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自動人形の様な機能美みたいです

 顕識圏に虚獣が触れた瞬間、自動発動される<対抗反撃>スキルや<即応反射><限界突破>スキル。

 その名に恥じぬように私の身体は自動的に動き、虚獣にとって致命的な武器である退魔虹箒を叩き込んでいきます。

 承認認識と脳内パルスを遥かに凌駕するそのスピード。

 虹色の穂先に触れた先から存在意義を術式演算され崩壊。

 抗う隙はなく、驚異的な殲滅速度で虚獣達を蹴散らしていきます。

 時折私に跳び掛かろうとする奴や炎を吐こうとする輩もいますが、的確にサポートしてくれるフォンさんの消去魔術によって事無きを得てます。

 敵を直接消し去る事は出来ないという制約があるみたいですが、少しでも身体から離れれば大丈夫みたいですね。

 今も飛び交う炎が私に届く前に消えていき、飛び掛かろうとした虚獣の足元がごっそりと消えバランスを崩してます。 

 虚獣を相手取りながら目線で感謝する私。

 照れた様に赤面しながらも、真剣な眼差しで戦場となった村を見詰め返すフォンさん。

 その眼に宿るのは義憤なのでしょうか?

 熱くなり過ぎないと良いのですが。

 冷静さを失った者から脱落していくのが戦場の怖さです。

 私はアラクネからの報告だけでなく数少ない実戦経験を通して学びました。

 致命的なミスが出ない内に早めに片付けた方が良さそうですね。

 決意と共に隙を見い出し、再度臨み行く私。

 要所要所で気による身体強化を施し、誰よりも最速で動く事を心掛けます。

 重要なのは一瞬たりとも止まらない事。

 澱みなく動き続ける……そう、流水をイメージ。

 更には鉄血にして冷血なる状況把握と判断。

 理想は、シャス兄様のような突き詰めた精神集中の極致。

 そう、魔を狩る自動人形の様な機能美を。

 研ぎ澄ませば研ぎ澄ます程、自己という認識が薄れていく感じ。

 ああ、私は今オートマッティック。

 何者にも侵せない、この領域。

 陶酔と恍惚に思わず我を忘れかけて……


「ユナたん!」


 た瞬間、焦ったフォンさんの呼び声で我に返ります。

 驚きに立ち竦む私。


(私はいったい、何を……?)


 ふと周囲を見渡せば、そこに虚獣達の姿はなく、量子分解する燐光だけが立ち昇ってます。

 それだけなら驚きません。

 私が一番驚いた事。

 それは箒の穂先をフォンさんに向けていた事です。

 口元に歪んだ半月すら浮かべて。


「わた、私……」

「だだだだ大丈夫!

 全部ユナたんがやっつけた。

 後は心配いらないよ!」

「今……我を忘れて……

 戦いに酔ってフォンさんまで……」

「それは違う!!」

「えっ?」

「ユナたんは自分に出来る最大限の行為でボクを護ってくれたんだ!

 決してそんな筈がない!」

「どうして……そんなことが言えるんですか?

 私は私自身だって信用できないのに……」

「だって君は優しい娘だから」

「え……?」

「マイスター商店に来て何も言い出せないボクに対し、

 笑顔で話し掛け、何が必要なのか明るくお喋りしちゃうような娘だから……

 親衛隊ボク達は惹かれたんだ。

 メイド喫茶だけじゃないんだよ」

「フォンさん……」


 彼が言ってるのはマイスター商店で店番のバイトををしてた時の事でしょう。

 確かに時折、冒険に不慣れそうな方が迷い込む事がありました。

 誰にでも初めてはあるもの。

 私は私なりに気を遣って接客させて頂きました。

 必要かどうかは分からないですけど、助言さえしたこともあります。

 ジャレッドおばさんにはサービスのし過ぎと窘められましたが。

 ですがアドバイスをした中に、彼等の様な方達がいたのでしょう。

 正直覚えていません。

 でもそれは彼等の中では何より印象深く残ってくれたみたいです。

 人と人のつながりが思わぬところで確認され、嬉しくなっちゃいます。

 因果応報ではないですが、私のやってきたことは無駄じゃなかった。

 闇に堕ちそうな私を何気ない人が支えてくれた。

 母様の教えに救われたんです。

 そう思うとポカポカとした想いに胸が満たされる感じすらします。


「ありがとう、フォンさん。

 これからも私を支えてくださいね」

「そそそそそれは勿論!

 でゅふふごほふっコポォ(ごふっ)」


 笑顔で感謝する私に、何故か満面の笑みで噎せ返るフォンさん。

 よく分かりません。

 激しく咳き込むフォンさんを適度に介抱しつつ、

 私は離れた場所で戦闘をしてる筈のゼノスさんとクヨンさんの姿を探します。

 莫大な闘気を直接相手に叩き込み破壊する闘気拳オーラナックルという戦法を得意とするゼノスさん。

 その補助に回ったクヨンさんは陽動を兼ねつつクリティカル狙い。

 相互補完が為され、良い関係だと戦闘中にチラ見した時は思いました。

 まず視界に入ったのはニヤけた嗤いを浮かべるエクダマートの姿。

 闘気による攻撃を幾度も喰らったのでしょう。

 火の要素で構成された身体に揺らぎが視えます。

 あれならあと一押しで斃せそうです。

 しかし二人の姿が見えません。

 いったいどこに!?

 周囲を更に見渡し探します。

 いました!

 彼女から距離を取る様な森の中。

 薄暗い木立に隠れる様に潜んでいる二人。

 でも……


(大丈夫ですか、二人とも!?)

 

 叫び声により見つかる事を危惧し、息を呑む私。

 そこにいたのは、

 頭部から激しく流血し、片膝をつくクヨンさんと、

 炎上し炭化したような左腕を抱え込むゼノスさんの姿でした。





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