言葉を失っちゃうみたいです
「それでは本題に入らせていただきます」
「ええ」
「まず魔神皇と名乗る輩についてです。
確認できた活動開始時期は今から20年前。
辺境を主体に破壊工作や人心扇動などの反体制活動を行っておりました。
王制に対する不満を持つ領主達を抱き込んで反抗を企み、組織形成。
小規模ながら内戦寸前の状態にまで勃発させております。
軍隊同士の闘争になり掛けますが……
時の勇者<雷帝イズナ>率いるS級パーティ「雷神の右腕」によって討たれ、
当人は封印処置、組織は鎮圧された様です。
多くの惨劇と謎を残して。
辺境では彼等の活動を支持する者が多かったのが難点だった様ですな。
反体制活動の裏で、戦災孤児の支援や飢饉に対する慈善活動なども行ってましたので。
それが本心か、自らの組織の駒とするべきかは不明ですが。
盟主様は既に霊長の守護者から伺ってるかと思いますが、
その正体とは異界からの来訪者……
即ち異世界転生者です」
「一連の詳細は把握しました。
成程……私と似たような境遇なのですね」
確かにネムレスから概要は聞いていました。
しかしこうして改めて他人の口から聞くと驚きを隠し切れません。
動向を探りやすくする為、私がこの世界に転生した経緯については、
信用の置ける者達にのみ情報を開示してます。
「はい。盟主様も異界の神の恩寵を受けこの琺輪世界に転生されたとか。
故に年齢以上の判断力、処理能力なども納得できるのですが」
「一言余計です」
「申し訳ございません。
これが生まれ持った性分なので」
「貴方の悪癖は拾った時から変わりませんね。
それが理由で貴族から切り捨てられたのでしょう?」
「ええ、まあ。
しかしそれ故に盟主様に拾って頂けましたし」
「何を嬉しそうに苦笑いしてるのですか。
貴方を拾ったのは利便性があったからです。
何か勘違いしてませんか?」
「いえ、何にも」
「なら良いですが。
いえ、良くないですね。
詳しく追及したいところですけど……今は報告が優先ですか(はぁ)。
それで、続きは?」
「はい。では話の続きですが、
確かに魔神皇と盟主様は似てらっしゃいます。
されど大きく違う点がございます」
「何です?」
「勇者の系譜とはいえ、人間に転生した盟主様とは違い、
彼のものは高位魔族に転生したのです。
しかも封印を免れたとでもいうべき個体に」
「……本当ですか?
私も詳しくは知りませんが……伝承によれば、
百年前の魔族との大戦時、多くの高位魔族は数多の勇者達により討伐されるか、
神々の魂を宿した神担武具の使い手達により封印された筈では?」
「遥か北、氷に閉ざされし神々の黄昏の地に封じられしもの。
彼のモノ達を縛る呪縛が解けし時、世界は終末を迎える。
だから人よ、忘れるなかれ。
弱き者達の為に戦いし、尊き勇者達の功績を。
魔術書などに記載されてる内容ですね」
「ええ。以前探った時に読みましたが」
「大まかな部分では合致してます。
しかしこれには一点、誤りがございます」
「誤り?」
「はい。前大戦は人類側の勝利という事で後世に伝わってますが……
実際は痛み分け、贔屓目に見ても引き分けが正しいのです」
「どういうことです?」
「人類の反攻作戦、俗にいう最終決戦に臨んだ勇者達により魔族の女王は討たれました。
多くの犠牲者を出しながらも。
統括上位魔族は精神生命体である魔族の柱。
女王を斃す事により多くの魔族は休眠期に入ったのですが……
いたのです。
奴等の中に、おぞましき方法を謀ったものが」
「何です?」
「人でもない魔族でもない新しき存在を作り出し、それに憑依し同化する。
そうすれば休眠期に入らず種族から独立した存在となる。
更に付加価値を付与すればそれはまたとない強さともなる。
即ち人と魔族の融合個体の作成です。
魔族としての魔力容量に身体機能。
人族としての魔術操作に各種技能。
忌まわしい事に話を持ち掛けた魔族を積極的に支援した馬鹿な貴族共がいたようですね。
永遠の命や魔族の統治後の権勢の保障等に唆されて。
資金的バックアップに人的提供まで受け、遂にそれらは決戦前に完成します。
ゼアブリッドと呼ばれる彼等。
それは種族の頸木から外れ、人族の戦闘技法と魔族の力を操るという恐ろしい存在になるはずでした」
「でした?」
「はい。如何なる偶然が奇跡を生んだのか、
兵器として生み出された彼等に自我が芽生えたのです。
これはゼアブリッドを構成する様々な素材の中に人の赤子を入れた為と推測されてます」
「……非道な」
「まさに外道の所業ですな。
まあ奴等はすぐにその報いを受けました。
創造主に反旗を翻した彼等は、全ての関係者を惨殺。
関連施設を完膚なきまでに破壊し、人知れず行方を晦ましました。
この事を知り得たのも、荒廃した関連施設跡へ探索に赴いた冒険者達が見つけた研究員の隠し金庫にあった内部資料からです。
資料によれば彼等ゼアブリッドは繁殖力すら持つとか。
そしてこの結果により、恐るべき結論が導き出されます」
「まさか」
「ええ。彼等こそ魔神皇の先祖……
女王とは別に栄えし魔族、
つまり新しき魔族の系譜の始まりです」
「!!」
銀狐の告げた衝撃の真実に、
流石の私も掛ける言葉を失うのでした。
お気に入り登録と評価、本当にありがとうございます。
作品を書く励みになります♪
あと少しは敵側の情報開示編になります。
別シリーズの裏話的な意味合いもあるので気付いた方はニマニマして下さい。




