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新城秋姫はきらわれたいっ!!  作者: 達花雅人
俺のクラスの優等生がちょっとおかしい件について
20/25

俺の彼女がちょっとおかしい件について

「行って来ます!」


 金曜日。

 そう言って家を出る秋姫を、家の塀に寄りかかりながら待っていた孝介が声をかける。


「おはよう」

「こ、孝介君!? も、もしかして、迎えに来てくれたんですか?」

「電車、乗り間違えただけだ」

「孝介君の家、わたしの家から学校に反対方向ですよね?」

「…いいから、さっさと行くぞ」


 頭をかきながら差し出した手を掴む秋姫。その様子をすぐ傍で微笑ましそうに見ている舞子の姿があった。


「あらあら~」


 昨日娘から大体のことを聞いていた舞子が眩しいものを見るかのように二人を見守る。


「!?」

「ま、ママっ!?」


 舞子さん、実は忍者か何かなのだろうか?

 孝介がそんなことを思っていると舞子は素早く孝介に近づいて、小声で囁く。


「秋姫をよろしくお願いしますね、孝介さん」

「あ、ああ、大事にする」

「あらあら。ふふ、これも、受け取って」


 そう言って、孝介の手に何かを握らせる舞子。秋姫も気になり、孝介の手に渡されたピンク色したその何かを見て、二人で朝から顔を赤くする。


「これ、ゴムじゃねえかッー!?」

「あらあら、避妊は大事よ」

「そういう問題じゃねえ!? なに朝っぱらから自分の娘の前でその彼氏にゴム渡してんだよッ!?」

「二人とも、つけない方が好きなの? 確かに、ゴムつけるとあんまり気持ちよくな…」

「マ、ママッ!?」

「おい人妻!?」

「ふふふ、二人とも、お互いを大切にね」


 そう言い残して舞子が家の中に戻っていく。後に残された二人と一つのゴムを見て、二人は真っ赤になって俯く。


「…」

「…」


 とりあえず何も無かったことにしようとゴムを制服のポケットにしまった孝介は、無言で秋姫に手を差し出し、それを秋姫もまた無言で手を取る。そのままお互い顔を真っ赤にしながら駅で電車に乗る。


 吊革に掴まり、比較的空いている朝の電車に揺られながら、秋姫が携帯のメールの履歴画面を孝介に見せた。


「昨日は帰ってから、ずっと友香さんとメールしてたんですよ」

「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」


 孝介が携帯を受け取り、メールの受信履歴を確認してみると、数分おきにメールしており、全部で五十通以上返信が繰り返されていた。


「ん?」


 そのメールの中に添付ファイル付のメールを発見し、好奇心から悪いと思いつつもそのファイルを開いてみようとする孝介。その行為に秋姫が気づき慌てて止めようとしたが時すでに遅し。

 開いたファイルの中身が画面に表示される。


「…なんだこれ」


 孝介がそうこぼすのも無理もない。

 画面には孝介が寝ていると思われる画像や、明らかに隠し撮りしたであろう遠景からの孝介や、ちゃんと許可を得て撮影した孝介など、色々な孝介の写真の画像がフォルダに収められていた。


「あ、あはは…。なんでしょうね?」

「いつの間にこんなに撮られてたんだ…? いや、ともかく、友香に説教しないと」


 そう言って友香に電話しようとする孝介を秋姫が押しとどめる。


「待って下さい!!」

「秋姫?」

「大丈夫です!!」

「いや、大丈夫なわけないだろ。このデータだけで1GBくらいあるんだが」

「他のも合わせると、昨日は全部で50GBほど頂きました!!」

「大丈夫じゃねえ!? もう全ッ然大丈夫じゃねえ!!」

「大丈夫です! お返しにわたしも友香さんに、孝介君と友香さんがベッドでそういうことしてるようにしか見えない写真を加工して送りましたから!!」

「お前らホント何やってんだッ!?」


 とりあえず、このデータは消すと言った孝介に、泣きそうな顔をする秋姫。

 そんな秋姫に、頭をかきながら、変なことに使うなと釘をさした孝介だった。


 高校のある駅で電車から降りて通学路を歩く秋姫と孝介。さすがに他の生徒も多くなり、気恥ずかしさから手など繋いでいられずに、横に並んで少し距離を開けて歩く。


「よっす! 朝から二人で登校とか、またまたぁ~、見せつけてくれちゃってぇ~」


 朝から納豆を食べて歯磨きせずに来たような声が後ろから響くが、孝介は無視して歩き続ける。


「なんだよ~、無視すんなよな~。あ、これ、余裕ってヤツだ? 彼女のいる男の余裕ってヤツだ? 眩しっ、眩しいわ~。あ! 夏だもんな! そりゃ眩しいか! あはは!! あはッ! アハ体験ッ!! …無視すんなよぉ~…!!」


 隣に死ぬ間際の蝉のように鳴いて縋り付いてくるドミンゴを引きはがし、孝介は朝一番の尻蹴りをお見舞いする。

 何故か喜びの悲鳴を上げ、ドミンゴが仕切り直しとばかりにまた二人に話しかけた。


「今日から二人で登校することにしたのか?」

「まあな」

「孝介の家って学校から見て新城さんの家と反対方向じゃね?」

「迎えに行くくらい、彼氏なら普通なんじゃねえのか?」

「こ、孝介君…///」


 何やら、すぐ傍でこのクソ暑い中さらに熱い何かが展開しているのを見てしまい、ドミンゴが唖然とした顔をする。


「ん? あ、あれ、オレの聞き間違いかなぁ。熱さで幻聴が聞こえたのかなぁ。今、孝介の口から彼氏って言葉が聞こえたような気が…。え? 何、二人、付き合い始めたの? じょ、冗談だよな? オレを置いて、二人で一足先に大人の階段駆け上がっちゃったりしてないよな?」

「そうだ」

「な~んだ、冗談かあ~。朝から冗談なんて止めてくれよな~」

「俺は、秋姫と付き合ってる」


 ドミンゴが、二人を交互に見ながら、愕然とした表情で聞く。


「い、いつから?」

「昨日から、ですっ!」


 満面の笑みで微笑む秋姫が孝介の腕に飛びつく。


「人前でベタベタすんな」

「こんなわたしは、嫌いですか?」

「いや、別に、嫌いじゃねえけど」

「ファー――――ッ!!!」


 ドミンゴが朝からところ構わずいちゃつく自覚のない二人を見て奇声を上げた。 しかし、何かに気づき、じっとその一点を真顔で見つめ始める。

 そしてガン見していたせいか、すぐにその邪な視線に孝介が気づいた。


「おい、そこの猿」

「ウキッ!? な、なんでしょう、孝介さん!?」

「お前、さっきから俺の腕に当たってる秋姫の胸見てんだろ?」

「ええもうそれはご立派なものをお持ちで…おぐぅッ!?」


 尻ではなく股の間の急所を正確に蹴り上げた孝介が地面で蹲るドミンゴに言い放つ。


「なに秋姫の胸じろじろ見てんだよ。カニクリームパン、俺と秋姫の分買ってこいよ」

「朝からパシリッ!? せめて昼からにしてっ!?」


 声を上げて突っ込むドミンゴに対して、秋姫がさらに強く孝介の腕を抱きしめながらドミンゴに言い放つ。


「ど、ドミンゴ君、あまり孝介君に近づかないで下さい!!」


 秋姫、色々とドミンゴにはご褒美だから、もうそれ以上餌は与えないでくれ。


「なんでッ!?」

「孝介君を寝取る気ですよね!! そうはさせませんから!!」

「だからそっちの趣味はないからッ!?」

「ドミンゴ」

「おお、孝介。孝介からも新城さんになにか言ってやってくれよ」

「秋姫に近づくんじゃねえ」

「お前もかよ!? …ふっ、彼女取られると思って心配するとか、純情すぎるぜ、孝介」

「ドミンゴ菌がうつって秋姫に変な仇名がついたら困るだろうが」

「いやドミンゴ菌って何!? それに菌で仇名はうつらないからねッ!?」


 いいからどっか行けと孝介が尻を蹴りあげると、ドミンゴはねっとりとしたさわやかスマイルを浮かべながら孝介達に一度振り向き決して受け取られることは無いウインクを投げかけると、御先に失礼と学校に向けて駆けていく。


「…」


 そんなドミンゴを見ながら、秋姫がぽつりと呟いた。


「ドミンゴ君って、いい人ですよね」


 いい人止まりってことだけどな。


「秋姫、それ、ドミンゴの前で言うのは止めとけよ」

「? どうしてですか?」


 一瞬悲しんだ後、小躍りして喜びそうだから。


「あの」


 立ち止まり、秋姫は少しだけ不安そうな表情で孝介を見上げる。


「どうした?」


 問い返す孝介の制服の袖を軽く掴みながら、秋姫は言った。


「これからもずっと、きらってくれますか?」


 一瞬だけ驚いた孝介だったが、すぐに優しく笑いかけながら、秋姫の頭を軽く撫でる。


「ああ。そんなあんたが、俺はきらいだからな」


 その言葉に、朝の太陽に照らされた秋姫が、その熱さに負けまいと微笑んだ。

 そして、人の往来なんて構いやしないと、二人はゆっくりと口づけ合う。


「んっー」


 もうすぐ、夏が終わる。

 そして、二人の恋が始まる―。


 ~FIN~


 これにて『新城秋姫はきらわれたいっ!!』無事、完結となります!

 ここまで読んで頂き、ありがとうございました!!


 そして、次回から、とある男の番外編をお送りします。

 是非、幸せになってしまう彼のために、石でも投げてやって下さい。



















 あと某ノクターンにて「俺の彼女がえっちだった件について」というタイトルで、ちょっとしたおまけを書きました。

 内容は、タイトル見たらわかりますよね?(笑)

 興味のある方は是非調べてみて下さい。

 あ、18歳未満の人は絶対読んじゃ駄目だよ!!(フリじゃないよ!!)


 それでは、来週の番外編でお会いしましょう!!

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