拒絶、らしいです
「不死者……?」
「違うよ~お嬢ちゃん。
僕はね、もっといいものさ」
思わず呟いた私の問いに、パンドゥールが律儀に応じます。
胸元を貫かれてるというのに、その顔はどこか楽しそうです。
「偉大なる魔神皇様から授かった力の一つなんだ。
この死ににくい体はね。
まあ君の親御さんのせいでもうダメみたいだけどね。
こうして死を迎えるのは……結構愉快なんだよ?
少々痛むけどね~」
「まだ懲りないのか、仮初めの生者よ」
「うん。まあ今回は僕の負けだね。
この身体のスペックじゃ君に及ばないみたいだ」
父様の質問にうんうん応じながら頷くパンドゥール。
ですが急に邪悪に嗤うと父様の身体にしがみ付きます。
「何を!?」
「今の君には及ばない……
けど、君の子供達ならどうかな?
ノルン家の血脈なら君に並ぶ筈だろ?」
「まさか!?
逃げろ、皆!!」
焦燥に叫ぶ父様。
羽交い絞めするパンドゥール。
その口元から飛び出る何か。
上空を舞い、頭上を遮る影。
見上げる私達。
視界に広がる形骸し難い闇色の邪身。
咆哮し唸りを上げる剛腕。
私達に差し迫る狂爪。
迫りくる絶望。
絶対の死。
「大丈夫……
貴方達は、わたしが守るもの」
私達を庇い、切り裂かれる母様。
ゆっくと地面に倒れていきます。
血は出ないものの、
もっと大事な、
何かが壊れたのが理解出来ました。
理解、してしまいました。
「いやあああああああああああああああああ!!!」
「かあさあああああんんん!!」
「くそったれがああああああああ!!」
悲鳴を上げる私。
憤怒する兄様。
「ああ、イイ!!
この絶望~堪らないネエ~~~」
愉悦に浸る邪身。
泣き叫び怒り憤る私達を見て喜びます。
「よくも……
よくもマリーを!!」
しがみついていた身体を強引に突き放し、返す剣先でバラバラに斬り伏せた父様が駆け付けます。
しかし邪身は小馬鹿にしたように肩を竦めると……
力を失った、母様の身体に潜り込みました。
「なっ!?」
「えっ!?」
「まさか!?」
ゆらりと身体を起こす母様。
まるで幽玄の使徒の様にその足元はおぼつきません。
無事だったのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
誰よりもその事を望みながら……
私は目の前の光景を受け入れる事を拒否してます。
何故なら私達を見詰めるその視線。
いつも慈愛に満ちた母様のその容貌が、
見るも無残な邪悪に歪んでいたのですから。
「……気をつけよ、人の子達よ……」
昏倒から覚醒したのか、
ふらつく足取りで身を支えながらリューンが立ち上がります。
「リューン……母様が……」
「周囲に満ちる、この負の生命力とでもいうべきもの。
生命を司る吾だから分かる。
それは最早、君達の母君ではない。
何故ならそれらに憑依された者達は……
生前の記憶を共有する、マリオネットじみた存在に成り下がる」
「え……?」
「フフ……随分詳しいものがいるじゃない?
それで、続きは?」
母様の声色。
けれどまるで別人のような冷たさをもった声が続きを促します。
父様も何かを堪える様に下を向き俯いてます。
「口にするも憚れるそれらの名は即ち」
「即ち?」
「即ち、魔族と呼ばれる者なり」
「フフ。微妙に間違ってるけど……
まあ正解にしておいてあげる。
正確には、高位魔族である魔神皇様の力の欠片を戴いた者なのだけどね」
母様でない母様は、小馬鹿にするように嘲りの嗤いをあげるのでした。
あと2話で区切りがつきます。




