ジュニア大会
ZAAL~ジュニア大会~
合宿何日目だろう。
連戦で日にちの感覚なくなってきた。
こんなに試合をしたのは初めての経験だ。
「今日から3日間はジュニアサッカー大会に出場します」
カナコから朝食を食べ終わったときに発表になった。
何で、いまさらジュニア?とみんなが思ったようで、カナコが見渡した後に話しを続けた。
「ZAALのジュニアで選手登録しているのは8人だけだから、なかなか大会に出る機会がないんだけど、今回の大会はJFA登録選手以外も出れるんだ。
なにより、37チームが出る大会だから、いろんなチームとできるかなと」
「練習試合はやっぱり練習試合なんだよね~
真剣勝負をしないとね~
だから、今回も真剣にね~」
カツコの言葉を受けて、珍しくタイヨウが反論した。
「俺ら、いつも真剣だよ!」
「わかってる~
けどね~
優勝したらトロフィーもらえるって良いんじゃない?
それに、賞品もあるみたいだし~」
そういう問題かよ。
「ZAALで頑張っているって言うご褒美みたいなものかな~」
「あの、勝雄コーチ。優勝するみたいなことをやる前から言わないでください」
カナコが珍しくカツコに食って掛かる。
「だから~大切なのは、負けに行くことじゃないよね~
同世代とやることで自分たちの今のレベルを知るいい機会と思っているんだよ~
だから勝ちに行くぞ~」
って、やっぱりプレッシャーに感じてきましたが・・・。
「じゃ、用意して~30分後にバスのところに集合ね~」
げっ!と言う声と共に、食器を片付けて食堂のおじさんに挨拶して準備に取り掛かった。
市内5箇所で予選をするらしく、僕らの言ったグラウンドはGWにカツコと初めて出会ったところだった。
そして、僕が所属していた少年団のAチームと初戦を戦うことを知った。
「じゃ、スタメンね~
つか、みんな8人制って覚えてる~?」
「「一緒じゃん」」
「お~!じゃあ、特に作戦会議なしね~」
いつもないじゃないか・・・。と思いながらスターティングメンバーも僕らで考えた。
ベンチにはカナコしか入らないらしい。
そういえば、あの時もカツコはグラウンドの外で僕に話しかけてきたな・・・。
タイキが一言。
「初戦のチームは全日県大会ベスト8!ミズホをほったらかしてたチーム!!」
・・・少しずれている・・・
「だから、ZAALのベストメンバーで行くぞ!!」
なんだかみんな気合が入っていますね。
アップの時間になってもまだ話し合っている僕らは大丈夫なのか?
「そろそろユニフォームと選手チェックに行かないとダメだよ」といつも冷静なマサオの言葉で気がつく。
まだスターティングメンバー決まってないのに・・・。
タイキが急いで選手表にまるをつけて本部前に向かう。
誰につけたんだろう?って思ったのは僕だけではなかったと思うけど、今のZAALは誰が出ても同じだ。
ぎりぎりのチェックを済ませて着替えたときは開始5分前。
タイキが名前を言った。
ミズホ、ヤマト、リョウ、ヒロキ、タカオ、マサオ、ツバサ!行くぞぉ~!!!
なんだか、ひとり盛り上がっているが、僕らは淡々とサイドラインに並んで挨拶してピッチに入った。
コイントスとお互いに挨拶のときに僕の姿を見つけて少し驚いた元チームメイトたち。
いつもどおり円陣を組んだときにタイキがポジションを言った。
「3-3-1で行くぞ」
ほんと、ぎりぎりだって。
作戦会議なしのぶっつけ本番。
ヤマト
ツバサ ミズホ マサオ
リョウ タイキ タカオ
タロー
なんだか考えたような考えていないような布陣だった。
ヤマトはフィールド用の12番のユニフォームを着てトップの位置に仁王立ち・・・。
「コテンパンにするぞ!」
あの、そんなこと言っていいのですか?
「「「おお~!!!!」」」
みんなやる気です。
誰もが予想していなかったであろう結果。
この大会の目玉の県大会ベスト8のチームが17失点。
僕自身は4得点で、キーパーのタロー以外全ての選手が1点ずつとった。
これは偶然ではなく、全員が得点するというタイキからの伝言で成し遂げたこと。
失点はなし。
17-0という低学年でも考えられない結果だった。
相手チームは途中から呆然としていたが、ZAALは最後まで手を抜かなかった。
「武士の情けだ!」
いまいちタイキの言うこともわからない・・・。
しかし、カツコは満足そうに微笑んでいた。
「全力を出し切ったな~」と言われた。
◆◆◆
その後の試合も順調に勝ちあがり、3日間無失点優勝でMOM(最優秀選手賞)を僕がもらった。
表彰式の後に少年団の監督、コーチが寄ってきた。
気がつくとカツコが横に立っていた。
なんだか安心する・・・。
「池田くん。すごい活躍だったね」
「あ、どうも・・・」
「そんなに上手いのにうちで活躍できなかったのはコーチの見る目がなかったのかな?」
そこにカツコがグサッと・・・。
「そ~ですね~」
「お宅のチームはチームになってないですね~
小学生は個人の力を伸ばすだけって勘違いしてませんかぁ?
サッカーはひとつのボールをみんなで大切に相手陣地まで運んでゴールに入れるスポーツですよ~
単純だけど複雑なのご存知ですかぁ?」
煽っている・・・。カツコさん。
「ずっと僕はミズホを引き抜いたの気がひけましたが、結果を見てよかったと思います。
子どもの身体の大きさはどうしようもないですが、それ以外はなんとでもなりますよ。
それに親の顔見て、できる子を全面に押し出して勝って自分たちの指導が良かったみたいな話をしてうれしいですか?」
今日のカツコさんとげがある・・・。
「うちも含めて、今のジュニアチームには問題が沢山あります。
勝利至上主義とかね。
指導者の勉強不足なんじゃないですか?」
目の前の人たち固まっていますけど・・・。
「お宅の6番とか良いですね~
でも、楽しそうにプレイしていないですよね~
もったいない」
「10番の子のようにナショナルトレセンに選ばれたのはその子の努力です。
そこから仲間に何を持って帰るのか。
あなたは市トレの現場にいらっしゃいますからわかっているんではないですか?
それとも里田さんの受け売りですか?」
名指しだよ・・・。
段々口調が固くなっているし・・・。
里田さんって市トレの代表らしい。
しかし、カツコってサッカー協会でどんな立場なんだろう・・・。
「年内にもう一度試合をしてくださいませんか?」
カツコさん何言っているんですか?
この人の考えは理解不能です。
「他にもすばらしい原石が沢山お宅の少年団にいます。
彼らが後、半年でどこまで成長できるか楽しみなんです」
「お断りします!」
なんだか、向こうの監督の顔どす黒い色している・・・。
「ZAALだか、なんだか知らんが、金に物言わせて選手を引き抜くチームに用はない!!」と監督さん。
「Jの下部組織ならまだしも街クラブのプロ崩れが何を言う!」とコーチさん。
ふたりの大人はやけっぱち。
でも、カツコは「そうですか・・・残念」とだけ言って僕の手を引いてその場から離れようとした。
いや、何故僕の手を引く??
それに、ZAALは選手の引き抜きなんてしていない!といいたいところに、思わぬ人が割り込んできた。
大湊コーチだ。
「失礼ながら、ZAALは本物ですよ。
うちのジュニアユースの中1ですが、エリートコースの子どもたちが負けましましたから」
「「え!?」」
「勝雄コーチの目指しているものは何かまだ僕にはわかりませんが、僕の考えている上を行っていると感じています。
主役は子どもたち。コーチはあまり口出ししないようにしませんとね。
あと、頑張ったのは選手であり、コーチではないですよ」
大湊さんって印象代わったよ。
あれだけ細かく選手に指示だし説きながら口出さないようにだって・・・。
あとは、カツコと大湊さんが少年団の選手に近づき「機会があったら試合しようね!」と言い残しその場を去った。
カツコは一部のトレセン組みの子たちにしか知られていみたいだが、大湊さんは地元では有名人だ。
前のチームメイトたちは口々に「後ろから、ミズホ!次にやるときは俺らが勝つ!!」といってくれた。
その声を聞きながら・・・。
カツコは僕の手を握ったままだった。
「ミズホ。なんか嫌な思いさせたな」
それがカツコが僕の手を握っていた理由のようだった。




