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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
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3 現実は非情なのでまずは戦力確保



 お早うございますグッモーニング。目覚めたら今までのことが夢だったんじゃないかと一瞬期待して、見知らぬ小屋の天井に期待を打ち砕かれました。

 私の人生で梁もむき出しの小屋の天井なんて見たことなかったからね! 高さ10メートルから落とした花瓶も真っ青の勢いで期待なんて砕け散ったよ!


 もそもそ起き出してベッドを下りたところで服装をチェンジ。

 どうでもいいけど、靴で歩き回っているところに裸足で下りるって抵抗あるよね。床全面が板張りで、靴脱ぎ場なんてどこにもないから仕方ないけど。

 ビジネスタイプのホテルにでも泊まっていると考えて我慢すべきか、それとも入口あたりを玄関にしてそこ以外土足禁止にでもするべきか。



 まだ半分寝ぼけている頭で台所に行って、顔を洗おうとしたところでタオルが見当たらないことに気づく。あと歯ブラシも。アメニティが不完全みたいですこのホテル。

 仕方ないので顔だけ洗って、水気を払ったあと着ているシャツで拭きました。ますます年頃の女子のすることじゃないけど仕方ない。

 言っておきますが、決して日常的にこういうことをやってるわけじゃないからね!


 顔を洗ったついでに口をゆすいで身支度完了。髪を梳かそうと思ったら櫛もブラシも見当たらなかったんですよ!

 仕方ないので手櫛で適当に整えたけど、日常的にお化粧までばっちりするようなタイプの女子だったら今頃発狂してるんじゃあるまいか。ええ、私は休みの日にはノーメイクで買い物でも映画でも行っちゃうタイプなので気にしませんが。


 そこで今更ながらに気づいたけど、ダンジョンの中にいる限りダンジョンマスターは食事も睡眠も必要ないみたいだ。

 必要ないだけで食べることも寝ることも(こっちは身をもって確かめた)できるみたいだけど。ではどうやって生命を維持してるのかというと、ダンジョンから魔力的なナニカが供給されているらしい。

 ウィンドウで表示できるようになっても、もともと私が持っていない概念なんかはエキサイティングな翻訳のままだ。


 まぁ入ってくるものがない以上出ていくものもないわけで、お風呂もトイレもダンジョンマスターには不要。

 歯磨きや洗顔もそこまで気にする必要はない。一応気分的なものはあるので顔くらいは洗うけど。あとトイレやお風呂が見当たらなかったのはそういうわけか、と内心で納得。

 小屋の設備を見た限り、文化レベルの問題で別棟(別売り)になっているのかと思ってました。これまでのパターンからも考えて。



 とりあえず材料も必要性もないので、朝食を摂ることは諦めて小屋の外へ出る。

 と、その前に窓を開けておくとするか。現代日本のサッシ窓に比べると窓自体が小さい上、覆いがそのまま庇となる形状なので部屋にはあんまり光が入らない。

 ベッドの側の窓一つ開けてある程度では、歩くのに支障はないけど正直言って薄暗い。


 窓を開けて覆いをつっかい棒で固定。このつっかい棒、金属でできてるんだけどけっこうな優れもので、輪っかで覆いに繋がっているため閉めた時は窓枠に載せておける。窓枠の外には開き具合に応じて何段かの留め具も付いているあたりが親切というか、芸が細かい。


 ちょっと感心しながら窓を最大限に開け、扉の閂を外して今度こそ外へ。

 太陽の位置はまだ低く、どうやら朝と言っていい時間のようです。グッモーングとか言って昼とか夕方だったりする恥かきプレイは避けられた。

 というか朝だよね? 方角間違えててうっかり夕方だったりするオチはないよね?


 なんとなく不安になって、出てきたばかりの小屋に戻って窓から見える太陽の方向を確認。昨日見たのとは反対の方角にあるのを確認して、ほっと胸を撫で下ろす。


 ふと思い出してウィンドウを呼び出し、隅っこに表示されているタイムリミットまでの残り時間を見る。

 『9:06:12:35』とな? ええと、つまり十五時間くらい寝ていたということかな?

 ……うん、昨日寝る時に確認するのを忘れてたけど、色々とやってた時間を計算に入れてもそのくらいは寝てる。


 寝過ぎだよ自分! 精神的にかなり疲れていたのはわかるけど、睡眠を取る必要も本来ならないのに十五時間爆睡って神経太いのにも程があるだろ! 『時間は有限キリッ』なんて誰の台詞だよ! もちろん私の台詞だよ!



 ……誰もいないところで一人で逆ギレ芸をやっても虚しいだけなので、粛々と本日の行動を始めようと思います。

 というか、胸中で一人漫才やってるとだんだん自分以外誰もいない寂しさが募ってきて……やめよう。ツッコミ求めてハリセンとか折りだしてしまいそう。



 とはいえ最初にやるのは、ダンジョン作成ではなく部屋の中から適当なフォークとか探してくることなんですが。

 別にスプーンでも可なんだけど、先が二股になった金属のフォークが見つかったのでそれを持って外へ。それから小さめのナイフも。


 小屋の前の地面で土がむき出しになっているところを探し、ナイフでちょっと地面を掘ってフォークを立てて作業終了。え、なにをやっているのかって? 太陽の位置を観測するための日時計(手抜き)を作ってるんです。

 カウントダウンの数字と照らし合わせてみれば、一日のだいたいの長さがわかるはずだ。

 まぁ、冷静に考えてみればカウントダウンは二十四時間方式で表示されてるので、一日二十四時間って公算が高いんですが。一応念のため。


 で、次にやるのはダンジョン作成のプランニング。これは時間がかかるので、小屋の中から椅子を持ってきて座る。

 小屋の中でやればいいのかもしれないけど、せっかくお天気もいいのだから(というかダンジョン内では普通雨は降らない)外で。決して部屋の中にいたらベッドの誘惑に負けるとか、竈を使ってなにか作ってみたい衝動にかられるとか、色々思い出して沈み込んでしまうとかそういう理由ではない。


 椅子の背もたれに背中を預けてつらつら考えること数時間。途中で腰が痛くなってきたので立って屈伸運動したり、眠気に襲われて小屋の見える範囲内で散歩したりしながら、頭の中で色々なプランを立てては検討していく。

 不明な点があればウィンドウを参照、筆記用具が欲しいな~、と思ったらメモ欄が出てきたのでそれも活用。


 そうこうしているうちにカウントダウンの数字が『9:00:05:01』となったので、慌てて立ち上がって日時計のもとへ。

 左端の数字以外がゼロになった時点で、落ちている影にナイフで印を付ける。


 これで明日の同じ時間(数字が左端以外ゼロになった時)に影の位置を見れば、間違いなく二十四時間かどうか確認できるわけだ。


 椅子に戻って作成計画の続きをやろうかと思ったけど、ちょっと集中力も途切れてしまったので気分転換も兼ねて別の作業へ移る。

 作業というか、決めかねていたことの決定なんですけどね。

 つまり、自分自身を守るための最低限の戦力をどう調達するか、ということだ。


 手段としては大きく分けて二つ。一つはスキルを身につけて自分自身を強化すること。

 DPを消費すれば特にトレーニングしたり血のにじむような特訓をしたりしなくても、そのスキルに見合った力を手に入れられる。

 もう一つは護衛専用のモンスターを作成して、そのモンスターに自分の身を守らせること。モンスターが倒されてしまった場合は無防備になるけど、直接戦わなくてもいいという利点がある。


 両方組み合わせるという方法もあるけど、DPには限りがあるからその場合はどちらも中途半端になりかねない。下手に欲張ってDPを分散するよりも、どちらかに絞って使ったほうが戦力確保としては効果的だろう。



 んー、と唸りながら空を見上げる。自分の趣味的にいうなら圧倒的に前者だ。

 それがモンスターであっても誰かに戦わせて自分は後ろで見てるだけ、というのはあんまり趣味じゃない。別に率先して戦いに行きたいわけじゃないけど、自分の身も自分で守れないような弱い存在でいたいとは思わない。

 ええ、今日日はヒロインだって戦うんです。むしろヒーローより強かったりするのが昨今のヒロインなんです。自分をヒロインと主張するつもりはこれっぽっちもありませんが!


 ただ、問題はリアルに命を落としかねない状況で、自分がためらったり足を竦ませたりすることなく戦えるか、ということだ。

 平和な現代日本に生まれ育った命がけの戦闘どころか喧嘩の経験だってろくにない人間が、スキルを得たとしてもどれだけ満足に戦えるのか。本気で殺そうとしてくる相手に咄嗟に対応できるのか。


 ……うん、正直自信がありません。というか平和ボケ日本人をなめるな。

 そんな状況に即対応できるのは、伝説の戦闘民族SATSUMA人か現代に生きるMIKAWA武士くらいのものだろう。

 となると必然的に、身を守る手段は護衛モンスターの作成に限られる。うん、ただ守られるっていうのは趣味に合わないから、お前に俺の命を預ける! くらいの熱い信頼関係を築いていくことにしよう。事実だし。



 決定を下したところで、思い立ったら吉日とばかりにウィンドウを立ち上げてモンスターの作成画面を表示する。ええ、ここまでいったら作っちゃいますよ!

 いずれ作ることになるのなら早いほうがいい、という方針は健在です。別に一人でいるのが寂しくなったわけじゃないからね! ただ話を聞いてくれる相手でもいいから欲しいとか、もふもふした生き物に癒されたいとか考えたわけでもないからね!


 今あるDPは34879ポイント。ダンジョンの作成で最低25000は使いたいし、情報収集のためにも5000は残しておきたいから、使えるのは端数分の4879ポイントが最大だ。

 これをフルに使用した場合、作れるモンスターのランクは最大で22。

 ゴーレムの上位種やゴブリンキング、ヴァンパイアなんかが該当する。ただし命令不可能なので作った途端プチッと殺される危険がある。なので論外だ。


 命令可能なモンスターだとランク的な上限は15。これは中位の精霊種や鬼種、アンデッド種なんかで、シルフ、オーガソルジャー、ワイトあたりが代表格。

 というか、あんまり末永くお付き合いしたいイメージじゃないんですが……もふもふしてもいないし。獣系のモンスターもいないわけじゃないが、毛皮が刃物だったり炎や氷をまとっていたり、別生物とのミックスだったりするのが大半だ。



 あとよく考えてみたら、護衛のモンスターを一体に限定してしまうのもちょっとリスキーな気がする。戦いは数、じゃないけど一体倒されてしまったらそこで終わりなのと、二体目三体目が控えているのでは安心感が全然違う。

 まぁ、まとめて一掃されてしまう可能性もないわけじゃないけど、護衛という目的を考えても複数のモンスターを配置するほうが合理的だ。

 護衛モンスターが敵と戦っていたら、流れ弾であえなく死亡なんて嫌すぎるし。


 となると、二、三体作るなら一体あたりに使えるポイントは二分の一か三分の一。だいたい1600ポイントくらいで……ランク的にはぎりぎり9に足りない。

 ランク8のモンスターとなると低位の精霊種やアンデッド種、やや強めの低位鬼種といったところ。みんな大好き不定形種のスライムもこのランクだよ! どう見ても鳥○デザインじゃなくウィザー○リィ式ゲル状生物のほうだけど。うん、絶対強敵のほうだろこれ。



 ちなみにモンスターのランクは大まかな強さを表したもので、レベルが上がったり上位種になったりしたら必ず1上がる、というわけじゃないらしい。

 ああ、レベルというのは個体の強さで、戦闘経験を積むことによって上がる。そのあたりはゲームなんかと同じだ。

 レベルが上がっていけば、そのうち上位種に進化したりするのも同じ。


 上位種になるとたいていはランクが上がるが、何段かすっ飛ばした上のランクに分類されることも多いらしい。スライムが進化してアシッドスライムになったら、いきなり倍の16ランクに分類されるようなものだ。

 実際は途中に何段階かの進化があって、それに応じたランクに分類されるみたいだけど。



 とまぁ、そんなモンスターの豆知識はともかくとして、問題はこれから作成する予定の護衛モンスターのことなんですよ。

 スライムも別に悪くはないんですが、もふもふの癒しの毛皮が……いや、必要とあれば毛皮にはこだわらないけどね! ゴブリンとかスケルトンでも平等に愛情を注ぐよ! いや、やっぱり無理かも……キモカワ方向で愛でるにしても限界がある。

 デフォルメなしのリアル造形がここまでの難敵とは思わなかった……ここまで来ると必要なのはキモカワを越えてグロカワを許容できる精神性だ。


 ウィンドウに表示されたモンスターの外見イメージ(再現度百パーセント)に内心ひそかにダメージを受けながら、ページをスクロールして作成するモンスターの候補を探す。

 もふもふなモンスターも探せばいないわけじゃない。ランク7のデザートウルフとか、フォレストベアとか。特にデザートウルフなんて、ふさふさした尻尾が好みにどんぴしゃだ。もうこれでいいんじゃないかな、と手が勝手に作成実行ボタンを押しそうになる。


 いやいや、もう少し落ち着いて考えよう自分。一時の衝動に身を任せて後悔するのは中学で卒業したはずだ。

 事後承諾で家に連れ込んだ子犬を、涙目(犬アレルギー)で見つめる父の姿を思い出せ! そのあとの里親探しの大変さもだ! 子犬のつぶらな目とか濡れた鼻とかははっきり思い出せるのに、父の顔だけがピンボケ状態で泣きたくなる。

 うん、なんかちょっと頭が冷えた。命を預ける大事な相棒のことなんだから、勢いではなくちゃんと考えて選ばないと。



 デザートウルフは体長1,8~2,5mの狼種で、毛皮は灰色~赤茶色。個体によってけっこう毛皮の色が違うらしい。

 俊敏性に優れ、耳も鼻も鋭敏。索敵も追跡も得意なレンジャータイプのモンスターだ。といって戦闘が苦手なわけではなく、爪や牙を使った攻撃の威力は高い。本来群れを作るタイプのモンスターのため、仲間と連携を取って動くのも得意。

 そのため〈斥候〉〈招集〉〈指揮〉〈挑発〉などといったスキルも持っている。


 ……ちゃんと考えた上でも、デザートウルフでいい気がするんだけど。

 索敵ができて戦闘力もあって協調性も高くてスキルも豊富。スキルに関してはもっと多く持っているモンスターもいるみたいだけど、〈挑発〉なんて完全に護衛向きのスキルだ。


 待て待て、どこに落とし穴があるともわからない。ランク7でも1000ポイントの高い買い物なんだから。

 1600ポイントに比べればお得ですよ~ と心にささやきかけてくる声が聞こえる気もするけど冷静に冷静に。5000ポイントで太陽が作れちゃうことを考えたら、簡単に使っていいポイントじゃないはずだ。


 そう、もっと少ないポイントで強いモンスターを手に入れられる方法があったりするのではないかと思うのですよ。

 確実にあると決まったわけじゃなくても、ないと決めつけて後悔するのは哀しすぎる。昨日梯子を作ったあとで、階段のDPを思い出した悔しさは決して忘れてはならないのです。



 というわけで、しばし沈思黙考。頭の中で可能性をいくつかリストアップし、その中で実現可能と思われるものを残していく。

 ウィンドウを立ち上げてモンスターの詳細を確認。そして最終的に一つの案をまとめる。


 つまり、ランク低めのモンスターを作成して、そのあとで他のモンスターを倒させてレベルアップさせる案だ。

 倒させるのは再生可能なモンスター。それなら一体分のDPで何十、もしくは何百体分もの経験値を手に入れることができる。

 再生モンスターでも、普通のモンスターと同じように経験値を獲得できるのはダンジョンの知識で確認済みだ。


 それで計算すると、例えばランク2のモンスターを育成するとして、本体の作成に100ポイント。同ランクの再生可能なモンスターの作成に200ポイント。

 何体倒せばレベルが上がるのかはまだ不明だけど、上手くすれば300ポイントの元手でそれ以上のランクのモンスターを手に入れられる可能性がある。


 もちろん必ず上手くいくという保証があるわけじゃない。レベルが上がれば同じモンスター相手では経験値が獲得できなくなるかもしれないし、そしたらもっと上のランクのモンスターを作る必要が出てくる。


 ただ、だとしてもランク3なら400ポイント。ランク4だと680ポイント。どっちか一つだけなら1000ポイント以内で収められる。

 それに一体だけでなく複数体のモンスターを同時に育成するなら、経験値用のモンスターは共用可能だ。それだと一体あたりの育成コストは半分ないし三分の一になる。



 ……うん、これはありかもしれない。ちょっと賭けに近いけど、少なくとも挑戦するだけの価値はある賭けだ。

 手早く強力な戦力が欲しいなら、素直に高ランクのモンスターを作るべき。

 だけど、ランクの低いモンスターを自分の手で育て上げるのにも夢がある。もちろん自分の命がかかっていることを忘れたわけじゃないが、この先のことを考えるならできる限りDPを節約したほうがいいのも事実。


 迷って迷って迷った末……決めました。これがもとで命を落としたとしても絶対に後悔しないという強い決意とともに。



 ウィンドウのモンスター作成画面を開いて、モンスターの名前を選択する。


 ウルフ(ランク2:命令可能・再生不可能・成長可能):100p


 迷わず作成実行画面に進んで、『実行しますか?』の文字を確認することもなく『はい』をタップ。DPの減りはわずかだったけど妙にはっきりと目に残る。


 真正面に集まってきた光は輝きを強めるのと同時にクリアな動物の姿を形作る。一瞬のあと現れるのは銀色がかった灰褐色の毛並み。たくましい足にしなやかな筋肉の付いた身体。ふさふさした尻尾にぴんと立った三角の耳。

 くり返します。ふさふさした尻尾に三角の耳。……ふさふさした尻尾に三角の耳!(大事なことなので三回言いました)



 飛びつきたい衝動に駆られるのを抑えて、もう一体モンスター作成画面から作り出す。


 ホーク(ランク2:命令可能・再生不可能・成長可能):100p


 同じ手順で生み出されたのは、褐色の羽を持つ体長50センチほどの鳥の姿だ。

 首から胸にかけて灰色で細かい縞があり、くっきりとした琥珀色の目に鋭いくちばし。しっかと地面を踏みしめているのは恐竜のような鉤爪のついた両の足。

 こちらも背中や翼、尾羽はともかくですね。首から胸、両足にかけての縞模様の部分がいかにももっふもふな感じの羽毛です。

 特に足。付け根あたりなんかもう袴でも履いてるみたいにもっふもふ。


 気がついたら一メートル程にじり寄っていて、たった今作り出したばかりの二体の姿が目の前にあって我に返る。

 いかん、初対面からこれじゃ単なる変質者だ。これから長く付き合っていこうというのに、いきなり威厳ゼロというか印象最悪になるような行動は避けたい。

 ふさふさやもっふもふを満喫するのは、ある程度仲良くなってスキンシップを嫌がられないようになってからでいいんですよ。

 ええ、その時は心ゆくまで思う存分もふもふ成分を堪能させてもらう所存!



 にまにましそうになる顔を表情筋を駆使して引き締めて、じっと私のほうを見ている二体に視線を合わせる。二体とも私の命令を待っているのか微動だにしない。お座りポーズで座っている狼も足踏ん張って立っている鷹も可愛い……じゃなくて。


「はじめまして。私が君たちのご主人様だよ」

 まずは挨拶。挨拶は大事。コミュニケーションの第一歩だ。それからえーと……ああそうだ名前! 名前を付けないと!


 なにかいい名前があっただろうか。狼の名前だと……ロボ? 悲劇的な最後しか目に浮かばない。キバ……というかこの色ならツメ? ちょっといまいち。

 モロ、だとものすごく巨大に育ちそうな気がするし、いっそジェヴォーダン……いやこれはさすがにマズい。狼じゃなくてあれはUMA、というか人を食い殺す最凶生物の類だし。

 女の子だったらアマテラスと付ける手もあったけど、デフォルトのまま作ったから雄だし。というか、よく考えたらモロも女性だったね……


 ちょっと範囲を広げて犬の名前とか。強そうな犬の名前……あ、あった! 毛色から見てもぴったりなのが。犬どころか狼よりも熊よりも強い、日本縦断して海まで渡ってしまう犬類最強男子の名前が!



「お前の名前は……ギンだよ!」


 私を見上げる狼の金色に光る目を見つめてきっぱりと名前を告げる。

 どこかの糸目の死神とも一緒だけど、強いことに変わりはないので問題ない。狼、じゃなくギンはふっさりと尻尾を振って応える。これはOKということだよね!



 次に鷹に向き直って名前を考える。鷹……の名前って思いつかないな。ファルコは人名だしそのまんますぎるし、ホークアイも同様。

 アズライール……は響きは綺麗だけど呼ぶのにちょっと抵抗がある。なんというか、そこはかとなく中二病的な気配が漂うというか。


 だったらいっそ鷹に限定せず、役割的なイメージで付けてみるとか?

 戦力として鷹に期待してるのは遊撃的な位置で、一番の強みは飛行能力を生かした機動性。あと偵察とか索敵の主力。攻撃は一撃そのもののダメージは少なくても適確に弱点を狙うシーフ型。攻撃手段は爪、クチバシ……

 ふっと頭の端っこをかすめたのは矢羽根のイメージで、そこから連想して一つの名前が出てくる。うん、役割的に悪くないんじゃないかな。



「お前の名前はヤシチだよ!」

 矢羽根から空を切る風車のイメージに繋がり、風車=弥七でヤシチとなったわけだ。


 鷹――ヤシチも不満はないようで、私を見上げたままクックッ、と鳴き声を返す。鷹の鳴き声ってこれまで聞いたことなかったけど、意外と高くて可愛い。

 うん、ばっさばっさと尻尾を振りながらこっちを見ているギンも可愛いけどね! うちの子最高! 親馬鹿というか主人馬鹿と言われようが本望です! もうなにも怖くない!


 そんな気持ちのおもむくまま、気がついたら二体に突進して両腕で全身抱え込んでもふもふしておりました。仲良くなってからという決意はなんだったのか……両者とも嫌がる様子がなかったのがせめてもの救いです。


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