てんてこ舞いみたいです
「お帰りなさいませ、お嬢様。
こちらの席へどうぞ~」
可愛らしくスカートを翻し一礼し、空席へと案内するコタチちゃん。
澱みないその動きは洗練されておりますが、
メニュー表を抱え何回も間違いがないかこっそり確認する姿はとてもキュートで、案内される女性冒険者も顔を綻ばしてます。
「お会計は165セタルになります。
はい、丁度を頂きます。
ご来店ありがとうございました、御主人様。
気をつけて行ってらっしゃいませ!」
ハキハキとした物言いでテキパキと会計手続きを行うクーノちゃん。
可憐なメイド服と凛々しい彼女の顔立ちとのギャップに、
会計に立つ男性冒険者はだらしなくニマニマしてます。
普段はお澄まし顔のクーノちゃんの笑顔は特別です。
弾むような足取りで退店されていきました。
ああ、また一人堕ちましたね。
あの好意度ですと明日も来てくれる事でしょう。
「こ、こちらご注文の品になります!」
「ねーねー」
「は、はい!」
「君、お名前は?」
「あ、あの。
オレ……いや、ボクは……」
「可愛い~~!!」
オーダーの品をお届けしたワキヤ君はお姉様達のおもちゃにされてます。
純粋に可愛らしいのもありますが、
着慣れない執事服を着て一生懸命に接客する姿は何と言うかこう……
いぢめたく感じです。
嗜虐心を刺激するのです。無意識に。
きっといらしたお姉様達に意見を窺ったら大いに賛同してくれるでしょう。
しかし……開店から3時間が経過したというのに賑わいは変化しません。
むしろ混雑ぶりが徐々に増してる気がします。
嬉しい誤算というより予想外な事として、
女性冒険者達の口コミネットワークが想定以上だったということがあります。
「何だか面白そうな事やるよ~」
ぐらいのレベルが、
「すごくいいから、今からおいでよ!」
に認識が変化したのです。
携帯電話に似た力を持つ運命石や、
果ては冒険者組合にある結構お高めの転移サービスまで使い広報してくれてるみたいですね。
結果、フェイムだけでなく他の都市からもいらしたお客様により集客が倍増。
想像以上の上方修正となった次第でした。
でも問題はスタッフの対応能力です。
現に今もそれとなく不備が見られてきてます。
私は横目で皆の様子を確認し、それとなくフォローに回りながら、
店内を目まぐるしく、されど優雅さを失わずに空いた食器を回収。
厨房にいる子達に声を掛けます。
「紅茶薄いですよ!
何やってるんです!?」
「それがユナ……」
「ここではメイド長と呼びなさい」
「じゃあメイド長。
次から次に来るから蒸らしてる時間がなくて……
それにパンケーキを焼く時間が足りなくて」
「ええい! 組合の冒険者は大喰らいばかりですか!
貸しなさい、私が出ます!」
「メイド長自らが……」
パンケーキ専門の子と居場所を代わり、
ボールにいれた粉をホイッパーでよく混ぜ合わせます。
あらかじめ泡立てていた卵と牛乳を少しずつ投入。
この時ダマにならないように注意しなければなりません。
携帯コンロで充分に熱したフライパンを確認。
濡れふきんを用意し、生地を流す前に、一度ふきんの上にフライパンを置くのがコツです。
お玉で掬った生地を優しく投入。
フライパン上をゆっくり広がっていきます。
ふっくら焼くポイントは、強めの火で一気に焼く事です。
気泡が完全に収まらない内に引っ繰り返し、裏側も焼きます。
面倒ですが、一枚焼くごとにフライパンをふきんで冷ますのが美味しくする秘訣です。
その間に私は手順の最初に戻り、ルーチンワーク。
ケーキ係の子達や紅茶など飲み物専門の子達と力を合わせ奮起します。
けど……
(マンパワーが足りませんね……)
いくら指導したとはいえ、やはり場慣れしてない子達では回転率が捗りません。
こうしてる間も順番待ちの行列は伸びていきます。
くっ……このままでは……
彼我の戦力差に観念仕掛けたその時、
「随分な賑わいだな。大したものだ」
「開店おめでとう、ユナ。
今日は師匠と遊びに来たよ」
戸口を見れば手作りのお菓子を携えたネムレスと、花束を抱えたシャス兄様。
救いの手が現れました(ニヤリ)。
私は邪悪に嗤うと、ダッシュで二人に駆け寄ります。
そしてお土産をありがたく受け取ると、
恭しくその手を握り締め、目を潤ませて(演技です)懇願します。
「ネムレス様!」
「さ、様?」
「確か執事スキルを所持されてましたわよね?」
「ああ……ま、嗜み程度だが……」
「(嗜みでファル姉様とタメ張ってるじゃないですか。チッ)その、実は……」
「ん。言わずとも事情は理解した」
「え? さすがネムレス様!」
「つまり、脱げばいいんだな?」
「何でそうなるんですか!
ああ、もう!
猫の手も借りたい状況なんです!
いいからマイスター商店に用意してある執事服に速攻着替えた後、
お店を手伝って下さい!!」
「じょ、冗談だというのに。
……了解した。
君には借りがある。
こんな事で返せる訳ではないが、俺も共に闘おう」
「ありがとうございます!」
「ああ、それとユナ。
一つ確認しておきたいのだが」
「何ですか?」
「別に、全てオモテナシしてしまっても構わんのだろう?」
「(それって死亡フラグでは?)――ええ、遠慮はいりません。
がつんと極上の接客をして差し上げて下さい」
「そうか。
ならば、期待に応えるとしよう」
颯爽と駆け出す頼もしいその背中を見送りながら、私は兄様を見ます。
成り行きに苦笑して頬を掻くシャス兄様。
束ねられたポニーテールがピコピコ揺れ動きます。
まだ自らに待ち受ける運命を知らないのですね(クス)。
「それじゃ僕も手伝うよ。
いつもユナには世話になってるし、何でもするよ。
何をすればいいかな?」
「シャス兄様にしていただくこと?
そんなの……決まってるじゃないですか(フフ)」
私は後ろ手に、こんな事もあろうかと用意したものを兄様に差し出します。
それを見た兄様の顔が露骨に強張ります。
「ゆ、ユナ……それはまさか……」
「あら、何に見えます?」
「じょ、冗談……だよね?」
「私が冗談を言う子に見えますか?」
「いや、しかし……」
「先程兄様は何でもするとおっしゃいました。
ノルン家の男子たる者に二言はない筈では?」
「うっ……けど、それは……」
「だいじょ~ぶ。
私が優しく手解きして差し上げますわ。
シャス……『姉』様~(うふふ)」
私は予備のエプロンドレスを手に、
逃げ場のない憐れな子狼に迫るのでした。
ついに禁断のシャス〇〇です。




