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お別れみたいです

「合格おめでとうございます」

「何だ、急に改めて」


 畏まった私の物言いに、兄様が苦笑し応じます。

 その姿はいつものミスティ兄様で、私はどこか安心しました。


「サーフォレム魔導学院の入学試験に一発合格するなんて……

 流石は兄様ですね。

 しかも採用基準の厳しい試験官を驚かせる程の内容で。

 普通そんな人はいませんよ」

「あ~まあ、な。

 ほら、試験官……俺の事を舐めてたようだしな。

 だから大人げないけど……つい」

「でも聖霊召喚はやり過ぎです。

 兄様は自重する事を覚えるべきです」

「うっ……それ、シャスにも言われた」

「家族全員の素直な認識です」

「そっか……母さんもきっとそう思うのかな?」

「兄様……」

「お前がさ、裏で色々やってるのは知ってる」

「はい……お見通しでしたか」

「ああ。ま、家族だし」

「そうでしたか」

「んで、俺もアプローチは違うけど結構頑張ってるんだわ」

「ええ」

「シャスも父さんも自らに出来る事を為してる……

 限界以上に邁進してる。

 皆、諦めてない。

 取り戻す気なんだろ? 母さんを」

「はい」

「ならば離れても俺達の気持ちは一緒だ、ユナ。

 あの陽だまりのような居場所……

 失われた絆を、絶対奪い返すぞ」

「はい、兄様!」


 言葉少なに交わす兄様。

 これはいわば儀式。

 常日頃から抱く思いの最終確認に過ぎません。

 時間になったのか、止まっていた乗り合い馬車から父様が顔を出します。


「ミスティ、手続きは済んだ。

 もう出発の時間だぞ」

「お、もうそんな時間か。

 じゃあな、ユナ。

 父さんとシャスの言う事をちゃんと聞くんだぞ?

 何気にお前が一番俺に似て暴走するしな」

「に、兄様程じゃありません!」

「はは……どうだかな」


 優しく笑ったミスティ兄様がシャス兄様のように頭を撫でてくれます。

 こんな風にされたのはあの日以来、久々なような気がします。


「では行ってくる」

「あ、兄様」

「ん?」

「リューンが兄様に伝言を。

 君の更なる精進を祈る、って」

「相変わらず真面目な奴だな。

 ああ、了解。

 こっちこそよろしくと伝えてくれ。

 あとユナを任せたとな」

「分かりました」

「じゃあな」

「はい、いってらっしゃい。

 お元気で」

「ん。また、な」


 今生の別れでもないのに涙する私。

 そんな私を安心させるように力強く頷く兄様。

 村人たちの歓声の中、その姿が乗り合い馬車のに消えていきます。

 このまま王都を経由して魔導学院へ行くらしいです。

 これが学院の問題児と騒がれるミスティ兄様との、

 しばしのお別れとなるのでした。



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