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勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます  作者: 秋月静流


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溜息ばかりみたいです

 そこにいたのは緑色のドレスを纏った妙齢の女性。

 非人間的な造形美を持つ幻想的なその姿は……


「ト、トレエンシア様ぁ!?」

「おお、人の子よ。

 久しいな……今日は馳走になっておるぞ」


 香茶のカップを掲げフレンドリーな笑みを浮かべる女性。

 樹木の精霊を束ねる樹の精霊王こと樹聖霊トレエンシア様に他なりません。

 で、でもどうしてここに!?

 それに半透明でなくどう見ても実体を持ってます。


「よ、ようこそおいでくださいました、トレエンシア様。

 でもそのお姿は……」

「ああ、これかえ?

 新緑の魔力が満ちるこの季節だけに実る、仮想樹の蕾を媒介として現世に降臨してきたのじゃ。

 仮想樹の蕾は時に動物に、時に人にも化身し惑わし摂り込もうとするヤツじゃが……妾達のような存在が具現化する触媒としては最も有効なのじゃよ」

「そ、そうだったんですね」

「ふむ。しかしまあ随分と可愛い恰好じゃのう、娘。

 妾の宮中にも召上げたいほどじゃ。

 よく似合っておる」

「……本当、ですか?」

「妾は嘘と世辞は言わん。

 本心からそう思うぞ」

「あっありがとうございます♪」

「フフ。照れるでない。

 じゃがそれにしても人族の作るこの<すい~つ>とやらは実に美味じゃな。

 縁故ある汝が今日より店を開くというのを聞いてな。

 いてもたってもいられなくなってやってきたが……

 うむ。最高じゃ」


 説明してる間もクッキーやらケーキやらを美味しそうにつまみます。

 結構甘党なのでしょうか?

 あれ? でも疑問が浮かびます。

 普段は精霊界にいらっしゃるトレエンシア様。

 そんな方とコンタクトを取れる存在なんて私はミスティ兄様しか知りません。

 ミスティ兄様とは定期便での手紙で近況のやり取りはしてますが、

 このメイド喫茶の事は恥ずかしい(絶対馬鹿にします!)ので、伝えてません。

 となると。


「そういえばどなたに喫茶店のことを窺ったのです?」

「この者じゃよ」


 私の質問にトレエンシア様は目線で目の前の男性を促します。

 敢えて先程からそちらを見ない様にしてましたが……

 美しい男性でした。

 形容する言葉が難しいくらいに。

 この世界に産まれて結構な人と出会いましたが、

 その中でも断トツにトップです。

 腰元まで棚引く流麗な白銀の髪。

 涼しげに見開かれた栗色の双眸。

 熟練の工匠が生涯を掛けて彫り上げたかのごとき容姿。

 颯爽と着こなした白の長衣もよくお似合いです。

 その姿は周囲の注目を惹きまくりで、男女を問わず視線を感じます。

 だけどいったいどなたなのでしょう?

 声を掛けた先程より親しげな眼で私を見ていただけるのですが……


「開店おめでとう、ユナ。

 ついに君の宿願が叶った訳だな」

「えっと……以前お会いしたことがありますか?」

「分からないのも無理はない。吾だ」

「え?」

「リューンだ」

「えええええええええええええええええええ!!??

 だ、だってその姿!?」

「ああ、ユナは知らなかったと思うが一角馬は人族の姿に化身することができる。

 交渉とかに便利だが一角馬の姿の方が勝手がいいのでな。

 ごくたまにしか化身しないが」

「そ、そうだったんですね……」

 

 さっきから驚愕のジェットコースターです。


「だけど何でそんな姿に……」

「ん? どこか変か?

 なるべく君達の種族的な平均値に化身したつもりなのだが」

「あ! だからですか」


 そういえば聞いた事があります。

 人の容姿を決定づけるもの。

 それは様々な特徴だと。

 個々のパーツやバランスの悪さも顔立ちに影響します。

 けど美形……所謂顔立ちの整った人というのはそれが極力少ないと。

 さらに全ての人の平均値こそが好まれる容姿だとか。

 それらが最良である黄金律で配置された姿のリューンですから、超絶美形になるのも頷けます。


「おかしいかね?」

「いえ、全然!

 ただあまりに綺麗過ぎてびっくりしただけです」

「そうか。この容姿にこだわりはないが……

 ユナが気に入ってくれたなら何よりだ」

 

 にっこり微笑むリューン。

 輝かんばかりの天使の笑み。

 物理的圧力すら秘めてますよ、これ。

 あ、何だかクラクラきます。

 心配したのかそっとリューンが私の方に手を伸ばしてきたその時、


「お待たせした。

 木の実タルトと特製リンゴパイでございます」


 颯爽と卓に来たネムレスによって遮られました。

 喜びの声を上げるトレエンシア様とは別に、

 憤慨した様子でネムレスを見るリューン。

 以前からそうでしたが、その瞳には敵愾心すら宿ってる気がします。


「ユナ、そろそろよいかね?

 厨房の手が足りないので手伝って欲しい」

「あ、はい」

「……今は吾が話し掛けてたのだが?」

「それは失礼した。

 どうやら『偶々』邪魔をしてしまったようだ。

 申し訳ない」

「……随分都合のいい偶然もあるのだな」

「相変わらずだな、貴様は。リューン」

「ほう……分かるのか?」

「魂を、ひいては本質を見る俺の眼にはお前の真の姿がくっきりと視える。

 まあ下劣な品性までは見通せないようだが」

「言ってくれるな、霊長の守護者ごときが」


 静かに睨み合い視えない火花を散らす二人。

 ホント相性が悪い人達っているんですね。


「どうぞごゆっくり~」


 私は大人げない二人に溜息をつきながら、

 戦場と化してる厨房に舞い戻るのでした。

 


 天然小悪魔系少女ユナ。

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