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新城秋姫はきらわれたいっ!!  作者: 達花雅人
俺のクラスの優等生がちょっとおかしい件について
13/25

嫌いな告白

 あの新城が告白、か。

 ま、ありそうな話だよな。


「待ち合わせしてる場合じゃないな」

「だろ!? 落ち着いてられないだろ!?」


 お前はもう少し落ち着け。


 さて、どうしたものか。


 ………。

 ……。

 …。


「よし帰るか」

「どーしてそうなるのォーッ!?」


 ドミンゴが帰ろうとする孝介の袖を引いた。

 

 やめろ。誰かさんを思い出して妙な気持ちになるから。


「いや、だって新城がそいつとくっついたらそいつと帰るだろ。そしたら俺がずっとここで待ってんのも時間の無駄になる。新城には俺は先に帰ったと伝えといてくれ」

「いやいやいや。おかしくね? それおかしくね? なんでお前はそんな冷静でいられるわけ!? お前と新城さん、付き合ってんじゃねえの!?」

「だから違うってさんざん言ってんだろうが」


 そこでドミンゴは大きくため息をつき、孝介を見て言った。


「なあ、孝介。お前ホントそれでいいの? 例えばだけどさ、オレと新城さんが付き合ったら、お前どうするわけ?」

「は? どうするって、全力で別れさせるに決まってんだろ」

「なに当たり前だろみたいな顔でさらっと酷いこと言ってんのッ!?」

「お前みたいなヤることしか考えてない思春期の猿の毒牙に、新城を犠牲にさせるわけねえだろ。犬のケツ舐めるように世の中舐めてんじゃねえぞ」

「さらに酷いッ!? そしてなんでお前が新城さんのお父さんみたいになってんのッ!?」

「そんなん知るか。あんな変な女でも、悲しい思いをして欲しくないだけだ」


 言った後、孝介は舌打ちした。孝介を見るドミンゴの目が急に生暖かくなったからだ。


「いってらっしゃい~。多分、屋じょ…キンテキッ!?」

「…ふん。今度パイでも食わせてやるよ」


 頭をかきながら、悶えるドミンゴを放置し、屋上へと向かう孝介だった。






 いて欲しい時と、いて欲しくない時がある。


 自分は今どちらを望んでいるのだろうと思いながら、孝介は屋上の扉を押す。

 鍵のかかっていないそれは、ゆっくりと開いた。気づかれないようにさらに扉を少し開けると、風に乗って男女の声が聞こえてきた。


「君のことが好きなんだ、新城さん。僕と、付き合って欲しい」


 どうやら前置きは全て終わった後の決定的な瞬間にちょうど来たらしい。もう少し扉を開けて屋上の様子を覗いてみると、男女が一人ずつ一定の距離を開けて向かい合って立っていた。


 男の方は眼鏡をかけた鼻筋の通った顔をしている。A組の中村とかいう孝介がまるで知らない男は、真剣な顔つきで、向かい合った秋姫に言葉を紡ぎ、そして口を閉じ秋姫から紡がれる言葉を待っている。その表情には緊張の他に余裕のようなものも感じられた。


 対する秋姫は、地面に視線を落として中村の言葉を聞いていた。この状況でも言いたいことは全て聞いてから考えて返事をしようとする。それが秋姫という少女だった。


「…」


 今更になって、孝介はなぜ自分がこの場でクラスメイトの告白なんぞ聞いているのだろうという気分に陥る。


 別に付き合ってるわけじゃない。

 秋姫とあのメガネが付き合おうが付き合うまいが関係も無い。


 いや。


 本当に関係ないのか?

 ドミンゴと秋姫が付き合うのは生理的に絶対反対だが、あのメガネは全く知らない。

 もしかしたらすごい良いヤツなのかもしれない。

 いや、いくら良いヤツだったとしても相手はあの新城だ。

 いざ付き合っても新城が変なヤツだってことに気づいて、頭おかしいとか言って別れるかも。

 だが、それは当人達の問題だしな。

 よし。

 とりあえず、あのメガネが良いヤツであることを期待しよう。


 二人の様子を見ながらそんなことを考えている孝介のことなど知らず、秋姫は少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「ごめんなさい…」


 あ。

 新城のヤツ、フっちまったか。

 やっぱり、告白されてもフってきたって噂は本当だったんだな。


「ど、どうして!? り、理由を聞かせてくれないかな?」


 まあ、男としては聞きたいだろうけどな。


「ごめんなさい…」


 うん、そうだな。良い対応だ。その気が無いのに、変な期待を抱かせるのも駄目だな。変に期待させてストーカーになられても困るしな。


「僕の告白を断るってことは、やっぱり、十日町って男と付き合ってるのか?」


「!? ぁ、おうああああぁ~…」


 ドア越しに孝介は変な声を上げながら頭を抱える。

 今まで気楽にこの告白劇をテレビの一視聴者のような気分で見ていた孝介だったが、これ以上ないタイミングで自分の名前が悪用されたことに頭を抱えざるを得なかった。

 出来ればすぐに飛び出していってこの誤解を解きたいが、告白を台無しにするのと余計な修羅場になりかねないので、カエルがつぶされたような声でじっと頭を抱えている他出来ることは無いと思い、じっとこの会話の落ちがどこに向かうのかを頭を抱えながら聞いていた。


「ち、違いますっ!? 十日町君は…」

「なら、何だって言うんだ? 最近、君は彼と仲が良いそうじゃないか。しかも、噂だと彼に嫌われて喜んでるんだろ?」

「!? ち、違う…わたしと、十日町君は…」

「新城さんがそんな変態だとは思わなかったよ」

「!?」

 

 その言葉に驚いた秋姫を無視して、中村は秋姫に近づいていく。秋姫が後ずさるが、それも屋上のフェンスによって阻まれた。


「や、やめて。こ、来ないで…」

「変態なら、こういうのも好きなはずだよね? 大丈夫、僕なら存分に変態な新城さんを嫌ってあげられるよ」


 中村は嫌がる秋姫の肩を掴み、フェンスに押し付ける。


「ふふ、興奮する? 僕も興ふんんんんんーッ!?」


 中村の手が背中に回され捻りあげられた。


「いだだだッ!? な、なんだお前はッ!?」


 孝介が驚いた中村の眼鏡を指で軽く弾いて屋上の小汚い地面に落とす。


「落ちたぜ。拾いな。テメエのそのクソゾウリムシみてえな良心と一緒によ」


 言いながら孝介は中村を蹴飛ばす。蹴飛ばされた中村は屋上の床に倒れたまま孝介を睨みつけた。


「お前は何だと聞いているんだッ!!」

「あ? 俺はコイツのクラスメイトだ。それ以上でも以下でもねえ。質問が済んだのなら、そのこじゃれた腐れメガネと一緒にテメエをやる前にさっさと失せろ」

「…くッ! 嫌われて喜ぶような変態が」


 捨て台詞を残しながら中村が屋上から出て行った。


「大丈夫か?」


 うずくまり震えている秋姫に孝介は傍に座りながら声をかけてみる。


「ごめんなさい…」

「こういうこと、今までもあったのか?」


 秋姫は首を横に振る。


「そうか。怖かったな」


 言いながら、妹にやるように頭を撫でようか迷った孝介だったが、結局何もせずただ秋姫に傍に座っていた。


「自業自得、ですよね」


 やがて、ぽつりと秋姫が呟いた。孝介は何も答えず、秋姫の言葉を待った。


「十日町君に嫌われて喜んでいたのは事実ですし、こんな変な女、嫌われて当然ですよね」


 嫌われたかったんじゃないのか。


 そんな言葉は、孝介の口から出るはずもなかった。

 今、目の前で震えている秋姫に、何と言ったらいいのかわからず、そんな言葉が浮かんでしまっただけだ。


「当然じゃない。あんたは嫌われていいようなヤツじゃねえよ」

「…」


 秋姫は何も答えず俯いたままだった。

 日が傾き始め、沈黙に耐えられなくなって、孝介は腰を上げた。


「教師と保健医呼んでくる。気づかずに怪我してるかもしれないしな。ここにいろよ」

「はい…」


 その後、呼んだ教師に孝介は簡単に事の概要を伝え、保険医に秋姫を引き渡し、保険医が秋姫を送っていくというので一人で孝介は帰路に着いた。


 




 水曜日。

 登校し教室の自分の席に座った孝介だったが、ホームルームになってもまだ来ない秋姫に気づき、一限目の終わりに目の前の尻を蹴り上げそのことについて聞いてみることにした。


「? 新城さん? 今日は風邪で欠席って噂だけど?」


 昨日あんなことがあったばかりだ。風邪じゃないだろうと孝介にも簡単にわかる。

 

「で、新城さん、昨日はやっぱ告白だったのか? もしかして、その告白に悩んで休んでるとか。いや、でもそれはさすがに考え過ぎだよなあ」


 ドミンゴ、お前、その空気読む能力もう少し肝心なとこで使えよ。


「出かけてくる」

「え? いや、これから二限目始まるんだけど」

「今日、俺は有給を使う」

「いや学生に有給とかないからねッ!?」


 サボり宣言をし、荷物をまとめて教室を出る。廊下でこれから授業の教師達とすれ違ったが、無視して出口に向かう。


 校門を出ると携帯が震えた。


 メール。

 差出人はドミンゴ。

 文面にはいかがわしいホテルの絵文字がずらり。


「…」


 ん、アイツはいつも通り馬鹿だな。


 携帯をしまい、孝介は秋姫の家に向かうべく、まだ朝の空気の残った街を駅に向かって駆け出した。

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