ある少女の一生
私、リシュカ・シュトレインは幼い頃から周囲の環境を不思議に思っていた
父や母、兄が甘やかしてくれる毎日
使用人も甲斐甲斐しくお世話してくれ、欲しい物はすぐに手に入った
公爵という地位にいるだけのことはあり、生活には不自由はしていなかった
生まれて此の方、人に怒られた記憶はなかった
……と、それだけなら"まだ"普通であると思えた
だが私には前世のものと思われる、今世で持ち得ないはずの記憶があった
前世、どんな生活をしていたかなどは全く分からない
ただ、本が好きだったのか読んだ本の、タイトル/内容/著者/使用言語/発行年月など細部に渡って記憶できている
私は人間だったのか? とも思ってしまうぐらい細部まで
まあ読んだ本の内容をもとに貴族としての立ち振る舞い、人との接し方が分かったのだから結果的に良かったのだろう
これが出来るようになったのは呂律が回らなくて四苦八苦していた頃を過ぎ、この地の言語が分かるようになった三歳である
……三歳だったのである
この地の本を読みたい! という知的好奇心もとに行動していたが、流石に分厚い歴史書を読み、教師よりも知識が多い三歳児は私自身嫌である
両親に疎まれて遠ざけられる、最悪捨てられることを覚悟していた
……が予想に反して、両親は「うちの娘まじ可愛い」のままだったし、兄も「よく頑張ってるね」
教師も「お嬢様は勉強家なのですね」と、疎まれ嫌われ避けられる、などといったことには程遠い状態であった
あれ? とは思ったが、これが普通な世界なのかも、とその時は結論づけた
それが覆るのが公爵令嬢として初めて貴族社会へと出る……ちょっと盛りました、貴族の子が貴族の子と繋がりを持つための社交の場
別名 保育所
五歳となり初めて屋敷の外に出たと思ったら、王宮ですよ!
びくびくでしたが、皆と遊んで待っててね、と連れてこられた場には同年代の子ばかりで一安心でした
何回か行って交流する内に分かったことがある
1.私の知識量はやっぱり異常
2.私が公爵令嬢な為か皆優しい…地位は大事である
2に関しては、ごますり的な感じではなく本当に心からって感じがむず痒いが
まあ幼い子供達との会話もなかなか面白いので楽しく交流していました
六歳になり、私は知識の多さを認められ貴族院に入ることなった
通常は十歳で入学とのことで睨まれそうだな、と思ったのだが
寧ろ歓迎、嬉しいよ! って感じで驚いた
八歳、令嬢として必要な知識は殆ど学んだ為卒業
この頃には流石に、私にとってこの世界が易しすぎるということを結論づけていた
理由は沢山あるが、一番は人間離れした才能を持っているのに周囲が敬遠しなかったことにあるだろう
人生easyモード過ぎて私は物凄く恐かった
九歳、家の家督は兄が継ぐ為、私は嫁入り相手を探しに貴族院に教師として教鞭を執ることになった
十五歳、私は成人した
私は十二歳頃から内政に積極的に関わり、成果を挙げていた為、この国の宰相に抜擢された
そして、その日から私の周囲はおかしくなった
今まで、あくまで優しい程度の態度だった令息達がいきなり求婚するようになった
令嬢達には頻繁に駆け落ちしましょうと言うようになった
この恋に落ちたかの様な症状は未婚で恋人の居ない十五歳以上二十五歳以下の人達すべてに表れた
犯罪に手を染めたり、業務を放ることは無かった為、国としての損害は余り無いだろう
だが私は突然のことにストレスがMAXになり、最終的に血を吐いて倒れたところで私の意識は途切れた
───リシュカ・シュトレイン
彼女は神に魅入られし乙女と云われている
豊富な知識を生かし、国に繁栄を齎した
誰もが彼女を慕っていたが、十五歳という若さにしてこの世を去った
──彼女についての逸話は多数ある
幼子の頃から政治に関わっていた、とか
病弱で外を歩いたことがない、とか
彼女が願えば一日中太陽が照り続けるもある、等々
生死を司る神にして最高神の寵愛を受ける、智の女神の化身とも云われているが、それは神のみぞ知ることだろう