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決断

ZAAL~決断~



大会は、瑞穂の所属クラブのAチームが準優勝。

ZAALは4位で県大会には進めなかった。


そして、瑞穂は翌週の練習のときにコーチにクラブを辞めると伝えた・・・。


「え?辞めるってご両親知っているのか?」

知らないと小さい声で返した。


コーチは「監督に言っておくから、親御さんから正式に退部届けを出すように言っといてな」と・・・。


あっけないな・・・。

小学1年の時に入団してから今まで休まずにやってきたのに辞めるのがこんなに簡単なのかと・・・。

寂しい思いと、次に進むという決断が入り混じった。


練習に参加せずに家に帰るとそこには母さんがいた。


「瑞穂!サッカーは?」


いつもなら面倒くさいから無視するのだけど、今日は違った。


「母さん。僕違うところでサッカーをやりたいんだ」


昔から、僕はやりたいということを反対されたことがなかった。

まあ、自分の意見をあまり言うことがなかったというのもあるのだけど・・・。


「簡単に辞めていいの?」


もっともだ。

1年からやってきたのに、簡単に辞めるって言ったら怒られるかな?


「今のチームから逃げるの?」


「違う!・・・いや、そうかな・・・」



「僕は試合に出たいんだ!!」


僕は初めて心の底の言葉を声に出した。


◆◆◆


そして、今、僕は隣町の企業の体育館にいる。

母さんも反対することなく、いや、珍しく仕事を早く終わらせて付いてきている。


ZAALは笑い声の絶えないチームだった。

6年生は8人、5年生は13人、4年生は5人。

学年別に練習するのかと思えば、コーチふたりに勝手に群がっているように見える。

いや、確かに群がっているだけのようだ・・・。


カツコのボールタッチはすごい。

フリースタイルフットボーラーのように器用にリフティングやドリブルを見せている。


ヤマさんはというと・・・。

体育館の対角線上にコーンを置いて蹴っては百発百中だ。

それよりすごいのは硬い体育館なのにスピンをかけてやわらかい弾道でそのコーンに軽く当ててボールを止めている!


僕は母さんの隣でその遊びを眺めていた。


その時、父親ぐらいの男の人が近づいてきた。

「ZAALの代表をしています高橋といいます」


こわもての顔の低い声の人だった。


「ミズホくんだね。勝雄コーチから聞いています。よろしく」

握手した手は見た目に反して柔らかく温かかった。


「フットサルシューズは持っていないかな?勝雄コーチに言うから足にあったサイズのシューズを選んで中に入ってね」


ZAALに入るには、フットサルシューズや他に何がいるかは入会説明用のチラシを見ていて知っていたが、まさか見学と思った初日に練習に参加するとは思っていなかった。


「22.5センチ~~~?小さいなぁ」と笑顔で言いながらカツコはシューズを出してきた。

体験なので誰かのシューズを使うのかと思ったのに手渡されたものは新品だった。


「これ、ミズホのな」


後で母さんから聞いた話だが、入会金や月謝の中にシューズやユニフォーム、練習着など全て入っていたらしい。

街クラブとしてはそれほど高くない月謝だけど、企業がスポンサーになって親の負担も少なくして子どもたちに思いっきりフットサルをさせようと考えたことらしい。

そして僕がみんなの中に入るのと同時に母さんは高橋代表と事務所に向かっていた。


「みんなあつまれ~」

ヤマさんの大きな声と共に26人が僕の周りに集まった。


「さて、自己紹介な~」


突然、知らない子達の前で話せるか!


「じゃ、タイキ、ヒロキがディフェンスね」


なに言っているのか?このコーチ・・・。


「で、ミズホとカツコとマサオがオフェンスね」


「カツコじゃないですよ~勝雄コーチって言ってくださいよ~」


何するの?自己紹介ではないのですか??って、なんでいきなりボールを渡してるの???


「じゃ、ミズホ~好きに俺様を使ってくれ~」

俺様って、勝雄コーチはそんなキャラだったのか?


「みんなミズホのプレイを見ておけよ!」

緊張するって。


「カツコの本気も久しぶりに見れるしな!!」

「「おお~」」



僕はパサーだ。

ドリブルは苦手ではないけれど足が遅い。


勝雄コーチからボールが出された。

瞬間的に、コート内の5人の姿が頭に焼きついた。


後で聞いたら、この感覚はみんなが持っているものではないらしい。

僕は周りを”感じて”パスを出していたけれど、普通は見て考えてからパスを出す。


ボールを持った瞬間に、マサオのポジションとカツコのポジションが激しく動きながらも、ディフェンスの裏を取りながらゴールを目指すというシンプルなものに感じた。


しかし、タイキとヒロキも小学生とは思えないからだの大きさとスピードを持って対応してきた。

激しく動くオフェンスとディフェンスを感じながらしばらく考えていたけれど、その時間にして3秒ぐらいだった。


カツコに渾身の力をこめてパスを出し、自分はディフェンスふたりの間を抜けてゴール前に入る。

するとカツコはダイレクトで僕の進む先ぎりぎりにパスをくれた。

行ける!と思ったけれど、ヒロキが既に近づきシュートコースを塞いでいるのを感じた瞬間、マサオがフォローに入ってきているのを感じた。

ダイレクトでマサオに出し、ファーに走ると、マサオからカツコへ、そしてカツコからグラウンダーのえげつない速いパスがファーポストめがけて出てきた。

僕は左足で合わすだけ・・・。


「「くっそ~!!」」

タイキとヒロキの悔しがる声だった。


「もう一度ね~」

ヤマさんの声で我に返った。


「もっと自由に動いてね~」

カツコだった。


「フォローするからスペースに入ってね」

マサオだった。


2回目・・・。

僕から横にいるマサオにパス。


「横いらないよ~縦に攻めようぜ」

マサオから戻された。


瞬間、カツコとマサオがディフェンダーの前をクロスして走る。

タイキとヒロキの意識がカツコに集まっているのを感じてマサオにパス。

真ん中ががら空きだ。

パスした勢いを殺さずに真ん中に走るとマサオからやわらかく浮かせたボールが来た。

大きいタイキの頭の上をゆっくりと・・・。

前を向いたまま右の踵で左に開いたカツコにパス。

カツコは僕がその勢いのまま二歩踏み出したところに丁寧なマイナスのラストパス。

ディフェンダーなんて関係ない。

後は僕が右足で当てるだけ。


なにか不思議な感覚。

面白い。


「じゃ、最後3回目ね」

ヤマさんが言いながら近づいてきた。

「ミズホ~ひとりでゴール目指してみな」

「え?」

「パスなしな。ふたりを囮につかってみ」


また、僕からのボール。

囮にってどう使うのだろう・・・。


「「ヘイ!」」

カツコとマサオが同時に声を出しながらカツコが僕の後ろを回る。

マサオが僕の前を斜めに走る。

タイキとヒロキはパスを警戒しながら目はカツコとマサオを見ていると感じた瞬間にドリブルを開始。

マサオに付いていたヒロキが慌てて寄せてくるがお構いなし。

タイキは流石にカツコを意識しているから寄せがない。

カツコが右からゴール前に切れ込む動きにつられ右側が空いた。


フェイントとか、細かいボールタッチとか関係ない。

ただただ速く右のコーナーの空いたスペースにドリブルし始める。

あれ?ゴールがきれいに見える!


感じた瞬間、左足でゴールの左上に巻くようなシュート。


気持ちいい!!!

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