出会いみたいです
ミスティ兄様を乗せた王都へ向かう乗り合い馬車。
軽快な走り出しと共に、その姿が徐々に遠くなっていきます。
鎮守の森の脇にある街道を抜け……
その姿は地平線に消えて行ってしまいました。
「行っちゃいましたね……ミスティ兄様」
「ええ」
「そうだな……」
シャス兄様や父様と並び、いつまでも見送る私。
日々を共に過ごす、当たり前の様にいた人がいない。
何だか感慨深いものがあります。
ミスティ兄様には危ないところを何回も助けてもらいました。
口が悪く意地も悪い人ですが……
根はお人好しなのです。
基本、性悪な陰険ですが。
不条理に泣かされることも多いですけど。
あれ?
何だか悪口になっちゃいそうですね。
えーと、兄様にもいいとこがいっぱいあるのですよ?
うん。
確か……
兄様の掘った落とし穴に落ちた苛めっ子達に追いまわされた時も、
兄様の仕掛けた捕縛罠に嵌った苛めっ子達にマジ切れされた時も、
いつでもミスティ兄様は助けてくれました!
……ん?
よく考えたら全て兄様が元凶の様な……???
深く考えてると駄目な結論に陥りそうになってる私でしたが、
「あの~すみません。
これは何の騒ぎですの?」
「ああ、不詳の息子が魔導学院に入学する事になりましてね。
その見送りです」
「まあ、魔導学院というと……あの、サーフォレム魔導学院ですの?
実はわたくしも従妹が入学してるので他人事とは思えませんわ」
「ほほう、そいつは奇遇ですな」
背後から尋ねられた女性の声にふと我に返ります。
どうやら父様に掛けられた声らしいです。
父様は快活に応じ、雑談に興じてる様です。
随分楽しそうです。
母様がいなくなってから父様は憔悴した日々を過ごしてました。
家族を守るという自らの誓い。
完全に果たせなかった自責の念もあったのかもしれません。
やっと最近は笑う事が多くなり、明るくなってきましたが……
でも女の人相手にデレデレするのは駄目です。
幾ら母様が居なくとも、浮気は厳禁です。
私は悪い虫がつかないよう、毅然と注意しようと後ろを振り返り、
……そこで、固まりました。
何故ならそこにいたのは、
ショートボブの銀髪に添えられた、純白のカチューシャ。
足元まで覆う、落ち着いた紺のエプロンドレス。
そして何より、楚々たる清楚な佇まいを持ちながら、主人には三歩下がった礼節と慎ましさを以て接するであろう儚げな雰囲気。
まさに!
完全無欠にして完璧なるメイドさん(しかも美人)の姿があったのです!!
驚愕に阿呆みたいにフリーズしてる私を余所に、父様達は会話を続けてます。
「……という訳で、やっと滞在許可がおりたんですの。
先程の乗り合い馬車からフェイム村に降りたものの、
どうも担当職員の方までここへ見送りに来てたみたいで」
「ああ、役場の彼とは息子が親しくさせてもらってましたから。
何だかウチの騒動に巻き込んでしまったようですな。
申し訳ない」
「そんな事ありません。
村を散策できましたし、いい気晴らしになりましたわ。
でも……
それならば、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「自分で答えられることならば」
「では遠慮なくお尋ねしますね。
この村の自警団長である、
カルティア・ノルン様のお宅を御存知ありません?
宜しければ御紹介して欲しいのですけど」
「いや、カルティアはわたしなのだが」
「まあ! そうだったんですの?
わたくしったら恥ずかしい真似を……」
「君は……まさかレカキスの?」
「はい。その通りです、カルティア様。
自己紹介が遅れましたね。
わたくしの名はファルリア・レカキス。
父の言い付けで本日よりノルン家のメイドとしてお仕えすることになりました。
未熟者ですが、よろしくお願い致します」
スカートの両端をちょこん、と摘まんで上品な仕草で一礼。
あまりの成り行きに呆気に取られる私達を前に、優雅に微笑みます。
これが私のメイド道(?)の師匠にあたる、
ファル姉様のとの初邂逅なのでした。
うあ~キタコレ。
正真正銘、生メイドさんだ!
異世界転生して初めてですよ!
こ、これは萌えます!!
とか内心思ってたのは秘密です(ええ)。
いつの間にやら10万PV達成です。
見に来て下さる方々、本当にありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願い致します。




