もやもやしちゃうみたいです
落ち着くまで背中を撫でてくれたジャレッドおばさん。
私は赤面しながらお礼を言うと、次の人達を目指します。
壁際では何やら熱く語り合う師弟コンビがいました。
若干声を掛けるのを躊躇いましたが、心無し兄様の眼が洗脳され掛かってるのを見て私を意を決して話し掛けます。
「ず、随分盛り上がってるみたいですね」
「む。ユナか。
今はシャスティアに真の執事道とは何かという教訓をだな」
「あまり変な事を兄様に教え込まないで下さい」
「変とは失礼な。
人生の教訓にもなる優れものだぞ?」
「貴方の口からそういう言葉が出る時点で不信感を抱きます。
大丈夫ですか、兄様?」
「ン? ゼンゼン大丈夫ダヨ(カクカク)」
「ほらおかしくなってるじゃないですか!
せっかく一週間お世話に成ったお礼を言いに来たのに、まったくぅ!!」
「ま、待てユナ!
これはだな……
こら、シャスティア!
演技はやめたまえ」
「あはは♪ すみません、師匠。
ユナが真剣な面差しだったので、つい……」
「演……技?」
「うん。大丈夫だよ、ユナ。
師匠はちょっと大変なとこあるけど……
ちゃんと僕に戦う術と生き方を教えてくれてる。
尊敬に値する人だよ」
「ん~兄様がそういうなら別に構わないんですけど……
まあシャス兄様、一週間本当にありがとうございました。
兄様の尊い犠牲のお蔭で固定客がうなぎ登りでした。
機会があればまたお願いしますね♪」
「いや、慎んで辞退したいんだけど……」
「ん~聞こえません」
「はあ……ユナは本当に母さんに似て押しが強いね。
分かったよ。
女装はともかく、また手伝わせてもらうから」
「ありがとうございます☆
さすが兄様! そこに痺れる憧れる~♪」
「コホン」
「あら、風邪ですかネムレス?」
「……その前にわたしに何かないのかね、君は」
「あ、お手伝いお疲れ様でした~。
またよろしくで~す」
「随分対応に差があるな……」
「フフ。冗談ですよ。
意趣返しってヤツです。
何はともあれ、ネムレスもありがとうございました。
この一週間を無事乗り切れたのも貴方のサポートがあったからです。
深く感謝致します」
溜飲を下げたネムレスにスカートを摘まみ御挨拶。
ふんわりと舞うフリルとツインテール。
毒気を抜かれたのかネムレスはポカンと呆気に取られてます。
「もう~何です?」
「いや、黙ってそうしてれば淑女っぽいのだな、と……」
「むー!!」
「いたっ! フォークで刺すのはやめたまえ!
それは食器であって武器ではない筈だ!」
「どこぞの地方では薬師専門の武具とされてるから構わないんです!」
「まったく……素直に感想を述べれば文句を言うし、
率直に褒めれば攻撃とは、な。
君は可愛げがないぞ、ユナ」
「ネムレスがいつも一言多いんです!」
べーっだ。
憤慨し舌を出す私。
視界の端でシャス兄様が苦笑してる気がしました。
確かに恩人に対し礼儀が無かったかもしれません。
で、でもネムレスが悪いんですからね!
胸中にもやもやを抱えながらも、
私は踵を返すとネムレスに背を向けるのでした。




