表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/54

仲間

ZAAL~仲間~


一回目は周りがよく見えているのと俺様の渾身のパスをトラップするなんてボールコントロールがいい。

二回目はアイデアがいい。

足の裏とインサイドでコントロールしてたよな~

さらっとやって見せるってすごい。適当さも感じなかった。

三回目は周りの動きをよく使った。

しかし、重いフットサルボールをよくあれだけ曲げるな~

あれだけ回転かけるの普通は力が入るのにミズホは足をボールに当てる場所と振りぬき方がいい。


強いて言うなら、周りを使うために声を出せよな~


カツコからの言葉だった。


後は、もうもみくちゃの質問攻め。

4年生でも僕より大きい子が多い。

どんな練習をしているのか、サッカー好きかとか、勉強できるのかとか、好きな女の子はいるのかとか・・・。

質問の最後のほうはサッカーに関係ないような気がする・・・。


残りの時間は今やったオフェンス3対ディフェンス2をメンバーを入れ替えながら反面ずつ4グループでやった。

5時から7時という限られた時間だけど、勝手に給水や休憩を入れる子もいれば、やり続ける子もいる。

ポジションや動きの決まりごとなんてない。

メンバーが変わるから名前を覚えて声を出さないと負ける。


自然と叫びながら体験が終わっていた。


こんなに楽しい時間は初めてだった。


ピッピー

長い笛のあと、高橋代表が体育館の真ん中に仁王立していた。


やっぱりこの人なんか怖い。


「6年生は9人になったね」

この言葉に続く話を聞いて僕は身震いした。


来年、ZAALは本格的にU15サッカー協会登録をしてリーグ戦、選手権に参加する。

あと、隣の市から5人選手が来る。

今の4・5年生からもU15登録する選手が出るかもしれない。

ちなみに市外からの選手は私が見ているフットサルチームのジュニアチームからの移籍なのでZAALの精神は叩き込んでいる。


あ、セレクションはしないよ~っとカツコからの気の抜けた言葉が出て仲間からなんか安心した感じが伝わってきた。

セレクションとは、広く子どもたちを集め技術や身体能力をみて入団を決めることで普通のクラブチームはやっている。


「チームに入る条件はコーチの目に留まった選手でこの体育館に来た選手のみ!」

ヤマさんのでかい声・・・。


「今回は初めの年なので例外が若干いるけれども、基本ZAALのフットサルを3年続け、希望するならジュニアユースでフットボールをする」

要するに、コーチが見つけた子どもに声をかけてこの体育館でフットサルをしながら成長し続けたらジュニアユースに上がれるとのことだ。


コーチの好みで子どもを集め、3年間フットサルをしたならば同じような枠にはまった選手になるのでは?と感じるがそれはない。

現にここにいる子供たちは規格外の子ばかりといっていい。


「7月27日に保護者の方々に説明会をして正式に活動を開始します」


「なに堅苦しいこといっているんですかぁ~」とカツコが代表に突っ込む。

「ここにいるみんなの親御さんは知ってるよ~」

「なんたって一年かけて説得したからね~僕が」


ミズホは母親を見た。

母さんは笑いながらうなづいた。


「あと、ジュニアユースのヘッドコーチはカツコだ」


「代表までカツコはないでしょう~」


「山本コーチは引き続きジュニアを見てもらい、2名先ほど言った隣の市のフットサルチームからコーチを呼ぶ」



要するに事実上、2つのフットサルスクールがひとつになり、ジュニアとジュニアユースのチームを作るということみたいだ。

なんなんだこの壮大な計画は・・・。

僕はラッキーだと思った。


話は8時まで続いた。

普段から練習後に色々話があるから解散は8時になるということで子どもたちの親が迎えに来ている。

これも保護者が子どものフットサルをしている姿を見る、関わることを大切にしたいという高橋代表からの非公式のお願いだが、全ての親がしていることらしい。


母さんは仕事があるから・・・と思っていると、カツコからひとりのおばあさんを紹介された。

母さんは既に挨拶していたようだったけれど、小柄ながら笑顔のおばあさんはマサオの祖母です。と自己紹介して迎えは私がしますねと言った。



ZAALの活動が何故8時までか?

それはその後の体育館で見たことで納得した。


Fリーグ、つまりフットサルのプロチームの練習が始まった。

その中にカツコがいた・・・。



速い

強い


初めてこのスポーツを凄いと思った瞬間だった。


◆◆◆


ZAALに通い始めて僕の生活は変わった。

学校では、サッカー部を辞めたことについて何も言われなかったけれど・・・。

27番目の選手だったし・・・。


でも、授業が終わって走って家に帰り、ランニングをかねて体育館に向かう。

40分かかるけれど、いいトレーニングだ。


そのお陰か、走るスピードは変わらないけれど持久力は少しついたように思う。


練習は週に6回ある。

全て参加しなければならないというわけではないけれど、足が向いてしまう。

2ヶ月が過ぎ、あと数日で夏休みというところまで来た。


「あ~夏休みだけど~30日から1週間合宿な~」

「「「やった~!!!」」」

「いや、全員ではないよ~」

「「「え~~~!だれ~?」」

「今から名前を呼ぶやつな~」


カツコの眠そうな声を聞きながらも僕は何故かどきどきした。

その後ろからヤマさんがなにやらダンボールを持ってきている。


そこに知らない子が5人高橋代表に連れられて入ってきた。


「じゃ、名前呼ぶから前に出てきてヤマさんから荷物を受け取ってね~」


山田太郎やまだたろう149センチ 1番

五島良太郎ごとうりょうたろう142センチ 2番・・・この子は今回高橋代表が連れてきた子だ・・・。

井田弘樹いだひろき155センチ 3番

川本大気かわもとたいき160センチ 4番、タイキがキャプテンな~

スクール生のみんなが納得した雰囲気だ。

内村裕也うちだゆうや138センチ 5番・・・この子も新しい子・・・。

青木太陽あおきたいよう140センチ 6番

池田瑞穂いけだみずほ128センチ 7番、ミズホ~副キャプな~

「「「おお~~~!!!」」」自分でも意外だよ・・・。

太田孝雄おおたたかお146センチ 8番

持田健二もちだけんじ130センチ 9番

森田正雄もりたまさお130センチ 10番

「「「おおおおお~~~~10番~~~」」」なんか、みんなの反応が凄い・・・。

常田翼つねだつばさ143センチ 11番

藤井大和ふじいやまと167センチ 12番・・・デカイ。高橋代表が連れてきた子だ。

ヤマトは一応GKな~

東條恒彦とうじょうつねひこ150センチ 13番・・・この子も新しい子だけどみんな大きいなぁ。

伊藤次郎いとうじろう149センチ 14番・・・5人の新人の最後はミッドフィルダーらしい・・・。


「いじょ~~~」

あれ?下から上げるというのは今回はないのかな??


「あ~、このメンバーの練習は30日からフットサルから離れて隣の市にあるグラウンドな~

「ええ~~~!」思わず声を出してしまった。

だって、電車賃かかるじゃないか・・・。


「うちのフットサルチームのマイクロバスがあるから、基本はここに集合してそれで移動ね」

ナイスフォロー高橋代表!


「専属の運転手さんはまた紹介するね~トレーナーも兼ねているからこれからお世話になるよ~」

こんなところかな~という眠そうなカツコの声にこちらも眠気がと思ったときに


「ポジション、背番号は関係ない。全てのポジションができるようにすることが生き残るための唯一の手段だ」

高橋代表の冒険者に言うような言葉を聞きながら思わず声が出た。


「あの~キーパーもしないとダメなんですか?」と僕・・・。


「「「ミズホはムリだろう!」」」

全否定。

それもコーチだけでなく、仲間からも。新入りからも。

「ミズホはダントツに小さいからね~~~」

カツコさん。追い討ちかけないで・・・。


そして、これが僕たちZAALフットボールクラブのスタートだった。


と思いきや、代表が

「合宿はサッカーに関係ないものの持込は禁止。宿題は全て持ってくるように」

ええ!?


多難なスタートになりそうな予感しかなかった。


◆◆◆


子どもの時間の過ぎるスピードは遅いようで早い。


母さんが合宿の荷物の準備をしてくれていた。

1週間だけど、自分たちで洗濯をするから3日分の着替えでいいらしい。


ファーストユニフォームが白でセカンドが水色の新しいユニフォームは自分で大切にたたんでカバンに入れた。

合宿にユニフォームがいるのか?などという疑問はそのときは考えなかった。


練習着は4セット。青のプラクティスシャツにハーフパンツにソックスだ。

カバンは移動用の水色のリュックタイプに黒のキャリアーつきでクラブのロゴが入っているもの。

今着ているのは、白のポロシャツに黒のハーフパンツ。


新しいものはなんだか嬉しい。

というか、プロになった気分だ!!

移動用シューズもスパイクもメーカー指定でタイプによって色が違うだけでクラブが用意したもの。


いったい入会金に月謝っていくらかかっているのだろうと心配になり母さんに聞いたらレンタルだということだった。


大切に使うことが条件で、靴や痛んだもの以外は次の世代に渡すようにと言われたらしい。

瑞穂のは小さいから次使う子いないだろうけれどねってカツコさんが言ってたよ・・・。


カツコさんって誰なんだよ。


カバンも?と聞いてみたら全部だって。

手入れや洗濯をちゃんとしなさいねと言われて仕事に行く母さんと一緒に家を出た。


集合場所の体育館の駐車場についたら白地に水色の”ZAAL FUTSAL”と書かれたマイクロバスが止まっていた。

そして、運転手兼トレーナーの長田治夫おさだはるおさんの挨拶があった。


このバスはフットサルチームの荷物運びや緊急用のバスなのでたまに使えないときがあること。

市営バスの運転手をしていたけれど、定年で辞めてクラブ専属になったとのこと。

ハルさんと呼んでね~というこのクラブの関係者に言える軽いのりの方だった。

いや、その分は高橋代表が怖いけれど・・・。


山道をバスに揺られること30分・・・。

着いた先は山の中にある施設だった。

ZAALの親会社の保養施設ということ。


人工芝

ホテルみたいなコテージ


いいのか?

こんなところを使って!!


みんなのテンションはMAXになっていた。


「じゃぁ~結団式ね~」

「代表~どそ~」


「ZAALは総合スポーツメーカーの所属チームです」

なんか、会社の説明をはじめたぞ。


「ブランドに傷をつけることは許さない」

え?なんか、拉致された気分になってきた。


「二日間の練習の後、ジュニアユースとのトレーニングマッチを毎日組んでいるのでよろしく」

ええ~!僕たち小学生だよ!!


「最後にカツコ!監督としての自覚を持つようにな」


「へ~い。お後がよろしいようで、各自部屋割りを見て荷物置いたらグラウンドに集合な~」

全然カツコは動じていなかった。


練習自体は今までと変化はなかった。

ただ、今まではオフェンス3人に対してディフェンス2人という形が多かったが、6対6でカツコがフリーマンになるという休めない常態で練習が進む。


キーパーはもうひとりのコーチの合流が遅れているだけらしく、今はゴールマウスを守っている。

新しいコーチがキーパーコーチをするらしい。


練習のタイムスケジュールは厳しい。

初めは15分動いて15分休みというサイクルだが、最終的には30分-15分にするらしい。

これはジュニアユースの試合時間に合わせた長さとなる。


チーム分けは初めは自由に変わっていたが、午後からの練習では固定された。

「あ~チーム分けはまずは11人制になれることとコミュニケーションを大切にしたいからね~あんまり深く考えないようにね~」


って、もろポジションで別れている・・・。


Aチーム

GKヤマト

フィールドはリョウ、ヒロキ、タイキ、ユウヤ、タイヨウそして僕

Bチーム

GKタロー

フィールドはタカオ、ケンジ、マサオ、ツバサ、ツネ、ジロー

だった。


練習が始まるとBチームが圧倒的に強いのだ。

もちろん、自分のいるチームはディフェンシブなメンバーだからといえばそれまでだが、Bチームのマサオのボール回しがよく、ケンジ、ツバサの決定力が半端ない。

そしてツネとジローのディフェンス能力の高さとタカオのポジショニングがいい。


しかし、負けてばかりではいられない。


ヤマトのセービングはもう小学生とは思えない。

そして気がついたことはヤマトは足元がある。

GKにはもったいないぐらいのキープ力と正確なキック力がある。

そして、ヒロキとタイキの安定したプレイとリョウとユウヤの運動量。

タイヨウの嗅覚というか、どこにでも顔を出すトリッキーな動き。


面白い。


ディフェンシブなんていったのが嘘のように慣れてきたら攻撃的になる。

実質、真ん中の僕が自由に上下に動きながらヒロキとタイキとの3バックみたいなディフェンスで、他のメンバーも常に縦の動きを意識している。


午前2時間、午後は休憩を挟みながら3時間の初日が終わった。


「は~い。終了~」

「疲れた~」

カツコさん

その割には走りっぱなしでしたが、現役のプロフットサル選手ってやっぱりすごいのね・・・。


「じゃあ、今から夕食まで自由時間ね~」

「18時に一階の食堂に集合♪」


やった~!という子どもたちの声に重ねるようにカツコがひとこと。


「自由時間は宿題をすることね~」


自由時間ではないではないですか。カツコさん。


でも、仲間と一緒にする事は楽しい。

サッカーも勉強も・・・。

僕は身体が小さいから蓄えがないのか寝てたけれど・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ