見通しの甘さみたいです
周囲に闇の帳が下り祭りの喧騒が最高潮に達しようかという頃。
私は盛り上がる皆から離れ、そっと距離を置きます。
「おい、ユナ!
もうすぐ花火の時間だぞ!」
「もう~察しなさいよ」
「鈍感です~」
勝手に誤解したクーネちゃんコタチちゃんによって、
怪訝そうに私の行方を尋ねたワキヤ君が堰き止められます。
二人とも、グッジョブです♪
しかしお花を摘みに行くわけではないのであしからず。
でも気遣いは嬉しく感じます。
軽く手を振り応じると、私は村外れの寺院裏へ向かいます。
朽ち果てた建物。
今は使われてない社に背を向け、闘気を指に纏わせます。
螺旋を描き手中を循環する仄かな燐光。
闇夜にうっすらと輪郭が生じます。
やがて背後に突如現れる気配。
隠行とはまた違う別個の圧迫感。
闇世界の住人特有の、抗い難い澱みとでもいうべきもの。
けど私は動揺したりせず、自分でも驚くほど冷たい声色で誰何してました。
「銀狐」
「は、こちらに」
背後にいたのは白の狐面に着流しを着た銀髪の男。
アラクネと私を繋ぐ端末にして幹部、
王都有数の情報屋である銀狐でした。
私は無言で後方へと手にしたリンゴ飴を放ります。
危なげもなくキャッチし、深々と頭を下げたのが感じ取れました。
「定時連絡、御苦労。
些細ですがそれは差し入れです」
「盟主様の為なら我等は労苦など感じません。
更に手ずからこのようなものを頂くなど、光栄でございます」
「相変わらず口が巧いですね」
「気になるならやめますが?」
「貴方から口を取ったら何が残るのです?」
「これは失礼。
手厳しい」
「もう慣れましたから」
「左様で。
それにしても……本日も、真に可愛らしいお召し物で。
随分お似合いですね」
「世辞はいりません」
「いえ、本音で御座います。
先日もメイド喫茶なるものを開催されたとか。
連日お疲れ様でございました。
その盛況ぶり、遥か王都まで鳴り響いております」
「どこまで本当やら」
「真実で御座います。
物見高い貴族や冒険者達の間でも噂で持ち来たりです」
「へえ~それがホントなら仕掛ける価値はありそうですね」
「判断はお任せ致します。
ただ……個人の感想では、かなり軌道に乗るかと推測されますが」
「考えておきましょう。
それで……肝心の首尾は?」
「はい。盟主様の御指示通りに奴等の動向を探らせました。
ここ数年の沈黙が嘘のような暗躍ぶり。
にわかに活性化しております」
「推測通り、ですか」
「ええ。ただ懸念事項が幾つか」
「聞きましょう。
何です?」
「まず、盟主様に命じられ事に当たらせていた先遣隊ですが」
「ああ、高レベル取得者を主体としたものですね」
「はい」
「それがどうしたのです?
誰か怪我でもしましたか?」
「いえ。
スキル構成や構成員の把握などに成功したのですが……
全滅、致しました」
「!! そんな!?」
「遺憾ながら事実です」
「だって平均レベル60以上のBランク編成ですよ?
そんな簡単にやられる訳が……」
「信じられないのも無理はありません。
しかし今回はスキル構成をサーチ系に割いた者が多かったせいか、
まともな戦闘を行えなかったという弱みがあります。
殲滅ではなくあくまで偵察がメインでしたので」
「……私の予測が甘かったという訳ですね。
ええ、了解です。
これからは各員に転移石を常備させなさい。
更に不足な事態に備える為、転移術法を使用できる者が傍でバックアップ出来る様にも」
「はっ、すぐに対処致します」
「それと」
「?」
「亡くなった者の……特に家族には可能な限り賠償を行いなさい。
逝った者が心置きなく、残されし者が不自由なく暮らしていけるよう。
これは厳命です」
「畏まりました……お優しい、盟主様」
「所詮は自己満足ですがね」
「やらない偽善よりやる偽善の方が千金に値します」
恭しく慇懃無礼とも取れる一礼をする銀狐に対し、
私は自分の見通しの甘さを歯噛みしながら拳を握るのでした。




