自分を戒めちゃうみたいです
メイド喫茶も無事終わりを告げ、数日後。
程々片付けも完了した頃、村では夏祭りが開催されることになりました。
大きな櫓が噴水広場に建てられ、周囲を沢山のノボリで囲まれてます。
協賛する商店の名前が書かれており、
中には見知ったマイスター商店の名前もあります。
その間を縫う様に掲げられるのは提灯みたいな形をした魔導照明で、仄かな輝きを燈してます。
遠くから聴こえるのは笛や太鼓の祭囃子。
……何だか凄く地球の祭りっぽい感じがしますね。
でもそれも当然な事なのです。
幼少からこの様な共通項を疑問に思ってた私は、
守護者として世界事情に詳しいネムレスに尋ねてみました。
返答によればその昔、異世界(日本や中国辺りらしいです)より渡ってきた者達から文化が輸入されてきたからだとのこと。
勿論様々なカタチに変化はありますが、大元は一緒らしいです。
まあ世界は違えど、祭り好きなのは人間変わらないみたいですね。
誘いを受けた私は浴衣に着替え(着付けが出来るのでいつも強制参加です)、
ワキヤ君を適当に、クーノちゃんコタチちゃんの浴衣を可愛く着付け、
このお祭り会場へと足を運んできたのでした。
時は既に夕暮れ。
斜光の落陽と夜の闇が鬩ぎ合う時刻です。
淡い影法師ような人込みで賑わう広場。
団扇を片手にやってきた私達はその人の多さと出店の数に驚きます。
「うお~すっげー!
見た事も無いお店がいっぱいだ!」
「村長が誘致に力を入れたって」
「わ~綺麗~」
「よ~し、全部の店を制覇するか」
「あ、いいかも」
「賛成~~~」
「なら、いくぞー!!」
「「「お~~♪」」」
今回メイド喫茶で得た収入は公平に分配され、皆のお小遣いはかなりのものになりました。
豊富な資金を得、ほくほく顔の三人と共に縁日というか屋台を巡る事にします。
わたあめ、焼き串、型抜き、射的、焼き粉物。
どこか郷愁を駆り立てる催し物達。
都から来たという出店の味には皆で舌鼓を打ち、
珍しい魔導具の小物売りに大はしゃぎします。
そんな私達ですが、時折思い思いの服装で祭りに参加していた冒険者の方々にも声を掛けられました。
メイド服でなく浴衣も似合うという褒め言葉の後にいただくのは、
「メイド喫茶楽しかったよ」
「凄く可愛かったし」
「ケーキ美味しかったな~」
「○○、萌え~だよね」
「ネムレス様素敵♪」
「シャス子たん……ハァハァ」
というメイド喫茶(仮)に対する感想でした。
最後の辺りはともかく、締めに掛けられる共通項。
「またやってね。
絶対応援するから」
飾らないストレートさ。
率直な評価に私は胸が熱くなります。
思えば転生して7年。
色々な事がありました。
異世界でメイド喫茶を確立する為、無我夢中で進んできた私ですが、様々な幸運と多くの人々に支えられ助けられてきました。
ただ心残りは母様の事。
母様の居場所は不明ですが、ティアとの対話でその生死が判明しただけでも大きな前進です。
ティアとの事はまだ家族に打ち明けてはいません。
いきなりでは困惑するからです。
ですが父様も兄様達もきっと喜んでくれるでしょう。
しかしヌカ喜びにしない為にも、もう少し詳細な情報がほしいところです。
依って私を盟主として仰ぎ傘下にある情報組織<アラクネ>にも指示を出し、
更にディープに、より詳しく探るべく手筈を整えました。
網の様に張り巡らされたネットワーク。
腕の良い諜報員達による情報収集。
先物取引や情報の売買で得た潤沢な資金を基に結成された特務機関。
成果が楽しみです。
きっと奴等は動く。
ならば迅速に察知し、動向を捕捉する。
それが裏世界を掌握する私なりのアプローチです。
あまり褒められた行為ではありませんが。
惜しむらくは汚れたこの内情を皆に曝け出せない事。
無邪気に振る舞うこの子達は絶対巻き込めないから。
ユナティア・ノルン。
無慈悲な女王。
相反するペルソナを巧みに使い分ける為にも、
私はより一層の自戒を心掛けるのでした。
でもまあ。
お祭りに向け気合を入れてきたクーノちゃんとコタチちゃんという、
極上の美少女達に両手を握られ御満悦なワキヤ君とかを見てると……
何というか……誓いがどうでもよくなる瞬間が正直ありまして、
リア充爆発しろ!
とか、
どこのギャルゲーですか!
とか、
あ~もう、○んでしまえばいいのに!
とか、色々破滅的に思っちゃいますけどね(うふふ)。




