決闘<デュエル>3
何かがおかしい。
タマモは先程から違和感を感じていた。
それは離れた距離で構えを取る敵に対してだ。
辿り着いた闘技場で名乗りもせず切り掛かってきたフード姿の敵。
確かに剣速は一流の域に達している。
だが言い換えればそれだけだ。
弱体化してるとはいえ、本来妖魔王と称される規格外の力を持つタマモにとっては歯牙にも掛けぬ力量。
実際タマモは先程から瘴気を練って織られた魔糸によって致命的な一撃を幾度も入れている。
それなのに相対する敵に衰えは見られない。
不格好ながら傷の痛みなどないかのように襲い掛かってくる。
(面倒な相手。
まあこういった場合のパターンはアレよねー)
膨大な戦闘経験から推測される事態を想定。
確証を得る為にも魔糸を巧妙に操作。
攻撃と同時にフードを跳ね飛ばす。
「はい、せいか~い」
その四肢を無慈悲に切り飛ばし拘束しながらタマモは溜息をついた。
現れたのは無機質な人形の貌。
機械仕掛けじみたマリオネットだったのだ。
「ねえ、いい加減に出てきなよ~。
どうせこちらの出方をコソコソ窺っているんでしょ?」
「よくぞ見破ったな、小娘」
呆れた様に問い掛けるタマモに応じたのは人形同様のフードを被った老年の男。
狡猾そうな顔とは裏腹にその指先は繊細さを秘め絶え間なく蠢いている。
「裏魔将<傀儡の人形師>こと、この儂の妙技を……」
「ああ、そういうのいいから」
「何だと!?」
「どうせこれから死に逝く奴の名前なんか覚えてもしょうがないし」
「言うたな!
その大言、己が身を以て後悔させてくれん!」
激昂する人形師の操技に呼応するかのように稼働するのは命無き下僕たち。
要所要所に忍ばせてあったその傀儡は100に届こうかという数だ。
これだけの数を、しかも一体一体がA級冒険者に値する技量を付与させて襲わせる事が出来るだけでその卓越した腕前が窺える。
しかし――相手の格が違い過ぎた。
「ネタばれしちゃったら……
所詮は児戯よね」
悪戯めいた微笑と共に崩れ落ちる傀儡たち。
闘技場全体に張り巡らされたタマモの魔糸によって人形師から延ばされた操糸を断たれたのだ。
思わず絶句する人形師。
技量が違い過ぎる。
そして気づいた。
いつの間にやら忍び寄り、自らの首に絡みつくもの。
鋼鉄より強靭で刃のように鋭い魔糸に。
「ま、待て!
こんなところで儂は――」
「だ~め。
待ってあげな~い」
無慈悲な宣言と共に宙を舞う人形師の首。
その顔は困惑と驚愕に彩られていた。
「このあたし相手に、マリオネットで挑もうなんて……
10年早いんじゃないかな?」
おどけた様にチャーミングなウインクをするタマモ。
糸使いとして自分は相手の数段上にいる。
他の決闘者ならともかく、自分には大した相手ではなかった。
(さあて、と。
こっちも片付いたし……早くおねーちゃんに合流しないと)
共に決闘に赴いているユナ。
可能ならば早く合流し、手助けをしてやりたい。
極論としてはタマモにとって世界などどうでもいいのだ。
ただユナが悲しむから手を貸すだけ。
自分に生きる目的をくれたユナが喜ぶならいくらでも身を費やそう。
今となっては主の次に慕っている少女の顔を思い出し一人笑うタマモ。
だが次の瞬間、その顔が苦痛に凍る。
「な、ンで……?」
自らの腹部から貫き出た槍。
元妖魔王とはいえ限りなく弱体化してるこの身だ。
妖力や戦闘力はともかく、防御力は人間並みに近い。
こんな魔力も付与されていない槍に傷ついてしまう程度には。
痛みを堪え振り返る。
それは確かに支配を断ち切った筈の傀儡から放たれていた。
「糸は切った筈でしょ?」
その声に呼応するかのように無機質に立ち上がる傀儡たち。
息を突かせぬまま各々が武器を取るや否や襲い来る。
魔糸を用いて武器を操る手を縛り、時に関節部ごと切り飛ばし応じるタマモ。
となれど多勢に無勢。
傀儡の糸さえ断ち切ればいいと、傍に近寄らせたのがアダとなった。
魔糸を纏い鎧にするも巧妙に露出部を狙ってくるのがいやらしい。
防戦のさなか隙をみて視線を向ければ確かに人形師は絶命している。
そして傀儡たちに操糸がない事も確認できた。
(さらに死霊などが憑いてる様子もない、か。
ならば可能性としては……)
魔糸を操る手を止めるタマモ。
その隙を逃す傀儡たちではない。
幼い身体に突き刺さる無数の刃。
しかしタマモは壮絶な笑いを浮かべ瞳を輝かせる。
「見つけた!」
その声と共に放たれるのは瘴気波動。
可聴域を超えた超音波を伴ったそれは生物にとって致命的なバットステータスをもたらす、まさに『死の絶叫』。
次の瞬間、傀儡たちは今度こそ完全に動きを止め崩れ落ちる。
だがタマモは油断せず足を進める。
そう、最初に四肢を飛ばし拘束した人形へと。
「いるんでしょ?
出てきなよ」
「……………………」
「貴方は確かに優れた術師だった。
数多の人形だけでなく、まさか自分自身をも操るなんて。
そうして傀儡に目を向けさせておいて油断を誘う。
あたしみたいな糸使いは特にかかりやすいしね。
糸の切れた人形は動かない。
でもお生憎さま。
あたし、おねーちゃんから話を聞いてたもの、貴方たち魔将の事を。
だから固定概念に縛られずに考えれた。
貴方は……傀儡たちを糸だけで操ってたんじゃない。
その人形の体に潜んで操ってもいた……そう、群体生命体として」
「……正解だ娘」
タマモの声に観念したように人形の口から這い出てくる蟲。
それはおぞましいことに人間の顔を持った甲虫だった。
「よくぞ儂の蟲使いの妙技を見抜いた。
儂のベースとなっているのは死蠢蟲。
死体に寄生し養分を啜り、神経系を操作し新たな獲物を探す蟲よ。
傀儡たちに忍び込ませた我が分身たちは、全て先程の瘴気音波で死に絶えた……
残念じゃが、もはや儂には何の手段も――」
「ダウト」
宙を奔る斬線。
天井から糸を垂らし直接タマモの体内に忍び寄ろうとしていた甲虫は真っ二つにされた。
解説に近い自供は時間稼ぎだったのだ。
焦りの色をおぞましい顔ににじませる甲虫。
今度こそ本当にすべての手立てがなくなったのだ。
「ま、待て!」
「や~だ。絶対待たない。
あたしの経験上、貴方みたいなタイプって、時間があればあるほど悪さするし」
「そ、そうだ!
儂なら魔神皇様や他の魔将に関し、有意義な情報を提供でき――」
「はい、それも嘘」
命乞いする間もなく、両断され絶命する甲虫。
傀儡の人形師を自称していた裏魔将の、これが最後だった。
「悪女のあたしに嘘つき勝負をするなんてね。
……百年早いんじゃないかな?」
かつて主に仕えてた頃、魑魅魍魎が跋扈する宮中陰謀劇を思い出しくすくす笑うタマモ。
難敵だったがどうにか切り抜けたようだ。
「さ~て、と。
早くおねーちゃんのとこに」
肩を竦め、出口へ向かい歩き出した膝が崩れる。
「あ、あれ?」
力が入らない。
下を見れば、刺された身体の箇所から流れ出ている血。
特に最初に不意打ちされた一撃から溢れ出る血が一番酷い。
「なんか、おかしいな……
こんな筈じゃなかったのに……
ごめんね、おねーちゃん……
少し休んだら、妾が傍に行くから……
だからまた抱きしめて、ね……」
言葉を飾る余裕もないのか、あるいは――最早自らが何を喋っているのかすら分からないのか。
朦朧とした意識の中、タマモはユナに語り掛けながら……そっと身体を横たえ目を閉ざすのだった
お待たせしました。
仕事も一段落してきましたので、ポツポツですが本編再開です。




