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沈思黙考みたいです

 手の込んだジャレッドおばさんの美味しい夕飯。

 様々な品々を心行くまで堪能した私は、

 見送り申し出るおばさん達を丁重に断り、帰路に就きます。

 満ちた月光の明かりに照らされる夜道。

 通常なら照明がほしいところですが、常在型の暗視スキルを持つ私にとっては特に問題ないレベルです。

 本当なら赤外線視力に切り替えたいところですが、アレは光度によっては目を傷めるので運用には注意が必要です。

 夜目が利くから大丈夫という私に、念の為と持たされたランプをただ吊るしながら歩みます。


 こうして一人歩いてると思い浮かぶのは今日一日の事です。

 自分なりのスタイルを見い出せという父様の試練ですが、

 シャス兄様やファル姉様の助言もあって曖昧ですがカタチになりそうです。

 私は私。

 他の誰でもない私流を貫けばいい。

 そんな単純な事を気付かせてくれました。

 ただ当たり前に私を支えてくれる、周囲の人々。

 愛し愛される、あたたかな関係。

 得難いその事に感謝する想いが胸を満たし、

 ちょっとだけ足が弾みます。

 メイド修行は大変ですけどやり甲斐がありますし、

 店番も稀有な経験を積め楽しかったです。


 けど私を鬱屈させるのはネットワークの事。

 稀代の情報屋である銀狐と夕刻の情報交換で得た懸念事項の数々。

 先行きの困難さに頭が痛くなります。

 ここ数年。

 私はナイアル様の指導の下、持てる才能を費やしてきました。

 具体的には先物取引などの不確定な読みが必要な分野の交渉です。

 一流の山師を遥かに凌駕する神懸かり的な推察と投資。

 業界を騒がす謎の指し手<ホーリーアヴェンジャー>

 様々な推測が為されてる様ですが……

 その正体は『市場』の流れそのものをリーディングし、

 エンドレスグローリーで優位に操作すべく鍛えた私でした。

 リーディングをただ過去視するだけのものと捉えるのではなく、

 自らの中でいかに解釈し育てていくのが重要なのか。

 ギフトに宿る残滓とはいえ、ナイアル様には大切な事を学びました。 

 お蔭で裏世界に伸ばした種子がやっと芽吹いてきたようです。

 対立する組織への調略・懐柔工作など問題は山積みですが。

 ああ、そういえば組織の意識改革も課題ですね。

 機会に恵まれず没落したものの、才能に溢れた組織の人達を思い出します。

 埋没し死を待つばかりだった者達に援助するパトロン兼盟主たる私。

 忠誠に溢れた有能な部下達ですが……

 何というかアレ(厨二)なのです。

 意味も無く寒い二つ名とかはホントに辞めてほしいです。


「無慈悲な女王と聖なる報復者。

 どちらがよろしいですか、盟主様?」


 等と真剣に大人から話される身にもなって下さい。

 組織自体は拡大の一途を辿っているからいいものの。


「はぁ……」


 思わず溜息。

 まだまだ雲行きは怪しいようです。

 そんな風に徒然と思案しながら歩く私でしたが、


「あれ?」


 視界の外れ、村の外から流れる川に誰かが流されてる気がしました。

 時折酔っぱらった冒険者が飛び込む時がありますが、

 夜が肌寒いこの時期、そんな馬鹿な事をする者はまだいません。

 気になった私は小走りで近寄ります。


「大変!」


 そこには全身に傷を負って意識もなく川に流されている男の人がいました。

 丈夫そうな赤い衣はズタズタで、出血こそないものの傷は深そうです。

 私は急ぎ川岸にあった魚釣り用の小舟に積んであるロープを手に取ります。

 投擲スキルと射的スキルを慎重に発動。

 男性へ巧みに絡める事に成功し、渾身の力で引き寄せます。


「酷い……」


 どうすればこのような傷になるのでしょうか?

 男性に穿たれた、まるで巨大な咢に貪られた様な痕。

 恐る恐る脈を取ると、微かな鼓動を確認できます。

 しかし心音は微弱です。

 一刻の猶予もないようですね。

 私は手早く応急処置を施し、蘇生を促します。


「うっ……」


 行為が功を奏したのか、男性が身動ぎをします。

 良かった……

 どうにか間に合ったようですね。

 額の汗を拭い、一息を尽く私。

 そんな私を余所に、うっすら目を開く男性。

 歳の頃は20代半ばくらいでしょうか。

 色素の抜けた様な白髪と焼けた赤銅色の肌が特徴的です。

 現状把握に揺れ動く紅い瞳も印象的でした。

 鋭い眼差しですが、根本はお人好しそうな感じです。

 怪訝そうに周囲を窺う男性に、努めて優しく声を掛けます。


「まだ動いては駄目です」

「ここ……は?」

「ここはフェイムの村です。

 貴方は意識も無く上流から流されてきたんですよ。

 酷い傷を負って……

 いったいどうされたのですか?

 あと、貴方は何者です?」

「わた……し、か……?

 わたしは……」


 そこで男性は頭を押さえ苦悶します。


「ど、どうしたんです!?」

「思い出せない……

 わたしはいったい……」


 ま、まさか記憶喪失でしょうか?

 今時ドラマでもお目に掛かれない症状ですが……

 こうして身近に対象者がいると当惑しか出来ません。

 苦悶が苦悩に推移する男性。

 私は取り敢えず気による治療と、リーディングで男性の事を読み取ろうとして、


「きゃ!」


 急に覚醒した男性に突き飛ばされました。

 受け身を取って慌てて跳ね起きる私。

 ですがその首元に、


「貴様……転生者だな?」


 冷たく言い放つ男性が持つ、双刃が突きつけられていました。

 いつの間に抜き放ったのか判別できないほどの熟達度。

 父様に匹敵しようかという殺気。

 それに男性が指摘する転生者か否かという誰何。


(どうしてその事を知ってるんです!?)


 私は心の底から襲い来る恐怖に、

 身震いする事を止められませんでした。

 




 お気に入り登録ありがとうございます。

 タガタメとのコラボもありますが、

 少し物語が動きます。

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