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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
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1 現状把握からのジャンピングアッパー



 状況把握が(強制ダウンロードのおかげで)済んだところで、私はダンジョンコアの台座の前に腰を下ろす。なんか長くなりそうだし、見てる人もいないので遠慮なくあぐらで。

 年頃の女子がする恰好じゃない? いいんです、年季入ったパジャマ姿の時点でもはや恰好つけようって気にはなれない。ええ、部屋じゃこの恰好でチューハイ片手に撮り溜めたアニメの録画とか見てましたが何か?

 女子力なんてのは、化粧と一緒で人前でそれなりに取り繕うためのツールなんですよ。


 で、頭の中に知らない間に増えていたフォルダみたいな知識を開封する。

 うん、フォルダというのが一番しっくりくるかも。意識して見るまで中身がわからないあたりも含めて。パソコンに例えるなら、今頭の中にある『ダンジョンマスターの知識』はプログラムメニューの中で色つきになっている状態だ。

 ……開いた瞬間にウィルスとか飛び出してくる仕様になってないといいんだけど。


 まぁ、うだうだ言ってても始まらないので思い切って開封! というか、開封してなくても頭の中にある時点でいつでも閲覧OK、セキュリティ? そんな親切なものはないよ、な状態なのでとっくに手遅れだし。

 あくまでもイメージの問題です。でもノー○ン先生、あなたの偉大さが身に染みてわかりましたので、ちょっと異世界まで出張に来てくださいませんでしょうか……


 という冗談はさておき、頭の中の知識によるとダンジョンマスターはダンジョンと文字通り運命を共にする存在らしい。

 つまり、ダンジョンが消滅する時はダンジョンマスターもこの世から消える。

 病める時も健やかなる時も、の夫婦の誓いを越える運命共同体っぷり。

 あなたが死ぬ時は私も一緒、という運命の恋人レベルだけど、ダンジョンマスターが死んでもダンジョンは休止するだけで消滅しない。なにその悲しい片思い。というかヤンデレの地雷男に盲目的に尽くすダメンズウォーカーなんですが、私が。


 そのかわり、ダンジョンマスターはダンジョンの力を自由に操ることができる。

 ダンジョンの力、というとなんかふわっとしたイメージなんだけど、要するに魔力とかそういう類のものらしい。

 それを消費することで、ダンジョンマスターはダンジョンの構造物とかモンスターとか罠とか宝物とかを作り出す。ついでに自分自身にスキルを付与してパワーアップしたりなんかすることも可能らしい。


 ダンジョンの力はダンジョンの領域内に入り込んだ生き物を殺したり、追い出したりすることによって増える。あと、外から来た生き物がダンジョン内に滞在している間も、量としては少ないけど力を得ることができるらしい。

 ダンジョンの力が増えると、それを消費しても力そのものはダンジョンに蓄えられて、一定量を越えるとダンジョンが進化するらしい。進化したらどうなるのかは今のところ不明。

 ダンジョン改とか、スーパーダンジョンとか、ダンジョンマークⅡとかになるんだろうか。

 なお、ダンジョンはただ存在するだけであれば力を必要とすることはない、らしい。


 とまぁ、らしいらしいの連発で申し訳ないんだけど、頭の中にある知識がどうにもこう概念的というか、ぶっちゃけ使い勝手か悪いんですよ!

 なんとなくイメージが伝わってくるけどそのイメージを言葉にしようと思ったら対応する日本語がないみたいな。無理に日本語に当てはめようとしたら『猫』が『四つ足テーブル。動く。鳴く』になっちゃうようなもんですよ。どこのエキサイティング翻訳ですかこれ。

 もうちょっと取説を使いやすくしておいてくれないものか。親切設計のインターフェイスを心より所望するんですが!


 ……本当にもうね、世の創作作品のダンジョンって親切にできてるもんだと心の底から思いました。ナビゲーターとかついてたりするもんね。ユーザーフレンドリーって言葉を知ってるんでしょうかね、承諾も事前説明もなしに私をここに放り込んだどこかの誰かさんは。

 ああ、そのどこかの誰かさんについてもまったく不明です。そもそも存在してるのかすらもわからないレベルだ。

 私がこのダンジョンに放り込まれた理由についても、なんか適正があったとかそういう理由がふんわりわかるだけで詳細は謎。まぁ、そのあたりは突き詰めて考えても状況が変わるわけじゃないので、とりあえず放置一択だ。


 それより問題はこの不親切設計の知識だよ。こんなふわっとしたイメージか、でなかったらエキサイティング翻訳をさらに翻訳しながらダンジョン作るってどんな苦行ですか!

 せめてモニターとかウィンドウとか付けて数値で見やすく表示してくださいませんか!?


 そう思いながら、ダンジョンの作り方をなんとなく意識する。

 ぐわっとやってぱーとかいうやり方だったら本当にどうしたものか。正直ノリ的にもついていけそうにないんですが。


 なんて思ってたら、あっさり出ましたよウィンドウが。ウィンドウというかスクリーンというか、どっちにせよ目の前に浮かぶ厚みのない板みたいな四角い平面が! 出せるんなら最初からやっとけ!

 うんまぁ、憤っても仕方ない。クールダウンクールダウン。こんな誰もいないところで一人ツッコミを入れても虚しいだけだ。


 目の前に浮かぶウィンドウ(仮定)には今のところなにも映っていない。うっすら青みがかった半透過仕様で、全体がぼんやりと薄く光を放っている。サイズは40×30センチくらいの横長の長方形。

 と、じっと見てたら画面に文字が出てきた。幸いにして日本語だ。


 ダンジョンポイント:50000/50000 


 あー、なんかいきなりゲームっぽくなりましたよ。さっきまでのふわっとしたイメージ伝達式に比べれば数京倍はましだけど。

 ダンジョンポイントってのはあれか、ダンジョンの力のことか。安直だけどわかりやすい。たぶん右が最大値で、左が消費した残りのポイント。つまり今は初期値の50000ポイントまるまる残ってるってこと。使った覚えはないから当たり前だけど。

 50000って数値が多いのか少ないのかは不明だけど……必要消費ポイントの一覧表でもないものか。


 そう思った途端にずらっと出てくる文字の羅列。さっきまでの悪戦苦闘はなんだったのかと思うくらいの親切かつ迅速な対応。なんだ、やればできる子じゃないですか!


 ダンジョンの階層:10000

 ダンジョンの部屋(10×10m):1

 ダンジョンの廊下(100m):1

 ダンジョンの階段(10m):1


 以下、『扉』とか『罠』とか『モンスター』とかいうのがずらずらと続く。

 見ようと思えば勝手にスクロールしてくれるけど、どこまで行っても終わらない! なんか『スキル(異世界)』とか『アイテム(異世界)』とかちらほら気になるものも見受けられるんですが!


 と、とりあえず今は全部見るのはあきらめて、ダンジョン作成に必要になりそうなものだけ見ておこう。

 たぶん必要になりそうなのは『ダンジョンの階層』でさすがにお高く10000ポイント。五層作ったらそれだけで初期ポイントが全部吹っ飛ぶ。


 『ダンジョンの部屋』は、今いるこの部屋と同じようなものかな? 10×10(高さはデフォルトで10)メートルが最低サイズで1ポイント。広さはポイント消費で増やすことができて、+αごとにαポイント分消費といった感じだ。

 廊下、階段も同様で、デフォルトは幅5メートル高さ5メートル。階段の傾斜は1~45度の間で自由に設定できるもよう。廊下にも0~90度の間で傾斜を付けることが可能なようだ。……って、傾斜90度の廊下ってただの壁やないかい!


 なんて突っ込んでみたけど、ひととおり見たところ50000ポイントというのは決して高くもなく低くもない数値みたいだ。

 ダンジョンは最低一階層は作らないといけないみたいだし、部屋とか廊下の消費ポイントは低いけど必要なだけ配置すればそれなりにかかる。

 なにより扉とか罠とかの消費ポイントが地味に高いんですよ! 基本は10ポイントとかそんなのだけど、解除の難しい鍵付きだったり威力の高い罠だったりすると一気に必要ポイントが跳ね上がる。

 範囲攻撃型の射出罠(永続使用可)なんて威力が最低のものでも200ポイントですよ!


 他にもモンスターを配置したり、オブジェクトやアイテムを配置しようと思えばその分ポイントが必要になる。

 ていうか、モンスターの最低ランクってもはや魔力を帯びているだけのただの生物なんですけど。しかも最低ポイントで作ると命令不可能で死んでも復活不可能。それってそこらの野良モンスターとどう違うんでしょうか?


 と考えると、ダンジョン作成に関してはポイントの無駄遣いをしないよう、よくよく考えて慎重に行うべきだと思う。なにしろ命がかかってるわけだし。

 ええ、このダンジョンに(一方的に)命を握られてるわけですからね!


 だったらまず必要不可欠なのは、この世界の情報だ。

 この世界の生き物がどれくらい強いのか、文明を築いている人間もしくはそれに類する生物がいるのか、その文明の水準はどの程度のものなのか、魔法やスキルが存在するみたいだけどそれは一般的なものなのか、物理法則は地球と同じと考えていいのか。

 それからこのダンジョンの位置情報。地名とか周辺の地形とかはそこまで重要でもないけど危険な生き物が生息していないか、近くに人間の住む集落とか街とか国家があるかどうかは重要。超重要。

 某野菜人並みの好戦的種族が近場にいたり、ダンジョン絶対潰す的な文化のある国が近くにあったりした日には一発で詰む。



 目の前のウィンドウを見つめて検索結果が出てくるのをじっと待つ。お願いします、思考感知式検索エンジン、ここで本気を見せてください!


 NO DATA


 結果、出てきたのは上の六文字でした。ははは、たった六文字で人を絶望に突き落とすとはこやつやりよる。


 ……いや、マジで。情報なしって一番重要なところでしょそれ! インターフェイスがどうこういう以前の問題だよ! マップデータは追加アプリ(別売)の販売をお待ちくださいですか!? 悪徳商法にもほどがある!!

 いや本当に。世界設定も周辺状況も不明なまま命がけのダンジョン運営って、縛りプレイを通り越してただの罰ゲームなんですが。私なんかやりましたか?


 検索失敗かと思って、何度か思考をくり返すけど結果は変わらず。

 ダンジョンに関する情報はすんなり出てくるところを見ると、検索エンジンが壊れたわけじゃないみたい。そうですか本当に情報なしですか。


 ……どうやら縛りプレイを本気で余儀なくされそうです。いや罰ゲームか。

 これでプレデター並みの超好戦的生命体がうようよしてる世界だったら、いるかいないか知らない私をここに放り込んだ誰かさんを全力で呪ってやる。

 足の小指をぶつけるとか自販機のホットとアイスを間違えるとかシャンプーしてる時後ろに人の気配を感じるとか、地味に嫌な感じの。


 地味に嫌な呪いのラインナップを考えてたらちょっと気が晴れたので、大きく息を吐き出して気持ちを切り替える。

 そう、逆に考えればいい。現地情報がゼロなら自分で調べればいいんだと!

 もともとがゼロだから調べれば調べるだけプラスになる! なんと素晴らしき情報の右肩上がり成長!


 なんかもう半分涙目なんですけど、ヤケ混じりにでもプラス思考に持って行かないとやってられませんよ畜生。たった今検索してみたところ、外部調査用の専用ツールみたいなものは存在してないみたいですよ。

 外に放したモンスターの視界を借りるとか、そういう方法しかない上モンスターを外に出すにはまずダンジョンを開放しないといけないらしいですよ!


 どうやらダンジョンは現在準備期間というか、異空間に存在していてどこにも繋がっていない状態らしい。あー、だから周辺情報が存在しないんだろうか。

 で、ダンジョンの中身を作って、それに外部に繋がる通路もしくは出入り口をつけた時点でダンジョンが開放される。最低一階層は必要というのは、うっかり先に出入り口を作ってこの二つの部屋をダイレクトに外に繋げてしまわないための安全措置なのかもしれない。

 ダンジョンコアまで扉なし罠なしモンスターなし一間なんて、もはやダンジョンというよりただのダイナミック自殺……って。


 今、ものすごく重要な説明を見落としていたことに気づきましたよ。

 ダンジョンの開放についての説明の最後でですね、ものすっごくさらっと触れられてる内容がその、あれだ。



 『ダンジョンは現地の時間において10日以内に開放するものとする。なお、期限を過ぎた場合は一日ごとに5000pのダンジョンポイントが最大値より自動消費され、ダンジョンポイントが完全消費された時点でダンジョンは消滅する』



 タイムリミットが設定されてやがりました。気分的にはむしろ時限爆弾? 最大二十日間の期限が切れたら勝手に作動する自爆スイッチだ。

 縛りプレイもいいところのこの状況で、じっくり対策を練る間も与えぬと申すか!


 というか、ダンジョンポイントの最大値が削れる時点で、10日以内にダンジョンを開放しないという選択肢は存在しないでしょう。

 だって一日5000ポイントだよ!? 二日で一階層作れちゃうくらいのポイントが最大値ごと消えるんだよ!! すでにダンジョンポイントを消費してる場合はどうするんだ!? 作成済みのダンジョンの一部が消えるのか!?


 うん、なんていうかもう……一周回って冷静になれました。10日ね、10日。色々考えたり準備しようと思ったら十分な時間とはいえないけど、決して短すぎるってわけでもない。

 10時間以内とかいわれるよりはずっとマシ。そう思うことにしよう。


 それより10日って、残り時間がどれくらいかどうやって確認すればいいんだろうね。

 って思ったらウィンドウの隅っこに『864,125』って数字が表示されました。見てる間にも一ずつ減っていく数字は秒数なんだろうね、たぶん。

 秒表示ですかそうですか。って思った途端表示が『9:23:37:04』に変更された。こんなところばっかり無駄に高性能だな!


 というわけで、現地情報ゼロ、ダンジョンポイント50000p、タイムリミットまで10日間からのダンジョン作成始まります!



 ……これが終わったら私、神様って書いたダミー人形にフックと見せかけてからのジャンピングアッパーを叩き込むんだ。



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