決闘<デュエル>1
シャスティアとパンドゥールが冷たくも激しい火花を散らす一方――
同様の邂逅は闘技場の至る所で見られていた。
「……ったく。
嫌な予感がビンビンしてたし、精霊も警鐘を鳴らしていたけどよ……
俺の相手はやっぱりてめえか」
「これはこれは。
随分手厳しいお言葉ですな。
そう言わず吾輩にお付き合い下さいませ」
「枯れた爺が何を情熱的に誘ってんだか。
破滅願望の年寄相手じゃ、やる気が出ねえんだよ」
「ハハハ。
辛辣ですな」
「俺に好かるような事はしてねーだろ?
てめえも、てめえの主も」
「まあ確かにそうかもしれません。
しかし吾輩達には吾輩達なりの信念がありますゆえ」
「別にてめえらが何をしようが俺には関係ない。
だがその目的に力がねえ者達を巻き込むなよ」
「盛者必衰。
栄え続けるものなどはおりますまい?」
「それは強者の驕りだ。
力を持つ者はそれを制御できる術を持ち得なきゃならねーだろうに」
「まあ確かに。
それもまた正しき道、正道でしょう。
されど吾輩達は既に失敗しているのですよ。
なればこそ慎重に、そして手段を選べぬのです」
「面倒くさい奴等だな、本当に。
子供の理想に超人的な能力を持つ集団なんて最悪じゃねーか」
「お褒めに預かり恐悦至極。
なんでしたら冥府までご案内致しますが?」
「謹んで辞退申し上げるよ、バーロー」
片眼鏡に燕尾服、ステッキを持った老紳士。
口元に携えられた純白の髭。
人の良さそうな好々爺たる穏やかな笑みを浮かべる深淵の呪教授。
しかし放たれる鬼気は常人なら失神しそうな程の圧迫感を伴う。
僅かの隙が文字通り命取りになる怪人を前に、ミスティは深々と溜息を漏らすのだった。
「どーも久しぶり。
元気にしてたかい?」
「黙れ、外道」
親しげに掛けられた問い。
しかし銀狐は一言で切り捨てる。
相対するのは女性と見間違える程端正な容貌をした金髪の青年。
夜会用の貴族衣装を身に纏い、要所で均整の取れた身体を晒している。
しかしその全身は染まっていた。
鮮烈な紅と怖気のする黒によって。
「お前の糧とする為に……
いったいどれだけの人を殺めた?」
銀狐は周囲を見渡す。
広間を埋め尽くす数多の屍。
どれだけの恐怖と苦痛がその身を襲ったというのか。
物言わぬ躯達はすべて苦悶の表情を浮かべていた。
「ん~そんなのは数えていないな~。
ボクはただ皆を『解放』してあげただけだし。
君だって今まで殺めてきた人の数なんか、覚えてな――」
「689人」
「へ?」
「自分が――直接手にかけた者の数だ」
「ば、馬鹿じゃないか君は。
そんな事を覚えていても仕方ないだろう!」
「ああ、お前の言う通りだろう。
自分が殺めた者は悪人が多い。
殺されても仕方がないと呼ばれるような者達だった。
しかしそいつらにも友はいただろう。
愛する家族もいたかもしれん。
如何なる理由があるとはいえ、人を殺す事は悪だ。
だからこそ自分は忘れない。
自らの決断を後悔しない為にも。
我が盟主に……自分はそう学んだ」
「はっ、所詮は綺麗事じゃないか!
上辺だけを飾り、本質をただ誤魔化してるだけだろ!」
「そうかもしれん。
ただの自己満足かもしれん」
「だったら!」
「だが……
自分はその綺麗事をどこまでも気に入っている」
「ふ~ん……
君の意志は固いんだね。
どう足掻いても仲間になる気はないかな?」
「ああ」
「じゃあ――
その妄想を抱いて殉死しなよ。
ボクの導く理想郷へ。
汚れに満ちた世界を変える為の礎となる為に」
誰にも理解されない教義を説きながら……
殺戮の貴公子傲慢に言い放つのだった。
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