春は送別みたいです
「ユナ……君の探してるのはこれじゃないのか?」
「あ、そんなとこに生えてたんだ。
ありがとう、リューン」
鎮守の森。
深い木立ちの陰にひっそりと生えていた薬草を角で指し示しながら、
リューンが言います。
私はお礼を言うと、しゃがみ込み慎重に掘り起こします。
この薬草は根を傷付けるとすぐに傷んでしまうのです。
だから採取する際には細心の注意が必要です。
私の中にある母様の知識。
優しい母様の想いが注意事項を教えてくれます。
甘い疼きを伴う忠告を聞きながら、私は採取スキルを発動。
薬草を中心として青い円が視認出来ます。
これが根の張ってる領域みたいです。
私はそれを避けながらシャベルで掘り起こしました。
「目的の量に達したか?」
「うん。何とか。
いつも付き合ってもらってごめんね。
迷惑じゃない?」
「命の恩人に何を言う。
こんな事ではまだまだ恩義を返せない」
「もう4年も前の話なのに」
自分で言った言葉。
その事実にちょっぴり打ちのめされます。
少し落ち込んだ私を見兼ねたのか、
これまで慰めてくれた時のようにリューンがそっと寄り添い、
あたたかい首で私を撫でまわしてくれます。
「ん……ありがとう、リューン。
私、お世話に成りっぱなしだね」
「気に病むな。
命の恩義には命で返す。
それが吾等一角馬一族の掟だからな」
「義理堅いな~リューンは」
「性分なんだ。仕方ない」
「フフ……変なの」
優しい陽光が振り注ぐ森の中、私達は笑い合います。
リューンと一緒にいると自然体と言うかすごく落ち着きます。
ユナティアではなく、素の悠奈としての部分が顔を覗かせます。
「そういえばその薬草は何に使うんだね?」
「うん。これはね、ハーブティーに使うの。
滋養強壮にもなるし、香りもいいんだよ。
今度夏祭りに喫茶店を開くからリューンも来て……
って、いけない!
今日はミスティ兄様の出立日でした!!」
私は慌てて身を起こすと薬草を傷付けない様にバスケットへ収納。
俊敏に木の枝を飛び、村に戻ります。
これもラーニングした跳躍スキルの恩恵です。
私に苦も無く追走しながらリューンが尋ねてきます。
「ミスティが入学するのは来年ではなかったかね?」
「それが兄様が試験官の前でやらかしちゃって……
特例として、飛び級で入学出来る事になっちゃったの!」
辺境に数多いる凡百な精霊使い<エレメンタラー>の素質を見てやろうと、
傲慢な態度の試験官。
ミスティ兄様は意地の悪い笑みを浮かべると、課題である召喚術を使いました。
通常は触媒も無しに下位精霊を呼べれば上等です。
でもそこに召喚された存在を見て試験官は恐慌状態に陥りました。
何故なら、兄様が呼んだのは精霊を統べる精霊王、聖霊。
しかも同時に3体。
近年稀に見る程の資質、聖霊使い<ミリオンテラー>
私が少し成長してる間に、ミスティ兄様は大幅に成長してるのでした。
結果はその場で即合格。
奨学金をつけてもすぐに入学してほしいとの事でした。
横柄な試験管の態度に腹を立ててた私は、一緒に試験経過を見守っていたシャス兄様と共に痛快な思いで喝采を上げてしまいました。
「それは凄いな。
ミスティの行くサーフォレム魔導学院といえば神代の時代から続く組織だ。
その入学基準は厳しいと聞く」
「まあミスティ兄様だから。
多分向こうでも色々トラブル起こすと思う」
「違いない」
私達は村へ急ぎながら、再び笑い合います。
若干の苦笑を交えながら。
冬の寒さも鳴りを潜め、森には若芽が息吹きをあげてます。
季節は春。
出会いと別れの季節が近づいてました。
せっかく書き上げたので同時更新。




