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利己的で独善的な判断みたいです

「あははははははっははははは!!

 どうしたどうした!

 あたしはまだピンピンしてるよ?

 最後の賭けとやらは外れちまったようだね。

 どこに隠れたんだい……

 出ておいで!!」


 嘲りの哄笑を放つエクダマート。

 良く見ればその豊満な胸元の中央に、凄まじい斬撃の痕跡が残ってます。

 忍者固有のスキル<真空斬破>によるものでしょう。

 全身の闘気を手の指先に集中させ、大気をも切り裂き振り抜く忍者の最終奥義。

 使い手によってはドラゴンをも打倒しうる業。

 しかしこれは諸刃の剣でもあります。

 比類なきクリティカルな威力の業ですが、その抑制には尋常でない負荷が掛かります。

 幾ら鍛え込まれた身体といえ、理を逸脱するのは反動が凄まじいのです。

 全身の毛細血管が破裂し、神経が断絶すると父様から聞きました。

 おそらくゼノスさんが闘気拳を使い真っ向から立ち向かう事で囮となり、

 隙を狙って繰り出したクヨンさんの一撃で決着をつける。

 そういった予定の短期決戦だったのでしょう。

 高位レベルの生物すら斃し得るその攻勢に抗う術はないからです。

 ただ一つ。

 二人の誤算はエクダマートの特異性を考慮してなかった点です。

 顕識圏で補足する私だから理解出来ます。

 彼女はいうなれば群体生命体。

 あそこで視える彼女は無数の意志を持った火の要素の塊なのです。

 だから通常の上位精霊を打破するように中心を貫くのではなく、

 微細で矮小なる核を狙うか、エクダマートという群体そのものを滅ぼさなくてはなりません。

 少しでも残ってしまった場合、時間が掛かるとはいえ、その復元性により元に戻りますから。

 自分達の様子を窺う私の視線に気付いたのか、口パクで話してくる二人。

 口々に「逃げろ」だの「ここは引き受ける」だのと話してきます。

 しかし私は微笑を口元に浮かべ首をフリフリ拒否します。

 嫌ですよ。

 そんな事を言われても私が逃げられる訳ないじゃないですか。

 決して二人を置いてはいけません。

 たとえ不器用と呼ばれようとも。

 これが私なりの流儀です。

 だから私はフォンさんを安全圏まで遠ざけ、深呼吸をし宣言します。

 隠れてる二人を葬りさろうと、隠れ場所ごと焼き払わんが為、

 再び爆裂魔術を放とうと魔力を集中させてたエクダマートの気を逸らし、

 更に戦う者としての礼儀と心意気を告げる為に。


「お待ちなさい!!」

「あん?

 おや、お嬢ちゃん……

 あたしの可愛い子供達をもう片付けたのかい?」

「ええ。フォンさんのお蔭で」

「消去魔術師といい、嬢ちゃんといい……

 悪い子さね。

 少々お仕置きが必要だ……」

「お仕置き?」

「そう……

 絶望に満ちた苦悶の怨嗟という名のお仕置きがね!!」

「やれるものなら……やってみなさい!

 ただ村人に対し非道な行為を行う貴女を……

 私は全力で止めて見せます!!」

「へ~随分言うじゃないか。

 いったいそこに何の理由があるんだい?」

「理由?

 そんなものはいりません」

「ほう……」

「何故なら私はユナティア・ノルン。

 誇り高きカルティア・ノルンとマリーシャ・ノルンの娘だから。

 悪行を憎み、善行を尊ぶ事を心地良いと感じる。

 いわば利己的な判断の持ち主だから。

 私は、私の独善で貴女を裁きます!」

「口だけは立派だね……

 それじゃ……態度で示して貰おうかい!!」


 歪んだ笑みをたたえ、エクダマートは標的を私に変更し襲い掛かってきます。

 挑発した甲斐がありました。

 ヘイト管理はバッチリ上手くいったようです。

 後は私がいかに巧みに捌き切れるかが焦点となるでしょう。

 払う。

 突く。

 薙ぐ。

 刺す。

 穿つ。

 避ける。

 躱す。

 いなす。

 放つ。

 練る。

 絡める。

 走る。

 駆ける。

 飛ぶ。

 戦闘に関連する動作。

 様々な判断を要するそれらを、反射を凌駕する顕識圏下で連携。

 集中による思考加速。

 闘気による身体強化。

 練法による技能構成。

 気と魔力の収斂をも要所で併用し、更に最適化し統合。

 攻勢に到る動向を事前に把握し迷いの無い攻防を行う為に。

 記憶に残る父であり師である人の面影を思いながら。

 澱みと躊躇が一切無い、洗練された一連の動作が脳裏に浮かびます。

 それはまさにS級冒険者の名に冠する人の御業。

 今の私ではそんな父様の足元にも及ぶ事は出来ません。

 だけど自らが為す事を為すという意志は負けないつもりです。

 更に切り札となるものが唯一つあります。

 父様をも地に伏した、自己流<  >

 無限の可能性を秘めた<  >の構成を思い浮かべながら、

 私は迫り来るエクダマートに相対するのでした。


 


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