崩壊するテトラポットと世界の果てに降る雨について
タイトルはクロエ様よりお借りしております。
青春と葛藤のお話。
崩壊する
テトラポットと
世界の果てに
降る雨について
「なぁ……」
「あぁん?」
「なんで俺らこんなとこにいんだ?」
「なんでだろうなぁ!」
ガスッ。
少しマヌケな音をさせてヤツの頭をはたいた。
「お前が連れて来たんだろッ!」
「いってーなぁ。わかってんなら聞くなよー」
ヤツ…陸と俺は所謂幼馴染みというやつで、19年の人生の中でほとんど同じ時を共に過ごしている。そんな俺でも陸の突飛な行動は予測出来ない。という訳で俺たちは今、真冬の海岸に来ている。
夏になれば、寂れたこの町の海岸でも比較的人が来て賑やかになるが、今はさっきも言ったように冬真っ盛りの二月中旬。当然ひとっこひとりいない。
「おい!こんなとこに俺を連れて来て何する気なんだ!!」
「いや別に?」
「理由もなく来たのか!?」
「うーん…どうだろ」
こいつがこうやって言葉を濁すときは何らかの事情がある場合が多い。でもそんなこと知ってたまるか!俺は寒いんだ!なんの不運か雨まで降ってきたではないか!
「陸、寒い!」
「えー?まだ来たばっかじゃん」
「お前が無理矢理連れて来たんだろ!」
この海岸までは陸が取ったばかりの免許で車を運転してきたので俺はこいつに送って貰わなければ家に帰れない。ちくしょう、俺が免許を持っていれば陸を置いてでも帰るのに!
「なんか話あんだろ!さっさとゲロっちまえ!そして家に帰せ!」
「え、なんでわかったの?」
「何年一緒にいると思ってんだ!舐めんなよ!」
「………大した話じゃないんだ」
急に真剣な顔付きになった陸。予想していない切り返しに少し動揺する俺。シリアスな沈黙が二人を包む……と、その前に言っておこう。
「大した話じゃないんかい!!」
「あ、うん。まぁ」
「よし、じゃあ話ってなんだ」
「……はぁ。俺らさぁ、来年成人じゃん?」
「あーそうだな、忘れてた」
「おいおい。…だからさ?最後の十代、思い出に残るようなことをしようかと思って」
「…なんでだ?」
「だって、十代最後だぜ!?なんか、こう…あるだろう?」
陸はそうして言葉に詰る。確かに陸の言っていることもわからなくはない。自由に遊んでいられる未成年と、あらゆる責任を負う成人では世界が違う。ような気がする。
「けどさ、俺たちが死ぬ訳じゃない」
「…え?」
「思い出なんて、これから山程増えるし、俺とお前の関係だって大して変わんねぇよ」
「本当に?」
「おぅ」
「…そうだと、いいな」
「なに弱気なこと言ってんだよ。お前らしくねぇな!」
「そうか?」
「俺たちが変化を望まない限り大丈夫だよ」
「そっか……そうだよな」
「あぁ!」
こいつはあれだ。たぶんマリッジブルー的な感じだったんだ。俺たちの関係、互いの存在理由、それが成人という小さくも大きい儀式によって変わってしまうことが怖かったんだ。
成人になり住む世界が変わってしまうんじゃないかと、怖くなっただけ。でも俺たちの関係は、この雨のように適度な間隔で触れ合い続けていくんだ。
「よし、帰ろう!」
「え、もう?」
「当たり前だろ!雨降ってるし!」
「(もうちょっと空気読めよなぁ…)」
崩壊する
青春時代と
僕らの間に
降る雨について
END