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新城秋姫はきらわれたいっ!!  作者: 達花雅人
俺のクラスの優等生がちょっとおかしい件について
19/25

その想いと枕に口づけを

 秋姫は、頭から何かがずり落ち、肩に触れた冷たさに声を上げて目覚めた。


「ひゃん!?」


 飛び起きると、傍に氷と水が入ったビニールが所在無げにベットの上に横たわっていた。


「ここは…?」


 秋姫が部屋を見回す。整然と整理された部屋でほこり一つ見当たらない。本棚には洗濯・掃除・料理・子育ての本が並んでいる。その並びに、秋姫はこの部屋の持ち主が誰なのかすぐに思い当たった。

 秋姫はそのラインナップにくすりと微笑むと共に、今の自分の状況を再確認する。


 孝介との話の途中に倒れ、ベッドに寝かせられて、介抱された。


「…///」


 その事実に今更ながら気づき、倒れる前のように真っ赤な顔にする秋姫だったが、この状況は彼女にとっては幸せ以外の何物でもない。


 好きな人に介抱されて、好きな人のベットにいる。


 そして、好きな人は今、ここにはいない。


 それならば、秋姫のすることは一つだけである。


「よしっ…!」


 こんな機会、もう二度とないかもしれない。


 そう思い、誰にアピールするでもなく病人のフリをしてまた孝介のベッドにもぐりこむ秋姫。

 そしてタオルケットを全身に被り、じっと孝介の存在を堪能する。


「十日町君の、匂い…」


 すんすんと、シーツやタオルケットに孝介の匂いを求める秋姫。どこが一番孝介を感じられるかと、秋姫がその匂いを探す。


「あっ…」


 そして秋姫はその場所を発見した。

 頭の下。秋姫の頭を支える枕。

 その場所に一番強く孝介の存在を感じた秋姫は、横になり枕を抱きしめながらその匂いを存分に嗅ぎ倒す。


「十日町君…」


 顔を枕にこすりつけながら、秋姫はうわごとのように孝介の名を呼ぶ。


「十日町君十日町君十日町君…、好き、好き、好きなんです…」


 秋姫の気分が最高潮になったその時、引き戸が、人に見せられないことをしている子供に対して何の遠慮もプライバシーもなく部屋に入ってきて、その後一週間ろくに口を聞いてくれなくなった母親のように、何の前触れもなく開けられる。


「新城、熱は下がった――かッ!?」

「!? ひゃいっ!?」


 手に水と薬を持ち、引き戸を開けたままの動作で固まる孝介。

 対して、孝介の枕を胸の前で抱きかかえたまま、真っ赤な驚愕の表情で孝介を見ている秋姫。


「…」

「…」


 お互い、しばらく見つめあったまま固まっていたが、先にその硬直を解いたのは秋姫の方だった。


「あ、あのあのあのっ、こ、これは、ですねっ!?」

「く、薬、ここ、置いとくからな。早く飲んで、良くなれよ」


 そう言って持っていたものを部屋の入り口にそっと置くと、そのままの流れで迅速かつ正確に引き戸を閉めようとする孝介に、誤解を解くために秋姫が早口で孝介に告げる。


「ち、違うんです!! こ、これは、頭がおかしくなったとかじゃないんです!!」

「お、おう…。わ、わかってる。あ、あんたがその、枕フェチなのはわかった」

「どんな誤解っ!?」

「そ、その枕はあんたにやるから、とりあえず落ち着け」

「違いますわたしは枕フェチじゃありませんそう決して違うんです違うんですがこの枕いただけるというのなら是非いただきますっ!!」

「やっぱり枕フェチじゃねーか!?」

「ち、違いますっ!!」

「なら何なんだよ!?」


 孝介のその言葉に、秋姫は枕を抱きかかえたまま、ベッドから立ち上がり、ゆっくりと孝介に近づく。

 そして、開けられた引き戸を境にして、二人が向かい合った。


 秋姫は大きく一度息を吸い込み、眼を瞑って孝介に向かって叫ぶように言い放った。


「わたしは、十日町君フェチなんですっ!!」

「…は?」


 秋姫の言葉に、今だよくわからないという表情を浮かべる孝介。


「あ、あう…」


 どうしたら自分のこの想いを伝えられるだろうと秋姫が考え、これから特攻に行く飛行機乗りのような気持ちで決意する。


「も、もう、こうなったら…!」


 そう言うと、秋姫はまだ絶賛動揺中の孝介に近づき、少し背伸びをして孝介の唇に自分の唇を軽く触れ合わせるように口づけた。


「こ、これでも、まだ、わからないですか…?」

「!? な、なななっ!?」


 突然の秋姫の行動にうろたえる孝介に、抱きしめた枕に唇を埋もれさせながら秋姫は言う。


「これが、わたしの、気持ちです」

「新城…」

「前に、キスは好きなヤツにするものだと十日町君は言いました」


 枕から顔を上げ、泣きそうな顔で秋姫は孝介を見つめて言った。


「わたしが好きなのは、あなたなんです」

「新城、俺は…」


 孝介が何か言おうとするが、それを遮って、秋姫が言葉を続ける。


「小さい頃、助けてくれました。そんなあなたは、わたしにとっての憧れで。高校で同じクラスになって、その時のお礼を一言だけ言いたくて、あなたに嫌われようとして。でも、あなたはやっぱりあの頃と変わらず優しくて。そんなあなたと一緒に過ごすうちに、わたしはいつのまにか、あなたのことが好きになっていました」


 そこで言葉を切り、大きく息をつく秋姫。


「きらわれたかった理由を告白しても、あなたはわたしを拒絶するどころか、友達だって言ってくれて。本当に嬉しかったんです。でも、やっぱり友達は嫌です。あなたの、彼女になりたい。だから、言います」


 決意の光を宿した凛々しい表情で、秋姫が孝介に告げる。


「わたしは、新城秋姫は、十日町孝介君のことが、大好きです」


 ここにきてようやく、孝介も自らが生まれて初めて、異性から告白されているのだということに気づいた。『もしかして秋姫は自分のことが好きなのではないか? いやいや勘違い勘違い』と思っていた孝介は、未だ自分の秋姫に対する気持ちの整理を出来ないままに唐突にこの展開を迎え、もはや頭はオーバーヒートし特攻が一段階下がってしまったような状態にあったが、目の前で泣きながら告白してくれた秋姫は、可愛くて抱きしめてやりたいとしか思えない。そして、そう思うことこそが答えなんだろうと、この一瞬でそう理解した孝介は、ゆっくりと秋姫に返答し始めた。


「いきなりキスしてくるあんたが嫌い」

「す、すいません…」


 委縮する秋姫に構わずに孝介は言葉を続ける。


「ゴキブリの真似するあんたが嫌い。いきなり抱き着いてくるあんたが嫌い。パンツ見せてくるあんたが嫌い。ストーカーも顔真っ青なことした後、学校をおもちゃ箱にするあんたが嫌い」

「あう…。すいません」

「人の寝込みに膝枕してくるあんたが嫌い。キスをせがんでくるあんたが嫌い。勝手に人の夢に出てきて睡眠時間をごりごり削ってくるあんたが嫌い」

「あ、あの、最後のって、わたしのせいなんですか…?」

「その他諸々、あんたが嫌い」

「ざっくりまとめたっ!? そ、そうです、よね…。わたしなんて、十日町君に嫌われて、当たり前…」


 俯く秋姫に、孝介はいつかと同じようにまた手を差しのべて、言った。


「そんなあんたの、全部が俺は好きだ。俺の、彼女になって下さい」

「…えっ?」


 驚き顔を上げた秋姫。

 差し出した手で、秋姫の手を取り、体を引き寄せ孝介がいたづらっぽそうに笑う。


「お返しな」


 そう言って一言断り、孝介が秋姫の口を自分自身の口で塞いだ。


「!? んっー!?」


 真っ赤な顔のまま、驚き眼を見開いた秋姫。

 そしてその瞼がゆっくりと閉じられ、その拍子に涙が一筋、その頬を伝った。


 時間にしてほんの数秒。

 口づけあった二人がゆっくりと離れる。

 

「これから、よろしくな」

「…もっと」

「…へ?」

「…もっと、キス、したいです」


 熱に浮かされたような顔で言う秋姫に少しだけ孝介が苦笑しながら、二人はまた口づけを交し合う。


「んっ…。ちゅ」


 部屋に、二人が口づけを交わす濡れた音だけが響いた。

 秋姫の持っていた枕がずり落ち、床に落ちる。それに構わず、秋姫は孝介の背中に腕を回し、より密着した状態で孝介に口づけた。


「んっ…ちゅ。とおかまちく…、んっ…好き、好きです、ちゅむ……んっ!?」


 夢中になって孝介の唇にキスの雨を降らせていた秋姫だったが、突然、違和感を感じ、ばっと孝介から距離を取った。


「い、いい、今、なにしたんですかっ!?」


 半分わかっているのだろう。それでも、秋姫は真っ赤な顔で孝介に問いただす。

 そんな秋姫の様子をニヤリと笑いながら、孝介は舌を軽く出して秋姫にあっかんべーの顔をした。


「俺、あんたの驚く顔、好きかもしれない」

「なっ、ななななっ!?」


 わなわなとおののき、秋姫が手の甲で自分の唇を隠す。


「と、十日町君は変態さんだったんですかっ!?」

「あんたにだけは言われたくない」


 そんな孝介の言葉に、秋姫はきっ、と真剣な顔になりまた孝介に近づいていく。


「ま、負けませんからっ!」

「おう。来い」


 戦いを始めようとするような顔でお互い顔を近づけあう。そして、互いに眼を開けたまま、また唇を重ね合わせ始めた。


「んっ…ちゅ…」

「な…新城」

「んっ…なんですか?」

「秋姫って、呼んでもいいか?」

「にゃ!? はい…呼んで、んっ…欲しいです。わたし、もっ、ちゅ…、孝介君って、んっ…、呼んでいいですか?」

「もちろ…んむッ!?」


 秋姫が孝介の舌を自分の口の中に吸い込むように招き入れ、舌で弄んで言葉を中断させる。そして、息を吐くと共に、孝介の舌を解放し顔を離した。


「ぷはっ…。ふふ、やってやりました!」


 さっきのお返しを成し遂げたぞの赤い色のドヤ顔で秋姫が孝介に微笑む。


「やりやがったな…」


 そんないたづらっ子はちゃんとしつけないとなと、なにかよくわからない使命感にかられた孝介は、手で秋姫の頬に触れながら静かに告げた。


「秋姫、覚悟しろよ」

「へっ…? あ、あの、十日町君? 顔、怖いですよ…?」

「孝介、だろ?」

「あ、こ、孝介君、顔が、怖くなってますよ…?」

「元からだよ」


 そう言うと、孝介は両手で秋姫の顎と頭を掴み呼吸をするのも困難なキスをお見舞いする。


「ちょっと待って孝介く…、ん、んむぅ~!? んっ…、こ、こうすけく、ちゅむ…んっ、んっ―!?」


 秋姫が酸欠でぐったりするまで、二人のキスは続いたのだった。

聞かれそうなことを先にここに書いてしまいます(その3)


Q、告白の場所が主人公の部屋とか、地味すぎ。お祭りとか、盛り上がるイベントのラストにするべき。

A、結ばれた後、都合がいいじゃないですか(ゲス顔)

Q、っていうか、この後って、絶対したよね?

A、ご自身の高校時代のそういうことに対する関心度合いを思い返してみてください。

  そ う い う こ と で す。

Q、今回の続きあくしろよ

A、逆に考えるんだ、この先を書かないことで、秋姫の処女と孝介の童貞は永遠なんだと考えるんだ(処女厨童貞厨に配慮する作者の鏡にして、エロが書けない創作者の屑)


 次回でいよいよ完結いたします。

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