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こだわりみたいです

 料理が出来れば終了という訳ではありません。

 気持ち良く朝食を食べてもらう為、もうひと頑張りです。

 ファル姉様が最期の仕込みをして竈の奥にピザを入れる間に、

 私は食卓を水拭きし、テーブルクロスを張り替えます。

 三角コーナーをきちんと設けてズレないようにするのがコツです。


「ユナ様、お飲み物の準備をお願い致します」

「はい。畏まりました」


 食卓に皿を並べる姉様に頼まれた私は、

 ティーセットの設置された台に向かいます。

 真剣に吟味した結果、今朝の茶葉はブレンドティーにしました。

 ブレンドティーとははいくつかの葉を混ぜ合わせたものです

 父様はシンプルなピュアティーの方がすっきりしてるので好きみたいですが、

 最近の父様は仕事に取り組み過ぎて疲労困憊状態です。

 体調を考慮し、少しでも精神安定と疲労回復効果のある茶葉を選びます。

 そしてあらかじめ温めておいたティーポットへ適量を設置。

 沸騰直前に沸いたお湯をゆっくりと注ぎます。

 この際はわざわざ椅子を用意し、高めの所から注ぎ込むのが重要になります。

 これは水に空気を含ませる為です。

 何故空気が必要なのかといえば、

 それは「跳ね(ジャンピング)」の為です。

 香茶をいれるときの面倒な「お作法」のほとんどは、

 このジャンピングをさせる為にあると言っても過言ではありません。

 ジャンピングとは、お湯の中で茶葉が自ら勝手に上に行ったり下に行ったりを繰り返す現象の事です。

 これが起こると茶葉の美味しい部分だけが水に溶け出します。

 この時かき混ぜては駄目です。

 かき混ぜると美味しくない部分の方が余計に出てくるので意味がありません。

 その決め手となるのは水の中に溶け込んだ空気。

 水にできるだけ多くの空気を含ませることで、ジャンピングが起こるわけです。

 まあ私もリーディングで読み取ったスキルとファル姉様の知識の受け売りの部分が多いのであまり大きな顔が出来ませんが。

 でも失敗するのは嫌なので、

 美味しくなるよう気持ちを籠めながらこっそりスキルをスタンバイ。


 執事スキル(家事:一般)Cレベル バトラー熟練度87 専用効果<精神鎮静>


 の効果が発動し、芳醇な香りと淡い色合いが浮かびあってきます。

 最後にティーポッドにコジーと呼ばれるカバーをかけて蒸らせば終了。

 5分もすれば美味しい香茶の出来上がりです。

 師匠の評価はいかがだったでしょう?

 そっと姉様を窺うと、

 ピザの焼き加減を注視しながら横目でこちらを確認。

 湯煙と共に台所に漂う香りの中、穏やかに微笑し頷きます。

 ふう~落第は免れた様です。

 でもスキルを多用してるといつか足元を掬われるので注意が必要です。

 自戒を誓いながらも一息ついた私が油断してると、


「おはよう、ユナ。

 それにファルさんも」


 朝稽古を終え軽く水浴みをしてきたのか、

 艶の良い髪の毛がしっとりと濡れ、

 無駄に色っぽいシャス兄様が声を掛けてきました。




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