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石橋系マスターのゆったりダンジョン運営記  作者: ひろねこ
第一章 ダンジョンマスターになりました。なお現地調査はセルフで行うもようです
13/40

12 おやつも遊びも戦力強化も大事



 野外の開放感も手伝ってか、知らないうちに杯を重ねて気づいたらリンゴ酒の樽が空っぽになっていた翌日の朝。


 ……しょうがないんですよ! 外で呑むと同じお酒でも美味しく感じたりするじゃないですか! お花見とか花火見物とかバーベキューとか! 四、五人で呑んでたらビールが一箱空になってたとかワインがダースで空になってたとかよくある話ですよね!? 野外呑みの時には箱単位でお酒を用意するっていうのは常識ですよね!?



 当然ながら二日酔いなんてものには見舞われず、顔を洗って窓を開けたところで入口の脇に立っているジンガを発見する。やっぱりそこが定位置ですか……好きなんでしょうか? それとも入口があったらとりあえず守護したくなるのがゴーレムの本能とか?


「お早う、ジンガ」

 そんな感想はさておいて、窓が開いたことにジンガが気づいたので挨拶する。

 ジンガは首をコクリと縦に動かしてお返事。昨日みたいに声をあげることはない。まぁ、朝からあの大声はちょっと遠慮したいけど、ヤシチとはまた違った感じの寡黙なキャラのようです。昨日は相当テンションが上がった状態であの声を出していたようだ。


 にしても相変わらず違和感がひどい。リ○ちゃんハウスの前に超合金ロボを置いたがごとき有様ですよ。いや、もう気にしても仕方がないし、ジンガも気に入ってるみたいだから放っておくことにしたけどね。

 どこのボス部屋の前だとか思ったけど、よく考えたらここも一応ダンジョンだしある意味ボスと言えなくもないダンジョンマスターの部屋の前だ。それならなにも問題はない。一応木のゴーレムと木造の小屋でマッチしていないこともないし! 素材以外は何一つマッチしてないという現実にさえ目をつぶれば!


 ひとまず部屋に戻っていつものように朝食を作り、ギンとヤシチと座って食べる。

 少し面倒くさくなっていたので今日は簡単に肉を焼いただけ。ええ、別に朝から違和感しかない光景を目にして精神的に疲れたなんてことはないですよ。そんなことを言ったら朝食の間も扉の外で番兵よろしく立っていてくれるジンガに申し訳ない。


 ちょっとテンション低めの朝食を終えて片付けを済ませたら、ギンたちと連れだって小屋を出る。小屋の近くにある畑(またの名をダームフライ夫妻の新築子育てホーム)に向かうと、声をかける前にジンガがそっと最後尾についてきているのが見えた。

 ……なんというかもう、本当に君は癒し系だな! なんで私の作るモンスターはみんなこんなに可愛いんだ!?



「お早うございます、ダームパパ、ダームママ」

 内心でもだえそうになりながらも表面上は平静を保ち、フラップラントの葉に留まっていたダームフライ夫妻に朝の挨拶。

 あ、名称は長いのでちょっと縮めました。敬語なのはどうしてかって? 昨日生まれたばっかりでも、すでに結婚という人生の一大イベントを経験している人生の先輩だからだよ! なんとなく負けたような気なんてしてないよ!


 ダームフライ夫妻は半分寝ているのか、ちょっと羽を動かして応えたのみ。

 昨日は遅かった(意味深)んですね? ……計画が順調に進んでいることを素直に喜ぶべきだろうけど、心になぜか寒風が吹いてるよ。人恋しさのせいかなぁ……ラブラブな関係には至らなくても、誰か気安く話のできる相手が欲しいです。

 オタ話ができる人間だったらなお可。ロボットアニメについて熱く語れる人間なんて贅沢は言いませんから。


 心なしか肩を落としつつ、昨日作ったばかりの池の中を確認する。泥は大分沈殿したらしく濁っていた水は透明になってきてる。と、おお! 水の中にぽつりぽつりと卵の姿が! もうすでに一仕事終えられたあとでしたか、ダームフライ夫妻!? 素晴らしい仕事の速さです!!

 ええと、確かダームフライの卵が孵るのは……五日後くらいか。成虫になるのにさらに五日くらいかかるので、十日後には最初の偵察部隊員が誕生することになるわけだ。


 となると、それまでに次の偵察飛行の準備をして、ついでにそれ以外の予定をある程度消化しておかないといけないわけか。偵察飛行を始めたら、少なくとも私はそれにかかりっきりになってしまうわけだし。


 なにはともあれ、育成計画が順調なスタートを切ってくれたのは確かなようだ。これからの計画に支障をきたさないように、できることはどんどん前倒しで片付けていかないと! 人恋しいなんて寝ぼけたことを言ってる暇なんてないぞ!!




 気合いを入れ直したところでギンとヤシチ、それにジンガを加えた三体にはカマキリ先生のところに向かってもらってレベル上げに励んでもらいます。

 なにをするにせよ、まず味方の戦力を増強しないことには話にならない。第一次偵察部隊を送り出して痛感したのは、この世界では自分を守れるだけの力がなければ自由に行動することさえ難しいということだ。


 最初がギンたちが外に出ることは想定してなかったけど、ダンジョンの入口付近はそれほど危険ではないということもわかったし、必要があれば外に出て活動してもらう場面も出てくるだろう。

 もちろん、考えられる限りの安全対策を取った上でだけど、それでもある程度自分で身を守れるだけの力は絶対に必要になる。ええ、万が一だろうと億が一だろうと、事故なんて起こしたくないんです! というか、ギンたちが強くなればなるだけ私の身の安全も保証されるわけだし!



「じゃあ頑張ってね~、あとギン、ヤシチ、ジンガのフォローをよろしく!」


 手を振って三体をカマキリ先生のもとへ送り出したあと、私は小屋に戻ってこれからの行動計画案を練る。昨日も考えたけど、思ったより偵察部隊の補充が早く行えそうだし。修正してさくさく実行に移さないと。


 まずは昨日までに作成した近隣の大雑把な地図を清書して、次に探索するエリアの選定……中心となるのは西だけど、他の方面も危険要素の見落としがないかチェックする意味で偵察は必要だ。

 前回は広範囲の偵察を目的としていたから、途中のエリアは黙視できる最小限の範囲しか確認していない。地図だってスッカスカの空白地帯だらけだ。


 西で見つけた人間の村も、下手に近づけば前回の二の舞となるのは目に見えている。できるだけ近くで人間の生活や文化、技術レベルなんかを確認したいと思ってもダームフライが村の中にまで入り込むのは難しい。

 さすがに全長80センチもある虫が近くをうろうろしてたら、誰の目にだって怪しく映るだろうし。とすると、人間の村の中を探るためにダームフライ以外の探索用モンスターを作る必要がある。

 なるべく目立たなくて、なおかつ人間の村にいても違和感のない……ネズミとか?



 それから、あの村の他にも近くに人間の村がないか確認する必要も。

 もしかしたら、もっと大きな村や町、あるいは都市なんかが近くにあるかもしれない。その人口や政治体制によっては、ここにダンジョンがあると知られることが即死レベルの致命傷となる可能性だってある。


 例えば血の気の多い冒険者がわっさわさいるとか、ダンジョンといえばお宝だ! みたいな風潮があったりとか、神の啓示なのでダンジョン滅ぼすべし、な宗教国家があったりだとか、ダンジョンマスター捕まえてお宝作らせてウッハウハだぜ、な王権国家があったりとか。


 嫌な想像は始めるとキリがないので適当に切り上げるとして、ダンジョンの地上部の探索も早めに行うべきだろう。

 自分たちの真上になにが住んでいるのかわからないというのは怖い。今のところそれほど強い生物はいないみたいだけど、実は人間と変わりない知的生物が住んでました、なんてことになっても困る。

 たとえダンジョンに敵対的でなかったとしても、人間と敵対関係にあって攻められたり攻め返したり、なんてのを頭の上でやられるのは遠慮したいし、ましてダンジョンを避難場所とか戦場にされたりするのも勘弁です。そんなことは余所でやってくれ、というのが本音。



 時々思考が脇道に逸れながらも、当面の行動計画案の修正と必要になりそうなスキル・モンスターなどのリストアップを完了する。おー、気がついたらもう午後を回っています。お昼の休憩を取り忘れた分、今ちょっとおやつがわりにつまんでもいいよね?


 反対する者は誰もいないので(私の私による私のための満場一致の結果)竈の火を起こしてジャガイモの芽だけ取り、くし形に切って油を大量に鍋に。油が十分に温まるのを待ってから切ったジャガイモを投入。揚げている間に、30センチ四方ほどに切った布を皿に敷いて準備しておく。

 こんがりきつね色になるまでジャガイモを揚げたら、フライ返しで拾ってぽいぽい皿に放り込む。揚げ物用の網じゃくしがどこにも見当たらなかったのだ。まぁ、焦げないうちにすくい上げられれば十分なので気にせず、皿に盛ったフライドポテトに塩をぱらぱらと振りかければ完成だ。



 ん~、久しぶりに食べる熱々のフライドポテト! サクッとカリッとした表面と中身のほくほくした食感のダブルハーモニー! ただジャガイモを揚げて塩を振っただけなのにどうしてこんなに美味しくなるんだろう、と食べるたびにいつも思う。もちろん今回も。フライドポテトを考案した誰かさん、あなたが神か!

 ほどほどにしておこうと思いつつ手が止まらず、ジャガイモ二個分のフライドポテトが私のお腹に消える。ああ、夕飯が入らなくなりそうだけどもう少し食べたい……


 などと思ってたら、窓の外からじっと私を見つめる三体分の視線を感じました。ギンの上にヤシチ、ヤシチの上にジンガの三段重ね、って君たちはブレーメンの音楽隊か!?

 いや、そうじゃなくものすっごく熱い視線が空になった手元のお皿に注がれています。いやいやいや、君たちジャガイモ食べないでしょう? というか、ジンガは食事自体できないでしょう!?


 内心で滝のような脂汗を流しながら三体を説得する言葉を探す。ジャガイモは食べられないよね? あ、でも害があって食べられないじゃなく単に主食じゃないというだけ?

 だったら食べさせても問題はない……? ジンガはさすがに無理だろうけど。飲食する機能そのものがついてないわけだし。



 窓の外から見つめる三体を見つめ返すこと十秒。やっとの思いで私が口にした言葉は、


「………食べる?」


 の一言でした。我ながら馬鹿バカい主への道一直線だとは思うけど! だけど言った瞬間ぱっと輝いたギンの顔を見たら後悔なんてしない! そ知らぬ顔をしようとしながらも好奇心が隠しきれていないヤシチの目を見たら! 自分は食べられないのに二体に付き合って窓枠の上ぎりぎりの高さから中をのぞき込んでいるジンガを見たら!


 ……こっそり一人でおやつを食べてた後ろめたさなんてのは、それに比べたら本当に取るに足らない小さな問題だと思うんだ、うん。



 追加で揚げたフライドポテト(塩なし)を布で包んで小屋の外へ行き、草の上に座ってギンたちと食べる。

 自分の分だけこっそり取り分けて塩を振っておいたのは内緒だ。ギンたちにはあんまり塩分の濃い食物は与えないほうがいいと思うし。別に自分だけ美味しいものを食べようとしたわけじゃないし。

 熱々のフライドポテトもなんのその、二体は競い合うような勢いで食べ終える。

 猫舌なんてことはないようだ。まぁ、狼と鷹だし……気に入ってくれたみたいでなにより。だけど、私の分にまでハンター(食)みたいな目を向けるのは止めなさい。止めてください、ものすっごく食べづらいです。


 おやつを食べ終わった頃には日が傾き初めていたので、今日はこれ以上無理はしないことにして草原でギンたちと遊ぶ。たまにはゆっくりするのもいいんです。毎日毎日キツキツにスケジュール詰め込んでたんじゃ、いつかストレス爆発して旅に出たくなったり過食症になったり発作的に奇声あげてそのへんを走り回ったりしたくなりかねない。

 うん、けっこう洒落にならないからね……うちの会社ではさすがになかったけど、就職した友人の話を聞いていると人間ってそこまで追い詰められるのかという事例がゴロゴロしてるし。


 人間、自分で自分のコントロールができているうちは問題ないんですよ。自分以外の都合でコントロールせざるを得ないようになってくると、どんどん私生活とか人間関係とか睡眠時間とか削っちゃいけないものが削れて、最後にはポッキリいっちゃうんです。ああ怖い。



 現代社会の闇に思いを馳せながら、薪を削って作ったバトンをギンとヤシチに投げて遊ぶ。力一杯投げたバトンに向かって弾丸のように走っていくギンと、ギンがキャッチしようとしたバトンを鼻先でかっさらっていくヤシチ。

 意地悪というよりはギンを奮起させようとしている感じで、むきになって走るギンがバトンを獲得できる率がだんだん上がっていく。こんなとこでも訓練ですか? 本当にヤシチは真面目だ……もっと素直に楽しんでいいんだよ?


 横では移動力に難ありのジンガがちょっと寂しそうに見ている。

 なので「投げる?」とバトンを渡すとコクコクとうなずき、尻尾を振って待っているギンと空中を旋回しているヤシチのいる方向に向かって全力でスロー!

 ……うん、全力すぎてバトンは空の彼方に消えました。

 ギンが突っ走って追いかけているけど、どう考えても追いつく気がしないんだ。



「……どんまい」

 なんとなく肩を落としているような気のするジンガの腕をぽんと叩く。いっそテヘペロしてくれてもいいんだよ? 私の中で君の評価は、もう完全に癒し枠で定着しちゃってるんだし。癒し系ロボット、ありだと思います! ……いや、それってただのベ○マックスか。


 なお、ギンは走っていったのとは逆の方向からバトンをくわえて戻ってきました。バトンの飛距離が1キロを超えていたのか、ギンが突っ走った勢いのまま2キロを走破してきたのかは謎です。



 この日は夕食をちょっと軽くして、昨日と同じように小屋の外に布を敷いてギンとヤシチ、ジンガと一緒に食べる。ジンガは食べられないけど、まぁ気持ち的に。

 日が暮れると真っ暗になるのも昨日と同じだ。星や月が見えたらなぁとは思うけど、気軽に作るには『特殊オブジェクト(星・月):1500p』はちょっと高い。

 太陽よりは安いとはいえ……地上からちょこちょこDPが入るようになってきてるとはいえ、残りDPは5000ちょっと。第二次偵察飛行のことも考えると節約しないといけないし、夜空を作ることができるのはまだ当分先かなぁ。


 あれこれ節約してると、たまに発作的にDPを使って贅沢したくなるんだけどね。でもこれからのことを考えて我慢だ!

 せめて偵察飛行が一段落付いて、ダンジョン周辺の安全が確認されてから! ああでも早く裁縫道具が欲しい……ただざっくり切っただけの布をシート代わりに使っているのが我慢ならないのです。

 小屋のラグとかシーツとかも。使い捨てにするならともかく、継続的に使ってると糸のほつれとかが無性に気になるのです!




 ささやかな不満を呑み込みつつ夕食の後片づけをして寝た翌朝。

 窓を開けると、扉の外に門番よろしく立っているジンガと目が合うのにも慣れました。お早う、と手を振りながら声をかけると手を振り返してくれるのがプリティーです。

 MJPマジジンガプリティーなんです、たとえ見た目がボス部屋の前に立っている門番そっくりであろうとも。


 朝食を摂って小屋の外に出ると、昨日からの日課となったダームフライ夫妻のマイホームにお邪魔しての挨拶と池の中の卵のチェック。まだ孵るには早いけど……と思ったら、卵の数が増えておりました。昨日は一桁だったのがどう見ても十以上に。

 これは……うん、偵察部隊員の数が増えるのを素直に喜ぼう。最終的に何体になるんだろうとか、そういうことは考えないほうがよさそうだ。頭の中をよぎったダームフライが草原の空いっぱいを飛び回る光景を慌ててかき消す。

 百や二百くらいだったら余裕で収容できるだけのスペースはあるし……でも、増えすぎた場合のことも一応考えておいたほうがいいかも。



 ついでにフラップラントの様子も見ると、水もあげていないのに青々とよく茂っています。ただの植物に見えてもさすがはモンスター……なんですが、昨日まではなにも生えてなかった場所からぽつりぽつりと葉先がのぞいているのは気のせいでしょうかね? もしかして勝手に増えてる!?

 ちょっと土を掘ってみると、地下で根が繋がっているのがわかる。あ~、祖父の家で草むしりしてる時によく見かけた光景だ。

 こうやって根を広げて数を増やしていく雑草が……って、放っといたら際限なく増えるんじゃなかろうかこれ。大丈夫かな? ダームフライの餌になったら自動的に減っていくとは思うけど。


 ま、まぁもし邪魔になるほど増えたら刈るか抜けばいいし……ええ、まさか緑の悪魔とまで恐れられたアレとかアレみたいな成長はしないはず。どこからともなく種が飛んできて祖父の家の庭を侵食したくれたアレみたいなことには……



 連れだってカマキリ先生の部屋に向かうギンたちを見送ったあとは、ウィンドウを展開して現在の残りポイントと相談しつつこれから取るスキルを考える。

 ダンジョンは一応作ったし、護衛モンスターも予定してただけの数は揃えた。偵察部隊の育成も進んでいるとなったら、次は司令塔としての自分自身の強化だ。


 まず、必須と言ってもいいのが〈身体強化〉スキル。これは体力や腕力、脚力なんかを総合的に上げてくれるスキルで、前に立って戦うつもりがなくてもこれを持っていればギンたちの負担はぐっと少なくなる。流れ弾一発でも食らえばお終いなのと、一発なら耐えられる、あるいは避けられるというのでは大違いだ。

 だからこれは確定として、次に必要なのが〈騎乗〉になるかな? いざという時にはギンに乗って逃走できるように。逃げるのも立派な戦略だし、ものすごい広範囲攻撃を受けるようなことがあった場合に私の移動力がネックで全滅なんてことになるのは避けたい。……その場合ジンガをどうやって逃がすかも考えないといけないけど。



 で、悩んでいるのが〈帰還〉スキルを取るかどうかについてだ。これはダンジョンの外からダンジョン内に設定した帰還ポイントに一瞬で移動できるものなんだけど、ダンジョン内での移動に使うことはできない。あくまでも「ダンジョンの外」からの移動に限定される。

 今のところ私がダンジョン(というか地下一層)の外に出る予定はないし、それならDPを費やしてまで〈帰還〉スキルを取る必要はないような気もする。移動できる距離もダンジョンの中心から10キロメートルの範囲までと決まってるみたいだし。

 ただ、このスキル……育てていったら案外大きく化けるんじゃないかという気がするのだ。移動できる距離が伸びるのはたぶん確定として、ある程度以上のレベルに達したら〈転移〉が出てくるんじゃないのかな、と。

 つまり片道限定の〈帰還〉じゃなくて、自由に(あるいは事前にポイントを設定する必要があるかもしれないけど)行きたいところへ行けるんじゃないかな、と思うわけなんです。


 もちろん推測だし、そう上手くいくとは限らないとも思う。でも〈転移〉がスキルリストに出てなくて〈帰還〉だけが出てるあたり、その可能性は低くはないんじゃないかな。取得するのに必要なDPも〈帰還〉は300ポイントとかなりお高めになっている。

 ……ちょっと試してみよう、で取るのがためらわれる程度には本当にお高めなのだ。


 どうしようか……と昨日あたりから考え続けているのだけど、結局答えは出なくてさんざん頭を悩ませた後、こんなに迷うのは欲しいものだからだ! と結論づけて取りました。

 半分は悩むのが面倒くさくなってきたせいというのは認める。でも、買い物でも悩んで悩んで決めたもので買って後悔したものは少ないからいいのだ! 逆に買わなくて後悔したことは数え切れないほどあるし。



 〈帰還〉を取ったついでに〈身体強化〉と〈騎乗〉も取る。どうせいずれ取るんだから……というのは毎度の言い訳だけど、うっかり騎獣具(破壊不能:20p)まで作ってしまったのは完全にただの衝動買いだ。

 あれですよ、まとまった買い物をすると気が大きくなってあれもこれもと買ってしまう現象。よく百均でやりました……使うあてのない小物とか生地とかを可愛いから、と買ってしまって何年も死蔵した過去を思い出す。


 とりあえず、使ってしまったDPは戻ってこないので有効活用する方法を考えよう。うん、そうしよう! なんか本末転倒な気もするけどそのあたりは全面的にスルーだ!



 一段落ついたところでギンたちの様子を見に行くと、一対一でカマキリ先生との対戦をしている最中でした。

 ギンとヤシチは一対一でちょうど互角、ジンガだとスピード勝負に持ち込まれさえしなければ優勢、持ち込まれたら防戦一方になりながらも隙を狙って一発逆転といった感じだろうか。

 ジンガのほうがまだレベルは低いけど、カマキリ先生が相手だと耐久力や生命力が高いためギンたちよりも優位に戦っているように見える。同じランクのモンスターでも相性によって強かったり弱かったりすることがあるんだろう。


 それはいいけど、けっこうボロボロになってませんか、ジンガ? 無理はするなって言ったでしょうが! いくら耐久力が高くて傷の治りが早くなるスキルも持っているからって無理はいかんのですよ、無理は! そういうことしてると問答無用で回復薬ぶっかけますよ?

 緊急性がなかろうと、君たちの痛々しい姿を見てるくらいならDPを使ったほうがマシだと思うのですよ!? こういうことで使うDPはまったく惜しくないんですから!


 む~、と唇を尖らせて対戦待ちをしているジンガを上目遣いに睨むと、目に見えておろおろした様子に。無理はしないように、傷は大丈夫なのか、必要だったら回復薬を使うからなどとお説教半分、心配半分の言葉をかけていると対戦を終えたギンがやってくる。

 次はヤシチの番ですか。大分カマキリ先生との対戦には慣れたらしく、無傷のギンにすりすりされ始めたところでジンガのお説教は終了だ。


 慣れた様子で背中側に回って伏せの姿勢になるギンに背中を預けて座り、ヤシチとカマキリ先生の対戦に目をやる。

 視界の端っこでジンガがギンにぺこりと頭を下げたり、ギンが先輩風吹かせまくりの表情でふんすと鼻を鳴らすのが見えたりした気がしたが、あえて突っ込まない方向で。気にしたら負けだ。主に顔面崩壊的な意味で。



 油断すると緩みそうになる頬を気力で引き締めてヤシチの戦いを観戦する。

 カマキリ先生もヤシチも完全なスピードファイターなので、二体の戦いは目まぐるしく攻防が入れ替わり目で追うのも難しい。あ、こういう時に〈身体強化〉を使えばいいのか!

 〈身体強化〉で視力を強化すると、かろうじてヤシチとカマキリ先生の動きが見えるようになる。

 その巨体からは想像もつかない素早さで横に縦に移動しては鎌を振るうカマキリ先生に、もはや異次元としか言えない軌道で攻撃をかわしながら、合間合間に目とか関節部とかの弱点を狙ってのヒット&アウェイをくり返すヤシチ。


 というか、もはやヤシチは爪とかくちばしさえ使っていない気がするんだけど!? 戦いから目を離さないようにしつつ確認した彼のステータスは、


 スカイホーク(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ヤシチ レベル11(1580) M

 攻撃力:B 敏捷性:A 耐久性:C 生命力:B 知力:A 精神力:B

 スキル〈瞬飛〉〈眺視〉〈金剛〉〈強突〉〈指令〉〈風刃〉


 ちょ、いつの間にかレベルが11まで上がってるし! ていうか10レベル以上は同ランクのモンスターと戦っても上がらないんじゃ!? ランクが上がると事情も変わるんでしょうか!? いや、それ以前に〈風刃〉ってなんか魔法っぽいスキルが生えてる!?

 突っ込みどころが多すぎて困るというのはこういうことか。とりあえず、ギンたちのスタータスはもう少しこまめに確認しておいたほうがいいということを痛感した。

 ランクアップしてからはレベルの上がりが遅くなっていたから、そんなに毎日確認する必要はないと思っていたけど……



 なので、ヤシチがカマキリ先生の首を跳ね飛ばして勝負がついたところで、ギンとジンガのステータスもついでに確認してみると、


 グレイウルフ(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ギン レベル11(1458) M 

 攻撃力:A 敏捷性:B 耐久性:B 生命力:A 知力:B 精神力:C

 スキル〈俊駆〉〈咆吼〉〈槍牙〉〈鉄躯〉〈察知〉〈幻影〉


 ウッドゴーレム(ランク4:命令可能・復活不可能・成長可能)

 個体名:ジンガ レベル:9(911) N

 攻撃力:A 敏捷性:C 耐久性:B 生命力:B 知力:C 精神力:D

 スキル〈頑強〉〈喊声〉〈回復〉〈鉄拳〉〈反射〉


 ……ものの見事に上がってます。特にジンガ、もはやギンとヤシチに追いつきかかってるんですけど! なんか〈反射〉とか反則っぽいスキルを会得してるし……あ、敵の攻撃を無条件に跳ね返すのではなく、タイミングを合わせて攻撃することで受けるダメージのうちの何割かを敵に与える技でした。要はカウンターってことか。

 ギンの〈幻影〉にもびっくりでしたけどね! こっちは自分の幻影を作って敵の目を欺く技だ。つまり「それは残像だ!」ってのをリアルにやってくれるわけですね!

 ギンの知力が上がればもっと複雑な幻影も作れるのかもしれないけど、今のところは自分のみ(それも一体)といった感じだ。


 にしても、気がつかないうちに味方の戦力が大幅に向上しております。これでまだランクは4だというのだから末恐ろしい。いや、強くなってくれるのは大歓迎ですが! だけどこれでランクが上がったらどれだけ強いモンスターになるんだろう、と内心ドキドキするようなヒヤヒヤするような。

 これって、最初からランクの高いモンスターを作っていたら、これだけの戦力が確保できていたってことなんだろうか? ……たぶん、そうなんだろうな。ジンガを見た限り、ランクの高さと強さはイコールで結びつけてよさそうだし。


 ただ、だとしたら最初から強いモンスターを作らなかったのは正解かもしれない。

 変に強いモンスターを手に入れて、それを自分の力だなんて勘違いしたら「俺最強!」的なノリでダンジョン強化することに血道をあげていたかもしれない。今みたいにDPを節約しつつちまちま情報収集したりなんかしないで、積極的にDPを稼ぐことを考えていたかも……



 なんて、現実にはならなかった可能性に思いを馳せても無意味ですが。

 少なくとも今の私は安全第一がモットー、自分も仲間も無事でいられるようなやり方以外選ぶ気にはなれません。DP? やりくりすればなんとかなる程度のもの、わざわざ積極的に稼ぎに行く必要がどこにあるんですか? ……って、もとの世界での生活スタンスとあまり変わってない!?


 うん、でもそうなる可能性もあったってことだけは頭の片端にでも置いておこう。見知らぬ世界でダンジョンマスターになるなんて異常な状況下で、しかも自分は一度死んでいるという自覚まであって、まともな判断を下せる保証なんてゼロどころかマイナスに近い。

 自分がそれなり程度でも落ち着いて行動できたのがどれだけ奇跡に近いか、忘れないでおくことは大切だ。まぁ、かなりはっちゃけてた自覚はあるけど!

 あらためてふり返ると思わず頭抱えて布団にくるまりたくなってしまうくらいには! しょうがないんだよ、テンション下げたら果てしなく悩むか落ち込むか恐慌状態になるかの無限ループだったんだよ!


 ……ただ一つ、確実に言えることは。早い時期にギンやヤシチという現実に触れ合うことのできる、温かい血肉を感じさせる仲間を作っていなければ、ここまで精神的に持ちこたえることはできなかっただろうということ。

 強いモンスターなんかじゃなくてよかった。ただ側にいてくれるだけで。本当に君たちには感謝してる、ギン、ヤシチ。そしてジンガも加えて、これからもずっとよろしくね。





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