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新城秋姫はきらわれたいっ!!  作者: 達花雅人
オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について
24/25

これって、ドッキリ?

 放課後。

 学校から素早く帰宅したみなみはすぐさまパソコンを立ち上げUFOにログインする。


「…き、来てるよね?」


 ギルドに入るがまだkightの名前は無い。


「来てない…」


 肩を落とすみなみだったが、もう一度画面を確認すると、ちょうど今kightがログインしたところだった。


「来たっ!」


 すぐさまみなみはkightに向けてコメントを打ちこむ。


『よっ、kight。元気?』

『あ、mimiさんだ。元気元気』

『いやあ、今日も良い天気だよねえ』

『?ww そうだね、天候の良いフィールドはそうだね。今日は、その辺に狩りにでも行く?』


「!? 私の馬鹿っ、怪しまれてるじゃんか!?」


『そうそう、今日はその辺に狩りに行きたくて』

『了解~。他に誰か誘う?』

『二人で行こうよ』

『デートのお誘いいただきましたぁん!!』

『デートじゃねえよwww』


「で、デートじゃねえよ…」


 自信の無いみなみである。


 二人でいくつかのクエストをこなしながら、みなみは、kightがドミンゴなのかどうかさりげなく聞いてみた。


『前話してた子のとこには、今日は行かなかったの?』

『? 前話してた子?』


 いや忘れないでよ。

 覚えててよ。


 みなみは少し泣きそうになりながらコメントを打つ。


『そうそう』

『あー、うん。昨日も言ったけど、その子嫌がってたみたいだから、なんか行きづらくてwww』


「w生やすなよぅ…」


『ホントに、今日は行かなかったの?』

『?ww そうだけど、どしたん?』


「…」


 やっぱり、kightさんがあの子なんだ…。


 心拍数を上げる胸を片手で押さえながら、みなみはコメントを打ちこむ。


『あ、あのね!!』

『? 何?』


 続くコメントをキーボードに打とうとして、みなみの手が止まった。


「…」


 よく考えたら私、ドミンゴって子には罵倒して思いっきり嫌ってただけじゃない。

 印象最悪じゃん。

 よくそんな状態でkightさんに『mimiは実はみなみだったんですよードミンゴさん♪』なんてやらかそうとしたな!?

 そんでkightさんから『OK把握した。じゃ、付き合おう!!』とかなんとか言ってもらえると思ってたな!?


「…ないわぁ」


 ディスプレイの前で頭を抱えるみなみ。


「むしろ『え、mimiさんってあの根暗メガネ先輩だったんですか!? 失望しました、オレ、mimiさんのファン辞めます!!』っていうのが自然な流れよね」


 うん。

 絶対そうだ。

 ここで私=mimiって明かしたら駄目だ。

 言ったら、今の、この関係だって…。


『? mimiさん? おーい。もしもーし? もしかして、回線落ちた?』


 長く黙ったままのmimiにkightのコメントが表示される。


「あっ…。えっと、えっと…」


 少し考えながらみなみがコメントを打ちこんで返す。


『ごめんww ちょっと寝落ちしてたww』

『驚かせないでよw もう落ちる?』

『大丈夫大丈夫、今レッドブル飲んだw』

『ちょww』


 でも。

 ドミンゴとまた一緒にお昼食べたいな。

 少ししつこいけど、楽しいし。

 それに、kightさんだってわかった今なら。


『ね、思ったんだけどさ、やっぱり、その子のとこに行ってあげなよ』

『? 嫌がってるのに無理に声かけるのはよくないよ』

『よくなくないよ。大丈夫だよ! きっと、その子もkightが来てくれなくて寂しがってると思うよ? 会えば喜ぶよ!』

『そうかなあ』


 なんでリアルではあんなにガツガツくるのに妙なところで遠慮するの!?

 もっと強引に来てよ!!


『絶対そうだから!!』

『? 何かmimiさん、妙にその子のこと気にするね?』


「!?」


 もしかしてバレちゃった!?


『mimiさん、やっぱり女の子が好きなの?』


「どんな誤解っ!? それでやっぱりって何っ!?」


 新たな疑問が湧いてしまったみなみだったが、とりあえず今はそのことに触れずにコメントを打ちこむ。


『いいから、明日はとにかくその子のとこに行ってあげて! お姉さんとの約束!!』

『mimiさんの年が気になるwww 了解~とりあえず明日また声かけてみるよ~』


 その後、少しクエストをこなしてから、みなみはkightより先にログアウトした。


「よし…」


 kightにみなみだと言えなかったものの、明日の約束は取りつけた。


「明日会って、ちゃんと私がmimiだって話そう」


 そう言ってベッドにもぐりこんだみなみだったが、冴えた眼はなかなか脳を眠りに誘ってはくれなかった。






 土曜日。

 昼前に授業は終わり、生徒のいなくなった中庭は普段とは違う静けさに包まれていた。

 そんな中庭のベンチに一人座り、みなみは昨日の夜誘った人物を待っていた。


「…まだかな、まだかな」

「まなかな? 双子の姉妹がどうかしたんすか?」

「にょわっ!?」


 みなみが振り向くと、ベンチに体重を預けてみなみを覗きこむドミンゴの姿があった。


「みなみ先輩、こんちわっす~。土曜でもここでお昼ご飯食べてるんすね」


 感心したようにドミンゴがみなみの隣に腰掛ける。


「…そ、そうよ」


 やっぱり来てくれたという思いと、来ちゃったという思いが交錯し、仏頂面でドミンゴに言葉を返すみなみ。


「そうなんすか~。オレ、いつも土曜はすぐに家に帰って飯食うんで、土曜のこの時間の学校とか新鮮なんすよね」

「そ、そう…」


 貴方って、いつも土曜のこの時間はUFOにログインしてるわよね。


 そう言おうとしたが、言葉は出ずにただみなみは俯く。

 そんなみなみの横で、不意に大きなお腹の音が鳴った。


「…貴方、お昼ご飯持ってきてないの?」

「あ、あはは。学食で食べてきてからにしようとも思ったんですけど、先輩どこにいるかわからないし、先に帰っちゃうかもしれなかったんで」


 苦笑しながら頭をかくドミンゴは、構わず食べて下さいと、手でみなみに促す。


「…もう。仕方ないわね」


 そう言うとみなみは、持っていたハム卵サンドを一つドミンゴに差し出す。


「…へ?」


 受け取りながらも、突然の優しさにわけがわからないという顔をするドミンゴ。

 彼は、無償の痛みには慣れきっていたが、無償の優しさには何一つ耐性を持っていないのだ。


「…あげるわ。お腹、空いてるんでしょ?」

「え? なに、今日オレ死ぬの?」

「どういうことよ!?」

「だ、だって、いつもはドライアイスみたいに冷たいみなみ先輩が、気持ち悪いぐらい優しい…」


 何故か泣きながらハム卵サンドをほおばるドミンゴを見ながら、みなみは内心で頭を抱える。


 もっと優しくしておけば良かった!!


「…別に、私はいつも優しいわよ。ほら、お茶もどうぞ」


 そう言って、紙パックのお茶にストローを刺してドミンゴに渡す。

 受け取りながら、ドミンゴが辺りをキョロキョロと見回した。


「先輩」

「…何?」

「カメラはどこですかッ!」

「ドッキリでもないわよ!?」

「…なるほど」


 不意に何かを悟ったドミンゴは、立ち上がってベンチに片足をかけお茶のストローを口に咥え片目をウインクしながらホント気持ち悪いスマイルを浮かべ、みなみに問いかけた。


「先輩ってば、もしかして、オレに惚れちゃったのかな? 駄目だぜ、オレにはこの世の全ての女性とハーゲンダッツを食べるという崇高な使命が―」


 わざわざ声を変え顔を変え振る舞うドミンゴに引くでもなく罵声を浴びせるでもなく、ただじっとみなみがそんな彼を見つめる。

 そんなみなみに居心地が悪くなってきたのだろう。ドミンゴがさすがに何かしらリアクションしてくれといった声でみなみに問いかけた。


「あ、あのー、先輩? 何か言って下さいよ、オレのこと、馬鹿とかサルとかナポレオンに連れてこられた黒人奴隷とか」

「…そうよ」

「はい、何です? オレ、何に見えます? なんて言います?」


 みなみは顔を真っ赤にしながらドミンゴから眼を逸らして言った。


「…私は、貴方のことが『好き』よ」

「…え“?」


 木枯らしが、さわさわと茶色に染まった木々の葉を揺らしていく。

 その枝から葉が一枚離れ、ドミンゴの頭に舞い降りた。


「…あ、あはは。え、えーと、さっきのドッキリの続きですかね? はは、手が込んでますね~」


 ドミンゴがおどけてこの微妙な空気を何とかしようと声を上げた。

 そんなドミンゴの頭についた落ち葉を取り、葉で自分の唇を隠しながら、みなみは風にかき消されそうな声で囁く。


「…二度も、言わせないで」


 風に乗せたその言葉を確かに聞いたドミンゴは、普段のふざけた顔から誰にも見せたことのないような真顔になり、みなみに告げた。


「先輩」

「…何かしら?」

「返事、少しだけ、考えさせてもらってもいいですか?」

「えっ?」


 みなみは驚いた。

 というのも、ドミンゴの下馬評から、てっきりあっさりOKするか、万一にもなさそうだが明るく笑って振ってくるかのどちらかだろうと思っていたからである。

 しかし、目の前のドミンゴは真剣な顔でみなみを見つめながら考えさせて欲しいと言ってきている。


「どうして?」


 みなみの口から、自然とそんな言葉がこぼれた。


 どうして色んな女の子に告白してるのに、私の告白はOKしてくれないの?

 私が根暗メガネだから?

 貴方にひどいことを言ったから?


「ちゃんと、先輩のことを考えた上で、答えたいから。駄目、ですか?」

「!?」


 その言葉にみなみが驚いた後、少しだけ苦笑し首を横に振る。


 ううん。

 やっぱり、貴方は、kightさんなんだね。


「…わかったわ。あと―」

「はい」

「…ううん、何でもない」


 ここで正体を明かすのは、ズルいかな。

 それに言ったからって、OKがもらえる保証なんて、どこにも無いし。


「…明日のこの時間、ここで返事をもらってもいいかしら?」

「わかりました。じゃ、オレはもう帰ります。お昼ご飯、ありがとうございました」


 軽く頭を下げて、ドミンゴが中庭から出て行く。


「…」


 最後まで真面目だったドミンゴに、本当にあれは彼だったのかと夢でも見ていたような気分で、みなみは彼のいなくなったベンチに一人座った。


「…はあ」


 なんだか事故みたいに告白しちゃったけど。


「…」


 mimiであることを言わなくて良かったのかもしれない。


「…ネットでもリアルでも嫌われたら、私、もうどうしようもないじゃんか」


 その呟きは、誰に届くわけでもなく、風に乗って大空に消えていった。

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