万年失恋男と11位先輩
こんにちは!
初めましての方は初めまして。
引き続き読んで下さっている方はありがとうございます。
この話から、ドミンゴと新ヒロインを主役とした番外編「オレのネット彼女がヤバい可愛かった件について」が始まります。
秋姫と孝介が主役の話ではないので、そこのところだけ注意して読んでいただけるとありがたいです。
あらすじが気になる方もいらっしゃると思いますが、第一話を読んでいただければ、大体の話の流れとオチはわかって頂けるかと思います。
短くすっきりまとめましたので、さらっとして感じで楽しんで頂けると、作者としては望外の愉悦に躍動します。
長々と失礼致しました。
それでは、どうぞ(石を投げる準備はお済みですか?)
ドミンゴは、今日も変わらず絶好調だった。
「大江先輩、オレと付き合って下さい!!」
「ごめんなさい。私、ついてる生き物に興味は無いの」
「天童さん、君のことが好きなんだ!!」
「ごめん。悪いんだけど、日本国籍を取得してから出直してきて」
「朝日ちゃん、オレと、ヤろう!!」
「あははっ、保健所に連絡しておくね~♪」
月曜日。
学校にて朝から放課後までに見事な三連敗を果たし、高校に入ってからこれまでの通算百五連敗の自己ベストを新たに塗り替え、晴れた秋空の下、さすがの彼も少しだけ悲しそうな顔でトボトボと一人帰り道を歩く。
吹く風は夏から秋のものへと変わり、彼の人外とも言えるタフな心にもさすがに少しばかりの木枯らしが―。
「よしっ、明日はあの子とあの子とあの子に告白だな!」
吹かない。
もうすでに自分の高校の女子と呼ばれるだいたいの存在に、告白という名のゲリラ的衝突事故をかましてきたドミンゴだったが、何度フラれようが彼の心は折れる気配を微塵も感じさせない。この強靭過ぎる精神力こそが、ドミンゴの唯一の取り柄というか長所というか特徴であった。
家に帰ると、ドミンゴはベッドに荷物を投げ捨て、パソコンを立ち上げとあるサイトにログインする。
アンリミテッド・ファンタジー・オンライン。
通称UFO。
ネットを介してのオンライン上で、ファンタジーに出てくるドラゴンなどの怪物を、ギルドからの依頼を受けて、仲間と共に、自分の分身であるキャラを使って、リアルタイムに進行するアクションバトルで倒すゲームである。
倒した後の素材でやギルドからの報酬でより強い武器や防具を作り、さらに強大なモンスターを狩る。
アクションゲームだが、その戦闘バランスは他のゲームに比べ比較的優しく作られており、初心者にも始めやすいゲームとなっている。サービス開始から登録ユーザーは百万人を超え、今も少しずつ増えていた。
元々それなりにゲーマーだったドミンゴは、四月から本格的に始まったUFOを高校入学以来、ほぼ毎日プレイしているのだった。
「さてさてさーて、今日は来てるかなー?」
自分の所属するギルドの建物に入ると、現在ログインしているメンバーの中に目的の人物の名前を見つける。
「お、来てる来てる」
ドミンゴはコメントを打ちこみ、手を振る動作でその人物に話しかけた。
『こんちわー、早いねー』
そのコメントに金髪のツインテールのエルフの少女がドミンゴに駆け寄り、跳ねるように飛びながらコメントを返す。
『お、kight。何、キミ、今日も暇なの?w』
『うっせw 少なくともmimiさんよか忙しいわw』
kightと呼ばれたドミンゴのプレイヤーキャラであるハゲの地黒のおっさんが肩を竦める動作をする。それに対してmimiと呼ばれた金髪のツインテールの少女が口に手を当てて笑う動作をし、同時に画面にコメントが表示された。
『今日は何狩ろっか?』
『氷歯獣カバルドミランポスとか? 前、あれの武器良いとか言ってたよね?』
『おお、そだね。ヤツの巨砲はカッコいいんだよー♪』
そう言って、背中にしょった巨砲を腰の脇で構えるmimi。
剣から銃から戦車から光学兵器まで様々な種類の武器があり、なおかつ武器間のバランスもそれほど壊れていないのがUFOの一つの長所であるとドミンゴは思っていた。
『あれ? ちょっと改造した? 砲身、前よりさらに長くなってない?』
『よくぞ気づいた!! 前より重量が増えて溜め時間は長くなったけど、その分、威力も格段に上がったのだ!』
『その溜め時間は、一体誰が確保するんですかねぇ…』
『もちろん、キミしかいないじゃないかwww』
『ですよね―w』
そう言ってkightが背中の盾を構えて、盾でmimiを殴る真似をする。
ドミンゴの操るkightの獲物は大盾。攻撃力は他の武器に劣るものの、使い手と積むスキル次第で、モンスターのどんな攻撃もガードしノーダメージにすることが出来る。盾でモンスターの頭を殴って気絶させ隙を作ることもでき、完全にサポートとしての役回りが期待される武器であった。
『いつもごめんねー』
『残念ながら、嘘くさい唐突な感謝の謝罪はNG』
『バwレwたwww』
そうして二人は氷歯獣カバルドミランポスの討伐クエストを受け、極寒の氷湖に降り立つ。
クエストが始まり、開口一番、mimiのコメントがログに表示された。
『あ。ほっかほっかドリンク忘れたw』
『あの、素人さんですか?』
『始めて三か月だからね、仕方ないね』
『これ始まったの半年前なんですけどww』
そうコメントを返し、kightが持っていたほっかほっかドリンクを数個、mimiに渡す。
『いつもいつも悪いねえ』
『いえいえww 今賄賂渡しておかないと、戦闘中後ろから誤射されてガード剥されるからねww』
『三発ぐらいまでなら誤射かもしれない』
『それは誤射じゃないww』
適当にフィールドでmimiの砲撃を盾でガードの練習がてら弾いていると、不意に透き通った音楽が重苦しい音楽に変わる。
『mimiさん、こっちこっち』
『了解~!』
kightが真下に向かって盾を構え、そのすぐ傍にmimiが体を隠すように寄る。
次の瞬間、足元の氷が轟音を共に割れ、真下から巨大なカバを思わせるモンスターがkight達を襲った。
『サービス!!』
その真下からの攻撃をガードで完全に防ぎ切ったkightがカバルドミランポスの攻撃直後の隙を的確に狙って、頭部に大盾で殴打をお見舞いする。打撃音が入りカバルドミランポスが怒りの咆哮を上げるが、その咆哮もタイミング良く防御行動を取ることで硬直を無効化し、咆哮の硬直の残るカバルドミランポスの頭部を殴り、すぐさままた盾を構え次のカバルドミランポスの動きに備える。
そこでドミンゴはパソコンの画面に映った現在のフィールドを確認する。
近くの氷の塊の影。
そこにmimiの現在位置を確認したドミンゴ。
カバルドミランポスのターゲットがkightからmimiに変わったのだろう。カバルドミランポスがmimiに頭を向けて氷湖に潜ろうとする。その前の事前動作で行動を読んだkightが、目くらましのためのフラッシュバンをカバルドミランポスの視線の先に向かって投げた。
画面が一瞬閃光で真っ白になる。光が晴れた後、無様に氷湖に頭をつっこんだままもがいているカバルドミランポスの巨体があった。
『mimiさん、チャンス!』
『オーケー! 任せて!!』
最大威力まで今まさに溜め終わったmimiが、巨砲のトリガーを引く。極大の弾丸がその砲門から発射され、放物線を描いてカバルドミランポスの頭上を襲った。
「あれ? もしかして、この位置って…」
着弾した弾丸が爆発し、巨大な円状の爆風がフィールドに広がる。とっさに嫌な予感に盾を構えたkightだったが、時すでに遅し。着弾点から少し離れ威力は落ちてはいたものの、最大火力の溜め砲撃による爆風である。彼の体力バーは一瞬にして無くなり、彼自身結構久しぶりに見るリスポーン地点送りの映像がmimiのコメントと共にドミンゴのパソコンに映し出された。
『www』
『あなたは笑っちゃ駄目でしょwww』
そして、同時にログに『討伐成功!!』の文字が映し出される。
『たwおwしwたwww』
『やばいw 素材剥げないw』
『急げ急げww』
『ういっスww』
終了時間ぎりぎりで何とかカバルドミランポスのフィールドに戻ってきたkightは、mimiの砲撃による妨害を受けながらも無事にカバルドミランポスの素材をはぎ取ったのであった。
『今日はありがとね~』
それからまたいくつかのクエストをこなし、外も完全に闇に包まれた頃、そろそろ落ちるねと言ったmimiに向かって、ドミンゴが何気なくコメントを打ってみる。
『mimiさん、今度オフ会しない?』
『オフ会かあ。楽しそうだけど、ちょっと怖いかなー』
『ギルドの皆で、どこかのファミレスとかでも?』
『そこは居酒屋じゃないんだw』
『未成年の飲酒は駄目ですよ?w』
『特定しましたwww』
『冗談でも怖いよ!ww』
じゃまたね~と言ってmimiがログアウトする。
「んー、四連敗ってとこかあ」
ドミンゴは少しだけ残念に思いながらも、まあ今日は楽しかったしいいかと思い、ベッドに飛び込んで三秒後に睡魔に身を任せた。
火曜日。
昼休み。
後ろの席のバカップルのいちゃつきっぷりを後学のために見学しようとして、思い切り尻を蹴られ殺虫スプレーを浴びせられたゴキブリのごとく教室から退去を余儀なくされたドミンゴは、売店で買った焼きそばパンと深夜の紅茶を手に持ち、どこか食べる場所は無いかと中庭を歩いていた。
「もう涼しいのに、ここは暑いね~」
秋風が吹き、じんわりとした温かさの太陽の日差しさす中庭を歩くが、彼がいられそうな場所はどこにも無かった。
数多く設置されたベンチには、男女のつがいがいちゃつきながらその場を占拠している。ここでそのピンク色な空間を無視してカップルたちの間に座り込み抗議活動を遂行する気概はドミンゴにはこれっぽっちも無い。
彼は、誰かが笑っている顔が好きなのだった。男女問わず、好きな人には笑っていて欲しい。そんな彼の生まれながらの人生哲学にのっとり、これまで三枚目を演じてきたドミンゴだが、やっぱり彼女は欲しい。
カップルを横目で羨ましそうに見ながら、まだ空いているベンチは無いかと探す。
「ん?」
そして、その場所を、ドミンゴは見つけた。
一つのベンチに、一人きりで座りパンを食べている少女。
ベンチの端に少女一人で座っているが、誰も彼女と一緒に座ろうとせず、そこだけ何か異空間のような存在感を放っている。
そんなことを意に解した様子もなく、少女はパンを食べ、時折思い出したようにストローのついた紙パックの野菜ジュースを飲んでいた。
「こんにちは~。ここ、空いてます?」
脱水した後の洗濯物のような少し湿ったさわやかな笑みでドミンゴは少女に話しかける。
「…」
正面を見ていた少女が、眼だけドミンゴの方に動かし、また正面に眼を戻した。
その反応を肯定と受け取るのがこの男である。
「ありがトゥーッス!」
ベンチの真ん中にどっしりと腰を掛け、パンを食べながら、横に座って同じようにパンを食べている少女をじっと観察するドミンゴ。
「…何?」
そのドミンゴの行動にさすがの少女もイライラ来たのか、傍でガン見しているドミンゴに疑問の言葉を投げかける。
「先輩、いつも、ここでお一人でお昼食べてません?」
「…何でそんなこと、貴方に言われなければならないのかしら?」
あからさまに敵意むき出しの視線を少女から向けられドミンゴの内心は喜びに震えた。震えたが、その様子をおくびに出すことなく、ドミンゴが自らのリサーチ結果を、堂々と本人の目の前で発表し始める。
「本名、白鷹みなみ。二年生の先輩。いつも眼鏡をかけていて、肩より上で切りそろえられた髪形。前髪は校則規定を意識してか眉毛より上で切りそろえられて、地味ながらも元々の素材の良さが生かされている。オレ的校内11位美少女。あ、ちなみにメガネっ娘部門では堂々の一位ね。一人で昼食を取ることが多く、その生態は謎に―」
「死ね。氏ねじゃなく死ね。…ごちそうさま」
ドミンゴの言葉を遮るようにしてベンチから立ち上がり去るみなみ。そんな彼女を見ながら、ドミンゴは少しだけ苦笑いしながら立ち尽くすしか無かった。
「ありゃりゃ…」
寂しそうに見えたんだけどなあと思い声をかけてみたものの、見事に予想は外れていたらしい。
心の中でごめんと謝ると、仕方なくベンチに座って食べかけのパンをかじるドミンゴだった。
『ということがあったんだけどさー、mimiさんどう思う?』
夜。
UFOでモンスター相手にまたターゲット取りをしながら、ドミンゴは近くで溜め動作をしているmimiに聞いてみる。
『キミ、ハート強いね。ワタシだったら、絶対話しかけられないww』
mimiが自分に突進してくるモンスターに、溜め途中の砲撃を放つ。威力が不十分だったためか、ひるまずそのまま突進してくるモンスター。その進路上にkightが割って入り、モンスターの攻撃をガードすることで止めた。
『また話しかけてもいいのかなあ』
ガードされ一瞬動きの止まった敵の頭をkightが大盾で殴ると、殴打の効果音の後、モンスターの頭の上に星が回り、モンスターの動きが止まった。
『一人の時に話しかけてもらうのって、ワタシは嬉しいかな』
止まったモンスターの目の前で溜め動作をし始めるmimi。ドミンゴは手慣れた動作でモンスターの傍に落とし穴の罠を設置し始めた。
『んー、それじゃまた声かけてみるよ。相談乗ってくれてありがとです』
気絶から回復したモンスターが、ドミンゴが設置した落とし穴にはまりまた動きを止められる。
『いやいや、ワタシもいつもキミにはお世話になってるからね~』
穴の中でもがくモンスターに向けて、mimiは溜め攻撃によるガトリングの雨を降らせる。
それでも尚もがき続けるモンスターに、kightが捕獲用のアイテムを投げた。
モンスターにアイテムが当たると同時に『捕獲成功!! クエストが達成されました!!』のログが画面に表われる。
『楽勝だったね』
『ん?w 二回死にそうになってましたよね?ww』
『それは言うんじゃない!ww』
クエストを成功し、ギルドに戻ってきた二人。ドミンゴがパソコンの時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
『そろそろ落ちます~。お疲れ様でした~』
『今日早くない?ww』
『明日も早いんでww』
『特定作業が捗りますなw』
『だからそれはやめろって!ww』
画面のkightの表示が消えたのを確認してから、みなみは大きく息をついた。
「…kightさんに女の子、かあ」
パソコンのディスプレイの前で腕を枕にして頭を埋めるみなみ。
「…いきなりどうしたんだろ」
昨日私がオフ会の誘いをそれとなく断ったから?
「…でも、リアルで会うとか、やっぱり怖いし」
怖い人だったら嫌だしなあ。
でも、kightさん良い人だし、リアルのkightさんも良い人そう。
「…」
kightさんと出会ったのは三か月前。
暇つぶしにネットゲームでもしてみようと思って調べて、一番簡単そうで良いムードのオンラインゲームを探してUFOに行きついた。
それでも、なかなか人とうまく接することが出来ない私は、ゲーム中トップクラスの火力を誇るが周囲をも巻き込んでしまう地雷武器である『巨砲』を使っていたせいもあって、なかなかギルドにも所属できずに一人でゲームをプレイしていた。
現実と同じ。
クラスで浮いて、一人で昼食を食べてる私。
でもある時、一人で戦っている私を見かけたkightさんが、『タゲ取りしましょうか?』って言ってくれて。その後も、kightさんの所属するギルドを紹介してくれたり、mimiの武器の強化にも付き合ってくれたりして。
「…はあ」
ため息をつきながら、みなみはパソコンの画面を見る。
kightの文字は、もうすでに消えている。
kightさんにとってのmimiは、オンラインゲームで仲良く遊ぶただの友達なのかもしれないけど。
「…いやいや、kightさんに彼女が出来そうなんだから、喜んでやれよ私」
こんなんだからリアルでもぼっちなのかと今さら気づいて、みなみが乾いた笑いをあげる。
「…うん。頑張れ、kightさん」
パソコンの電源を落として、真っ黒になったディスプレイに映る根暗な自分を見ながら、みなみは誰に言うでもなく小さく呟いた。
簡単に登場人物紹介。
ドミンゴ:高校生。クラスは1-B。彼女いない歴=年齢。オンラインゲーム『UFO』にハマり、kightとしてプレイしている。暑苦しいノリと変な仇名のせいでモテのモの字も無かったが…? 本名は米澤海斗。でも誰にもその名前で呼んでもらえない。
白鷹みなみ(しらたかみなみ):ドミンゴと同じ高校の二年生。クールかつ残念な眼鏡美少女。『UFO』ではmimiとしてプレイ。UFOで親切にしてくれたkightに淡い恋心を抱いている。




