない。はい、切り替え完了! 頭抱えてないでさっさと行動!!


 いきなり飛び起きて絶叫した私に、首をもたげた姿勢で固まっていたギンとヤシチを尻目にベッドから下りる。ごめんと声をかける余裕も今日はない。走って台所に向かって顔を洗ってから大急ぎで朝食の支度。

 ああ、昨日茹でたジャガイモの残りがあってよかった! 昨日の晩洗い忘れてたお皿を大急ぎで洗って、ギンたちの肉と自分の分のジャガイモを盛る。


「ごめんね、寝坊して! あとさっき驚かせたのも!」

 ギンとヤシチに声をかけながらパジャマを普段着にチェンジ。着替えが一瞬でできるというのはこういう時本当にありがたい。ラグの上に座って大急ぎで朝食を摂り、靴を履いて小屋の外へと出て行く。



 今日はカウントダウン最終日。私がここへ来てから十日が過ぎ――ダンジョンの解放を行わなくてはならない日だ。



 太陽はもう地平線から大分離れており、草原にはぽつりぽつりと自由行動中のトンボ君たちの姿が見える。日差しを受けて白く輝くのは蜘蛛教官とカマキリ先生の部屋。ふり返ると後方には今出てきたばかりの小屋がある。


 草原を渡る風を受けながら、軽く深呼吸。大丈夫、ちゃんとここまで準備はしてきた。

 側に立つギンとヤシチの姿を見やる。どっちも昨日でレベルが一つ上がってレベル8。解放までにさらにランクを上げることはできなかったけど、十分頼もしい護衛に育っている。



 ウィンドウを立ち上げてまず行うのはダンジョン作成プランの最終確認だ。画面に映し出された完成イメージと必要なDPを目を皿のようにして確認する。


 ダンジョンの入口は10×10メートルサイズの部屋。中は岩をくりぬいた洞窟風で、床には2×2メートルの階段の入口が開いている。

 階段を下っていくと20×20メートルの広さの小ホールに出る。ここには5×5メートルの廊下の入口と、あと2×3メートルくらいの縦長のモニュメントが置いてある。こちらも入口と同じく天然の洞窟っぽい見た目で、壁や床、天井などの各所が某劇場アニメの飛○石の鉱脈っぽい感じで薄く光っている。


 モニュメントは白っぽい石でできており、神社や史跡などで見かける自然の岩に適当に手を加えたような形状だ。一面だけ真っ平らに削って、適当にルーン文字っぽい文字にも模様にも見えるようなものを刻んでおいた。


 廊下はほとんど直線と変わらないくらいゆるやかな弧を描きながら、これまたそうと気づけないほどの傾斜で下へ下へと向かって伸びていく。

 一定の深さに達したら、今度はほんの少しだけ(それでも相当ゆるやかな)カーブと傾斜の上り坂へ。延々と続く廊下を抜けたところでようやく大きな部屋に到着する。


 ――その総距離、なんと1000キロメートル!


 昔の偉い人は言いました、「距離に勝る防壁はなし」と! あ、いや昔の人じゃなかった。作中から見れば昔の人でも私から見たら遠い未来の住人だ。しかもフィクションの世界の。

 ともあれ、この1000キロの廊下が私のダンジョンの第一の防壁になる。はるばる1000キロ越えてやって来られるもんなら来てみやがれ!


 もはやダンジョン攻略というよりも交易とか冒険とかの類で使用されるような数字だ。

 なお、らせん状に下って上る形になっているのは、ダンジョンの領域にできるのは半径1キロメートル以内という制限があるためです。



 廊下の先にある大部屋は、100×100×20メートルとかなりの広さだ。

 壁は自然石でできた六角のタイルに一面覆われ、部屋の形は外周400メートルの円筒形(円盤形といったほうが形的には近いけど)。

 入口からまっすぐ奥に進んでいくと、突き当たりには高さ5メートルもの巨大な扉がそびえている。


 この扉には鍵が掛かっており、開くには入口の下の部屋にあるモニュメントが必要。

 ええ、2×3メートルのあのモニュメントですよ。ちなみに花崗岩でできており、その重量はおよそ15、6トン! これも持ってこられるもんなら持ってきやがれ! です。

 先程の言葉を借りて言うなら「質量に勝る武器はなし」といったところだ。


 仮に扉を開けることができたとしても、そこから階段(これも地味に1キロあったりする)を上っていった先にはもう一つ別の扉がある。

 こちらの扉は1×2メートルの標準サイズだけど、当然ながら鍵付きだ。


 この扉を開ける鍵は、手前の大部屋の壁を覆っている六角形のタイル――の中に紛れ込んでいる1000枚のパネルだ。

 部屋に入るとパネルのうちの一枚だけが外れるようになり、部屋の外に一度出てからパネルをもとの場所に戻すと、別の場所のパネルが外れるようになる(一度戻したパネルは1000枚すべてが外れるまで壁から外れなくなる)。


 で、扉を開けるためには1000枚のパネルをすべて外して、扉に付いている六角形の窪みに嵌める必要があるわけだ。

 一度に一枚しか外すことはできないから、1キロメートルの階段を千回往復して。……うん、我ながら性格の悪い仕掛けだとは思うけど、最悪命がかかっている状況なんだからこれくらいは当然だよね!


 ……この1000枚のパネルの裏に、一枚一枚区別が付くように模様を付けるのが地味に面倒くさかったです。なにしろ1000枚だし。

 模様を考えるにしても重複があったら嫌なので、結局図形や絵ではなく一から千までを漢数字で刻むことにしました。この世界で日本語が通用するかは知らないけど、知らない人には謎の模様にしか見えないから問題ない。



 もしも仮に、この仕掛けを突破して扉を開けることができたら、その先はもう私のいるダンジョンの地下一層だ。ダンジョンコアのある地下室から一番遠くなるように、階層の端っこに出口を設置してはあるけど途中に遮るものはなにもない。

 だから侵入者が1000キロの通路と二つの扉を突破できた時点で、私にはもうギンたち護衛モンスターを頼る以外に身を守る術はなくなる。


 ただ、ここまで到達できる存在がいた時点で他のどんな罠も仕掛けも無駄という気はする。大人しく諦めるつもりは毛頭ないけど、知恵を絞るにいいだけ絞って考えたここまでの仕掛けで駄目なら、もう他に有効な手段は私には思いつきそうにない。

 うん、その時は必死の抵抗で粘れる限り粘って、どうしても生き延びられそうになかったら一矢報いるなりしてあの世にエスケープしてやる!


 ……あと、そうだ。忘れてたけど地上の入口の周囲半径1キロメートルは、地上一層という形でダンジョンの一部になっている。


 ただ領域にしてあるだけでなんの手も加えてないけど、ダンジョンに含まれているためマップに表示することができるのだ。それも領域内に存在する生物の位置データも含めて。

 これがどういう意味を持つのかというと、要するに入口を中心にした半径1キロメートルはダンジョンの外に出なくてもどこに生物がいるのかわかるということ。

 もしも領域の外から侵入してくる生物がいればその場所も。つまり天然の警戒網を敷けるということなんです! だったら地上部をダンジョンに含めないなどという選択肢などあり得ませんよ!


 おまけに地上部に存在する生物は私が作ったわけではないので、ダンジョンの侵入者という扱いになり、領域にいる間や領域外に出て行った時にはDPが入ってくる。

 地上部にどれだけ生物かいるかはわからないけど、微々たるものでもDPの収入源となってくれるならそれ以上嬉しいことはない。


 なにしろ今のところ、私のダンジョンは安全第一の防衛第一で侵入者を呼び込むような工夫など一つもしてないからだ。いったいどんな工夫をすれば、侵入者を呼び込めるのかもわからないけどね!




 じっくりダンジョンの設計をチェックしているうちに、気がついたら残り時間は『0:01:38:09』となっていた。

 ああ、心の準備もできてないうちから時間ばっかり着々と過ぎ去っていくよ!


 気持ちを落ち着かせるため、側で伏せのポーズになっていたギンをもふもふと撫でまくる。そういえばずいぶん大きくなったなぁ。

 今はまだベッドで一緒に寝ていられるけど、もう少し大きくなったらベッドからはみ出して落っこちそうだ。ああでも、そうなったらもの○け姫のごとく背中に乗せてもらって移動できるかも。


 なんてことを考えてたらちょっと落ち着いたので、ギンから手を離してヤシチに目を移す。地面から私を見上げるヤシチの顔はいつも以上にきりっとして、琥珀色の瞳に宿る知性の光も加わってとても頼もしい。本当に鳥とは思えないくらいだ。


 目をほんの少しだけ細めてクッ、と鳴いてみせるヤシチは「なにがあってもお守りするゆえご安心を」とでも言ってるよう。

 いい仲間持ったなぁ……とじーんとしてたら、でかい図体で割り込んでくるわんこが、じゃなくて狼が! もちろんギンも頼りにしてるから!

 できれば怪我なんてして欲しくないから特攻もどきの戦い方は改善して欲しいけど!


 ひとしきり二体(というか主にギン)とじゃれあってから、大きく息をついてウィンドウを立ち上げる。ここまで来たら腹を据える他にない。

 タイムリミットまではまだ二時間半くらい残っているけど、もう打てる限りの手は打ったのだし今更じたばたしても始まらない。


 なにか見落としはないか、まだ他にできることがあるのではないかと胸中で喚く自身の声をねじ伏せて、ウィンドウの作成実行の文字に手を伸ばす。


 うるさいのは内心の声以上に自分の心臓の音だけどね! 我ながら小心者だ。

 背中になんてびっしょり嫌な感じの汗をかいているし、気を抜くと手が震え出しそうなくらいだ。こんなに緊張したのなんて就職試験の面接の時以来だよ!


 大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫、と大丈夫がゲシュタルト崩壊を起こしかけるくらいの勢いで自分自身に言い聞かせ、干上がったような喉にごくりと唾を送る。


 ちょっと心を落ち着けるのに水でも飲んで来ようか。いや、むしろリンゴ酒のほうが……飲酒しながらダンジョン作成とか事故の予感しかしない!

 もちろん一杯や二杯のお酒で判断狂わせるようなことはないけど、飲酒事故を起こす人間は決まってそう言うんだ! ストップ飲酒運転! ストップ飲酒ダンジョン作成!!



 あっちこっちに錯綜する八艘飛びも顔負けの思考を強引に止めて、ウィンドウに表示されたままの作成実行の文字を睨み付ける。

 ええい、女は度胸だ!! 矢でも鉄砲でもジオイド弾でも持ってきやがれ畜生!!


 気合いを入れるというよりもはやヤケに近い心境で文字をタップし、最後の『はい』の一文字を押したのはそれから三秒後のことだった。




なお、主人公の酒豪度(100D1)は95。ダイスの導きによって女子力が削られ、残念度に上乗せされたもよう。

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