自戒というより誓いみたいです
周囲の冒険者さん達の協力を得て、全ての虚獣を斃したのはそれから五分後の事でした。
奴等にとって致命的な武器である退魔虹箒を持つ私がオフェンス。
他の方々が陽動兼ディフェンスを引き受けてくれた為、殲滅自体は比較的容易でした。
やはり役割分担がしっかりされてるのは効率が良いですね。
残心と共に残敵が無い事を念入りに確認します。
耳を澄ます私に聴こえるのは村を焼く炎の爆ぜる音。
騒動に巻き込まれた村人達はどうにか無事に逃げられたみたいです。
今頃は自宅に戻り安堵してる頃でしょう。
いえ、違いますね。
怪我をした方……そして亡くなられた方は、この広場近くの治療院に担ぎ込まれるのを見ました。
彼等の安息と冥福とを祈りながら私は至らない自分に歯噛みします。
無論私は御伽話に出てくるような勇者や騎士ではありません。
人より優れた特殊能力はありますが、どこにでもいる普通の人間です。
だからこそ苦悩し焦燥に駆られるのです。
あの時、こうしてれば良かった、と。
後悔後先立たずとはいいます。
けれど……もっと効率的に何か出来たのではないでしょうか?
確かに私は彼等村人達に対し、いい印象を持ってませんでした。
母様を蔑ろにする彼等を心の底では嫌ってさえいた。
でも、だからといってこんな虫けらみたいに無惨な殺され方をしていいはずがありません。
一度死して転生した自分だからこそ分かる事があります。
人生にはやり直しもリセットも無い。
自分は偶々運良くナイアル様に救って頂いただけで、普通は死というものは避けられない不可逆で絶対なものなのです。
それ故に人は悔いのない生き方をしなくてはならないのですから。
けど今回村を襲ったのは人としての尊厳を根こそぎ踏み躙る様な横暴な行為。
無差別テロ。
主義主張も曖昧な子供の戯言の様な妄想。
母様の事とは別に、どうやら奴等<ミズガルズオルム>とは徹底的に決着をつけなくてはならないと実感しました。
私が私らしくある為に。
卑劣なる悪を憎むという、自らのエゴを貫く為。
祭り会場に飛び散った犠牲者達の血痕を見ながら、私はそう誓うのでした。
何はともあれ現実です。
私は乱れた浴衣の裾をそっと直すと、既に火事の後始末に動き出してる共闘してくれた冒険者さん達に話し掛けます。
「今回は助かりました、皆さん」
深々と一礼をします。
決して謙遜ではなく、私が掃討に専念出来たのも、いぶし銀のように渋い地味で堅実な彼等の支援があったからこそです。
20代の男性3人組の彼等は確かBクラスパーティー<星探し>のメンバーです。
メイド喫茶に足しげく通って下さったので覚えてます。
誠実そうな青年がリーダーの戦士さん。
どこか斜に構えたのがシーフさん。
目線を合わせず下を向いてるのが魔術師さんな筈です。
鎧などを装備してない普段着なので確証は持てませんが。
「いや、礼を言うべきはこっちの方だよ。
あの獣達には通常攻撃が効き辛いみたいだったし、
君がいなければどうなってたか。
なあ、クヨン?」
「ゼノスの言う通りだ。
厄介な事態に巻き込まれちまったから焦ったぜ。
祭り見学に護身用の武器しか携帯してなかったからな。
ああいう物理攻撃が効き辛え相手には苦心させられる。
お蔭で助かったぜ、可愛いお嬢ちゃん」
誠実なゼノスさんとは違い、小馬鹿にしたようなクヨンの口調。
どことなくミスティ兄様を連想させられます。
「そのお嬢ちゃんというのは止めてください」
「だって嬢ちゃんだろ?
なあフォン?」
「ちちちち違う!」
「えっ?」
「か、彼女は至高なるアズマイラの長、ユナたんだ!
た、タメ語は親衛隊会員ナンバー003のボクが許さない!」
「えーっと……」
「許さない……(ふるふる)」
「ま、まあ……俺が悪かった。
ユナだったか?
さっきはホントにありがとうな。マジで」
「あ、いえ……」
ローブをはためかせ反論するフォンさんに罰が悪そうに謝罪するクヨンさん。
私も毒気が抜かれた様になってしまいます。
しかし親衛隊って……
私の預かり知らぬところで何か恐ろしい事態になってる気が……
「しかしまあ、今回の襲撃は何だったのかね~。
こんな辺境の村を襲って何がしたいのやら」
「それは恐らく……」
「そこまでにしといた方がいい」
クヨンさんの疑問に応じようとした私を遮り、
ゼノスさんが鋭く上空を見据え警告します。
「え?」
「まだ終わっていない」
その指摘に反応するかのように、
宙空に広場の端々から火の粉が舞い、集い始めました。
やがてそれは一点に凝縮するや、人の姿を形作ります。
挑発的な眼差しで扇情的な肢体を晒す赤毛の女性へと。
直感的に判別しました。
この女性こそが今回全ての元凶である、と。
「へえ~なかなか鋭いボウヤがいるじゃないか。
反省を踏まえて今度こそ気配を完璧に消したのに」
「気配を読んだ訳じゃない」
「ふ~ん。
それじゃ、何でさ?」
「聖戦士のジョブを持つ自分は啓示スキルで直観する。
本質的な、悪の在りかを。
気配を絶とうが無駄だ」
「なるほどね。面倒な輩がいたものだ。
どうにも上手くいかないもんさね」
「何者ですか、貴女は……」
「あたしかい?
訊かれたなら答えなきゃならないね」
女性は可笑しそうにクククと笑います。
「あたしの名はエクダマート。
偉大なる魔神皇様にお仕えする6魔将が一人<怨焔>のエクダマート。
以後お見知り置きを……って必要ないか。
アンタ達はここで死んじゃうんだからね」
淫靡な舌を覗かせ愉悦を浮かべるエクダマート。
その言葉に無言で臨戦体勢に入る私達。
魔戦の火蓋が切られようとしてました。
更新です。
合わせてユナの先祖、勇者シリーズも更新致しました。




