朝の一幕らしいです
私の朝は早いです。
まだ日も差さぬ早朝、家人の誰よりも早く起床します。
「ふああ~……よく寝ました」
小さい頃から寝てる事が多い私でしたが、最近は落ち着いてきました。
それでも9時間睡眠は基本です。
私は手早く寝具を片付けると台所へ向かいます。
ノルン家は有力者だけあって部屋数も多いです。
10LDK……日本だったらお金持ちの家と呼ばれるでしょう。
まあ非常時における自警団の詰所も兼ねてるので、この大きさも当然かもしれません。
転生してきた当初、私がいた部屋は私専用の部屋になってます。
他に父の書斎、母の診察室、兄達の私室。
客部屋は勿論の事、変わったところでは武具や薬草の倉庫などもあります。
……話が逸れました。
台所についた私は、井戸に併設された水瓶に水を汲み出します。
顔を洗い口を濯ぎ準備OK。
腕まくりをして朝食の準備に取り掛かります。
まずは竈に薪をくべて火を燈します。
本当なら火を起こすのは重労働なのですが、ノルン家には点火の魔導具がある為一瞬です。
昨日の残り物である大豆と鶏肉のスープの鍋をセッティングすると、外に出ます。
まだ宵闇が支配する早朝、肌寒さに少々震えます。
いえ、これは戦慄だったのかもしれません。
何故なら私の前にはおぞましい眼光を光らせるモノが鎮座してたのですから!
……まあ家で飼ってる鶏なんですけどね。
「今日は負けませんよ……」
宣言し、構えを取ります。
鶏は小馬鹿にしたように「クア!」と啼くと羽根で手招きします。
むむ。生意気です。
しかし哀しいかな、私の卵奪取勝負は78勝189敗。
圧倒的に負け越してます。
何だか無駄に強いんです、この鶏。
父様から鍛えられてる私が及ばないってどんだけなんでしょう?
まあいいです。
宣言通り、今日は引きません。
ノルファリア練法の真髄を見せてさしあげます!
……別に卵が無くても、人間は死にはしませんよね?
私は兄様達が取ってきてくれてた野菜をサラダにすべく刻みながら泣きそうになるのを堪えます。
「おはよう、ユナちゃん」
「おはようございます、母様」
そんな私に優しく声を掛けてくれたのは母様です。
寝起きだというのに輝くばかりの美貌。
ささくれた心が癒されます。
「いつもお手伝いしてくれてありがとうね」
「いえ、私が好きでしてるんです」
頭を撫でる母様に笑顔で応じます。
母様に褒められると何だか嬉しくておかしくなってしまいます。
でも、あれ?
「母様……ソレ?」
「ああ、これ?
スープとサラダだけじゃ寂しいから卵料理を加えようと思って」
にこやかに答える母の手には産み立ての卵が数個、握られてました。
そっと外を窺うと、ボロボロになった鶏が痙攣してます。
こ、こわー!!
私は絶対母を怒らせない事を再度誓い直します。
サラダを皿に盛り付け、塩をフリフリ。
ドレッシングなんて気の利いたものはありません。
でも野菜の美味しさが全然違うので問題ありません。
「ユナちゃん、スープもお願い」
「は~い」
宙を舞い次々と並べられていくオムレツを横目に、私は木のお椀にスープをよそおいます。
うん、いい香りです。
「おはよう、マリーにユナ」
「おはよう、アナタ」
「おはようございます、父様」
昨夜も遅くまで書類仕事をしてた父様が寝惚け眼で起き出してきました。
最近は自警団の仕事も忙しく、多忙な日々を過ごしてるのが心配です。
「おはようございます」
「ふあ~おはよー」
シャス兄様とミスティ兄様も起き出してきました。
二人とも食事の匂いがするといつもピッタリ起きてきます。
育ち盛りですからね。
食いしん坊バンザイなのでしょう。
「おお、今日も美味そうだな」
「今朝もユナちゃんが手伝ってくれたのよ」
「ユナは偉いですね」
「まったくだ。毎朝よく続くな」
「私は別に……」
「出来のいい子供達に恵まれて私は幸せだよ」
「フフ……一緒です」
「それってボク達は含まれてるんでしょうか、兄さん」
「どうだかなー」
「さて、冷めない内に頂戴しよう。
皆、準備はいいかな?
じゃあ……いただきます」
「「「「いただきます!!!!」」」
父様の声に皆の声が唱和します。
異世界でも変わらない感謝の言葉。
私は母様のオムレツに舌鼓を打ちながら、新しい家族にも感謝するのでした。
ユナティア・ノルンの一日はこんな感じで始まります。