決闘<デュエル>4
「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
野獣のごとき咆哮と共にガンズより放たれるのは、闘士として恵まれ過ぎた体躯をフル活用した、息も付かせぬ拳打の嵐。
さらにそこへ自分の思念具象化能力を交え発動する。
王家に伝わる血継能力。
その中でもガンズの持つ<天撃>の威力は別格だ。
分子間粉砕能力――それは念動力を以て分子間結合力に干渉。
結果、全てを粉砕するという能力である。
導師級魔術師の扱う高位呪文<分解消去>に似た効果を常時発動しているともいえる。
ありとあらゆる防御を無効にするその力はまさに最強の矛。
更にその力を、巨体からは信じられない程繊細に研ぎ澄まされた戦闘技巧で振るうのだ。
天災に近いその嵐の様な猛攻は数少ないS級の中でもトップクラス。
それは先だって相対した強大な力を持ついにしえの巨人達に勝るとも決して劣らない。
しかしガンズは苦戦していた。
自らの能力が、相手にはほとんど効いていない様なのだ。
あろうことが接敵するたびに活力を吸われ、悪寒のような疲労が積もり重なっていく。
S級として破格の闘気を持つガンズですらこれなのだ。
並の闘技者では倦怠ばかりか衰弱死を迎えかねない。
(まったく……やり辛いのう)
今も触手のように手を伸ばしてきた死の触感を直感的に察知。
肉食獣のごとき優美さを以て回避し、距離を取る。
その事が悔しいのか、ソレは蠕動する。
ガスみたいな体躯を苛立だしげにして。
自分よりも強い敵、自分よりも巨大な敵ともガンズは戦ってきた。
王都の闘技場で得た<拳帝>の異名は飾りではない。
だがここは戦法を考えなくてはならないところだ。
確固たる物質なら、ガンズにとって如何様にも打ち砕く事が可能。
されどガンズが今戦っているのは、俗に言う<鬼>と呼ばれる存在だった。
オーガなど肉を持った存在ではない。
東洋式に云う陰の気の集合体。
この悪趣味な闘技場に入った瞬間、ガンズを襲ったのはそういった半分幽体的な存在だった。
ギズモみたいな外見と能力だが、本質は死霊に近い。
迂闊に寄ればエナジードレインをおこす。
最初の不意打ちを避けれたのは偶々だ。
それ以降は絡みつくそいつをただ打ち払うのみ。
ガンズも冒険者仲間であったカルから聞いていたからこそ気付けたのであって、通常ならば成す術もなくやられていた可能性があった。
(正直こういった輩の相手は苦手なんじゃが……
まったくカルやルナがいれば何とでもなるというのに)
魔神・鬼神に対し特攻作用を持つ童子切安綱の担い手カルや、遍く知識から敵の正体を掌握し対処するルナがいれば対応は簡単だ。
いや……そもそも優れた法術使いであり、いるだけで場を浄化するマリーシャがいれば戦う話にすらならないか。
大陸最高峰とはいえ、レベルを上げて物理で殴るを地でいく自分の不甲斐なさが悔やまれる。
まあ思い込んだらどこまでもまっすぐ励んできた故にこの境地まで至ったのだ。
その事に後悔はない。
が、最近はこういう場面に遭遇する事が多いせいか少し気に障る。
過ぎ去った黄金時代。
雷神の右腕結成よりも前、かつてのパーティ仲間を思い出し微笑むガンズ。
過去は変えれない。
過去へも帰れない。
ならば愚直にでも未来に突き進むのみ!
(このままではジリ貧じゃからな)
スキル<筋肉操作>からの<倍速>準備。
更には身体を巡る闘気を高純度に活性化。
ガンズの全身がまるで倍加するように筋肉のうねりをあげていく。
名も無き敵。
否、意志はあるのかもしれないが喋る事すら失ってしまったであろう敵に対し、敬意を掲げ、構えを取る。
敵もその事を理解したのか、存在強度を増しまるで槍のようにガンズへ猛突進してくる。
当たれば致命的な一撃。
しかしガンズは避けなかった。
生み出された莫大な闘気を拳に集わせ、あえて貫かせる。
急激に全身を襲う倦怠感。
瞬く間に全てを貪り尽されそうになる。
だが敵は知らなかった。
接敵し、触れ合わんばかりのこの間合い。
これこそがガンズにとって最高の射程圏内。
天撃だけではない。
王家に伝わる十二英雄秘伝ランスロード闘法の奥義がここに炸裂する。
鋼のごときガンズの肢体を貫く為、凝固した陰の気。
ガンズはそれを――
「るうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
投げた。
闘気を纏いし拳で捕らえるなや否や刹那に。
触れえぬ敵。
打撃効果を半ば無効化する敵。
しかし獲物を襲うこの僅かな間だけは別だ。
半分幽体化した存在とはいえ、アストラルサイドからの干渉時には物質界の影響を受ける。
ましてガンズが振るいし技はランスロード闘法の中でも数少ない、対幽体系に特化した秘儀。
その名もずばり<圧魂>。
闘気を媒介に具象化した自らの魂魄で相手を叩き潰すという力技の極致である。
さしもの敵もこの自爆技に近い猛攻には叶わず、断末魔すら上げずに霧散した。
「我が一撃は無敵なり……
じゃが、手酷くやられたもんじゃ。
すぐには動けぬ、か」
鉛のごとき重い身体。
呼吸するたびに荒々しく血液を送り出す心臓。
スキル<息吹>を併用していてこれなのだ。
他の者ならいったいどうなっていたのやら。
結跏趺坐にて失われた体力の回復を図りながら、ガンズは他の闘技場へと赴いた仲間の安否を気遣うのだった。
お待たせしました。
筋肉王子様のご登場ですw




