血臭漂う凄惨な惨劇みたいです
今回文中に残酷な描写があります。
苦手な方は次章に飛ばす事をお勧めします。
地獄絵図。
駆けつけた先に繰り広げられた光景は、まさにその一言に尽きました。
苦しみもがき、絶望のまま亡くなったのか開眼したまま息絶えた老人。
臓物がはみ出た腹部を押さえ、苦悶の声を上げ逃げ惑う青年。
自分の無くした片手を探し、泣き惑う少年。
我が子の躯を抱き締め、絶叫し続ける母。
櫓は業火を纏い炎上し、広場の周囲には火の粉が舞ってます。
こうしてる間も爆発音と共に悲鳴と苦悶が響き渡ります。
老若男女差別も区別なく、暴虐の嵐が吹き荒れたかのようなその惨状。
凄惨なその光景に思わず立ち竦みそうになるのを必死に堪えます。
今まで修羅場を潜り抜けてきた自覚はありますが、ここまでの惨劇はなかった。
いえ、違いますね。
現代日本とは違い、この世界にはこんな悲劇がどこでも転がってます。
情報収集機関である<アラクネ>などというものを組織した私は、データとしては知っていたのです。
ただ……あくまで知ってるだけで識ってはいなかった。
実体験を伴わないそれは、あくまで被害者数や被害額に留まります。
きっと銀狐達が故意に内情を伏せてくれてたのもあるのでしょう。
盟主である私を思い憚ったその心遣いに感謝すると共に、ぬるま湯に浸かっていた自分の現状に歯噛みします。
更に自己嫌悪を駆り立てたのは自分自身に対してです。
冒険者と思わしき人々が協力し合い、
瓦礫から救助し、
治癒術式を施し、
物言わぬ遺体を運ぶ中。
その中に見知った人の姿が無い事に、私は内心ほっとしてしまったのですから。
それだけでなくせせり上がる情動すらありました。
因果応報。
母様を虐げた報い。
心の底で抱いていた、昏い感情。
人して最低な愉悦に心が歪みそうになります。
だけどそんな私を救ったのは、
今も鮮明に思い浮かぶ、母様のあたたかい笑顔でした。
「傷付き病める人がいたら……
出来るかぎりでいいから助けてあげてね」
「どうしてですか、母様」
「互いが助け合えば、お互いが少しだけ幸せになるからよ。
決して神様が望むからじゃない。
内なる自分を育てる為にも必要なの。
利己的な理由も含むわ」
「情けは人の為ならず、ですか?」
「あら。難しい事を知ってるのね、ユナちゃん。
そうね……誰かに施す善意は、その人のためになるばかりでなく、
やがては巡り巡って自分に返ってくる。
勿論、善行をアピールしてるようでは駄目なんでしょうけど。
陰徳あれば必ず陽報あり、ってね」
「難しいです」
「うふふ。あんまり深く考えなくていいのよ。
困った人を助けたい。
それは余力があれば人が抱く自然な感情でしょう?
それを忘れないでね、というお話よ」
そう言って私を抱き締めてくれた母様。
たとえ綺麗事でも、幼子であった私達へ真剣に向き合いしっかり話す姿が忘れられません。
私はその事を思い出し、血臭と火の粉が舞う広場で拳を握ります。
確かにこの村の人々は褒められた性格じゃない者が多かったです。
しかしだからといって、
こんな人としての尊厳を凌辱するような死を迎えていい筈がありません。
二重の意味で赦せない想いが心を滾らせます。
けど、今は後悔する時間じゃない。
私は近くにいた人達へ声を掛け、避難を促します。
「こっちです! 早く!」
恐慌に駆られただ逃げ惑っていた人々。
指向性を与えられお蔭で意志を取り戻したのか、広場から走り出ていきます。
私は混乱の中、少しでも秩序を保とうと声を出し続けます。
幸いワキヤ君達の姿はなく、どうにか逃げられたようです。
メイド喫茶を開店する時、必要ないと言い張る皆を説き伏せ、強引にやった避難訓練が役に立ったのかもしれません。
その事に安堵しつつ、見知った冒険者さん達と共に救助に当たります。
けど、私はついに気付きました。
怒涛の様に押し寄せる人々の奥、
悲劇をもたらした奴等の姿が見え隠れしてるのを。
人々を殺める事に特化したような鋭利なデザイン。
異形とでも呼ぶべき人でもない獣でもない奇怪なその姿。
恐ろしいのは完全とはいえないでも不可視だからです。
幸い今は炎の輝きと熱気に揺られその姿が見えてますが、それが無ければ姿を捉えるのは難しかったでしょう。
光の屈折を利用した、透明な魔物。
伸縮自在そうな双腕を見るまでもなく、間合いの取りづらい厄介な相手です。
これだけ距離が離れているのに戦慄を禁じえません。
周囲の冒険者達もそう思ったのか、救助活動を止め、思い思いに構えます。
その瞬間、声を上げた私達の動向が注意を招いたのか、
奴等が一斉にこちらへ飛び掛かってきました。
冒険者さん達が方陣を組もうとしますが間に合いません!
なし崩し的に乱戦が開始され始まるのでした。
新規お気に入りありがとうございます。
突如、村を襲った惨劇。
内心から浮き上がる昏い感情。
ユナは如何に立向うのでしょうか?




