試合
ZAAL~試合~
ZAALの朝は早い。
朝食までランニングをする子、ボールタッチをする子、シュート練習をする子、ただ散歩する子・・・宿題する子・・・これは僕か・・・。
7時の朝食は選手コーチ全員が揃ってから始まる。
時間は1時間と長く、終わりも一斉に席を立つ。
しかし、三日目の朝は少し違った。
いつものように、カツコがみんな食べ終わるのを待っていた。
「おはよ~。今日はバスで移動ね~」
え?こんなにいいグラウンドがあるのにどこに行くの??
「今日はうちも併せて9チームが集まってのミニ大会ね~」
いきなり試合かよ・・・って、大会??
「練習試合ではないのですか?」
僕は考えたことがすぐに声に出る。
「ミズホ~質問があるときは手を上げて『ハイ!センセ~』って言ってから話そうなぁ~」
・・・なんで先生なんだよ。
試合の内容は3チーム、3ブロックに分かれてリーグ戦、その後、各順位ごとのリーグ戦をして勝敗を競うとのこと。
「25-10-25の4試合ね~それと連続で試合するときあるからね~」
「だから交代はフリーで、全員同じぐらい出るように僕が指示するから、ポジションはみんなで決めてね~」
ハイ!
手を挙げたタイキ・・・まじめすぎる・・・。
「タイキ~なんだ?」
「対戦相手は中学生ですか?」
「もちろんだよ~」
マジかよ~!!という声が上がるがカツコは無視して続ける。
「まあ、新人戦を考えての中2がメインの試合だけど、2歳の差は大きい。
でもな、諦めるのは嫌いだ。
最後まで諦めないということが今回のポイントね」
何時にもないまじめな話し方のカツコだった。
その後、カナコよりスターティングメンバーの発表となり、9時にバスが出発と伝えられた。
リョウ、ヒロキ、タイキ、ユウヤ、タイヨウ、タカオ、ケンジ、マサオ、ツバサ、タローそして僕・・・。
控えはヤマト、ツネ、ジロー
たった、14人のチームだからね・・・。
そして、控えも含めて14人が集まりポジションの確認。
特にスターティングメンバーに入っていないヤマトがまとめ役になりながら進んでいく。
全員の総意となったポジション・・・タローはGKね、というのは当たり前だけど、他のポジションもみんな同意権だった。
ツバサ マサオ ケンジ
タカオ ミズホ タイヨウ
ユウヤ タイキ ヒロキ リョウ
いわゆる4-3-3という布陣だ。
そしてこの布陣と考えた理由は単純だった。
「縦の距離を短くする」
これは、僕たちのキック力と走力の問題をクリアーするため。
「試合中に全員がポジションを入れ替える」
これは、フットサルで培ったものを最大限に生かすため。
センターバックのタイキとヒロキ以外はぐちゃぐちゃになるまで動こうということで作戦会議終了。
その姿をカツコとカナコは穏やかな顔で見守っていた。
バスに揺られること約40分で今日の目的地の市民グラウンドに着いた。
市民グラウンドといっても、街中から離れたところなのでサッカーコートが2面取ってもまだ余裕のある広さがあった。
カナコが声をかけてアップを始めた。
カツコは他のチームのコーチらしき人たちに向かっていった。
カツコもなんだか目立っていたが、僕たちも周りからの視線を感じていた。
「対戦相手をがっかりさせるなよ」
カナコが言った。
それはそうだ。
対戦相手は中学生。
それも必死にサッカーをやって来た中学2年生だ。
ぽっと出の小学生だけのチームだからなんだか視線が怖い・・・。
「まあ、そんなにサッカーは甘くないけれどな」
ごもっとも。
アップをしながらも僕は他のチームを見ていて感じたのはみんな大きい。
怖いと思ったのを見透かされたようにヤマトが声をかけてきた。
「ミズホ・・・。俺とフィジカル勝負したら負けるよな・・・
でもな、やり方によっては俺はお前に勝てない」
マサオも話しに入ってきた。
「僕らのできることをやろう」
そうだ、走る、蹴る、当たるでは負ける。
フットボールは頭でやるというカツコの言葉がよみがえってきた。
「集合~~~」
カツコが声をかけてきた。
「じゃあ、決まりごと言っとくね~
ひと~つ、怪我をしないこと。
ふた~つ、勝つこと」
あの、むちゃ言っていません?
「あ、自由交代だから結構激しく変えていくから、いつでも出れるようにね~
一回引っ込んでも、すぐに出すかもよ~」
実際には交代要員なんていないチームなんですが・・・。
「「「ハイ!!!」」」
素直に言ってみた。
じゃあ、行こうか~という言葉でAコートに向かうが、カナコの冷静な言葉・・・。
「水色ユニフォームに着替えてね」
忘れてた・・・。
でも、その拍子抜けの言葉で緊張は取れた。
「着替えが最後になった奴はお尻ぺんぺんね~」
カツコ・・・、違うって・・・。
コイントスでコート、ボールが決まり、前の人と握手をしてポジションに散らばる。
GW以来の試合だ・・・。
それ以上に、グラウンドが広い。
単純に小学生の倍の広さがある。
でも、ラッキーなこともあった。
・・・スペースが多い・・・。
足が速いといっても、寄せられる前に散らしていけば・・・と感じた。
ピーッ!
審判のホイッスルと共にZAALボールで初戦が始まった。