されど誓いし志は
足裏に感じる感触は大理石にも似た硬い感触。
古代魔導王国の贅を凝らした造りだからでしょうか?
経年劣化による綻びはあちらこちら見られるも意外に材質はしっかりしてます。
薄暗い通路を歩む私の足取りは比較的軽めに見えますが、その内心は緊張によって張り詰めた糸の様に研ぎ澄まされているを自覚しちゃいます。
幸いな事に『持続光』の魔術効果を持った照明が要所要所で生きている為に視界は悪くありません。
でもまるでお化け屋敷というか幽霊の出そうな古城みたいな雰囲気。
偽りなく言うなら正直苦手です。
幽霊というより、こういうホラーな雰囲気に弱いのです。
罠や番人は排除・停止させたと魔神皇は言いましたが……物陰に映る陰影などを見掛ける度に身体がビクッと反応しちゃう。
妄想豊かな私は想像力過剰に色々な事を考えてしまうので。
まあ現状を鑑みれば無理はないかもしれません。
この闘技場は、元は死闘を鑑賞する娯楽という悪趣味な用途で造られた建物。
ロクな装備を持たない奴隷を突入させ、捕獲した妖魔や自分と同様に囚われた同郷者や近親者と相対させ殺し合わせる。
生き残りたければただ勝ち抜くしかない残虐なルール。
自分のエゴの為に誰かの命を奪わせるという価値観の強制。
その苦悶する様を中継し、生存闘争の享楽に興じる趣旨の為にあった建物。
国が亡びる際にはその民がここで虐殺されたのは因果応報とでもいうべきなのでしょう。
私はあまりオカルトな話は信じません。
ですが死に逝く際に迸る無念さや憤りなど、蓄積されていく怨念のようなものは確かにあるのでしょう。
死霊や怨霊などに識別されない負の想念。
そういった澱みやマイナスのオーラとでもうべきもの。
専門家以外は感じれないものの、明確に存在する。
以前にも言いましたが、行くと何故か具合が悪くなる恐れがある所。
病院の待合室や祭儀場などがこれに値しますね。
気をしっかりと張れば影響を受けるほどの害意はありません。
けどやはり気分のいいものではありませんしね。
精神鎮静・平常動作・戦闘鼓舞系のスキルを総動員し対抗します。
ふう。
幾分か気持ちが楽になりました。
私は続けてスカイに魔改造された<紅帝の竜骸>の動作域を確認。
ん。
これも問題はなさそうです。
しかしさすがアラクネ開発研究部門を統括する男。
いい仕事をしますね。
改造された事により得た様々な特性が組み合わさり、基礎的な能力を含めて私の力を向上させているのがありありと分かります。
焔と闘気の融合を発動していないのに、まるで火力発電所の様な力のうねりが胸の奥から渦巻く。
今の私なら如何なる事態にも対処できます!
……な~んて、力に溺れ奢るのはよくある失敗談なのでしませんけどね。
あくまで謙虚に自分らしく。
そもそも本当に罠や番人が設置されてないかも怪しい。
敵対者の言葉を鵜呑みにし、信じるのは愚の骨頂ですし。
万色なる多種多様に通じる顕識圏を拡大し、索敵する事を怠らずに進みます。
多層構造からなる迷宮じみた闘技場。
歩み始めてかれこれ30分近くは経過したでしょうか。
幾度かの転移ゲートを経由し、最深部へ向かっているのを実感します。
他の皆は無事なのか。
いったい何が待ち受けているのか。
決闘は尋常に行われるのか。
本当に大陸に住まう人々を救う事は可能なのか。
様々な憶測が脳裏をよぎりますが、今は待ち受ける敵に全てを注ぎます。
やがて辿り着いた先。
そにあるのは血塗られた場に相応しくない優雅な装飾が為された大扉。
私はある程度の確信をもってその扉を開けます。
まるで王宮の大広間のような広大な空間。
そこに一人佇むのは、こちらに背を向け漆黒のマントを羽織った男。
扉が開いた音に男はゆっくり振り返ります。
風を受けて翻るマントが別個の生き物みたいだ、そう観測し語る冷徹な私が脳裏の片隅にいるのをどこか他人事みたいに把握しつつ、最大限の警戒と、これから待ち受ける闘争へ向けてテンションとギアを急段階上昇させます。
真正面から見据えてくる魔神皇。
それだけで押しつぶされそうになる圧倒的な存在感。
ごくり、と無意識に口内に溜まった唾を飲み込む私。
緊張に声が上擦るのを感じました。
「……お待たせしましたか?」
「やあ、ユナ。
ずいぶん遅かったね。
正直待ちくたびれたよ」
顔を覆う口元以外を隠す舞踏会用の仮面を、苦笑しつつ外しながら……
大陸に仇為す稀代のテロ組織、世界蛇<ミズガルズオルム>総帥こと魔神皇は私の問いに穏やかに応じるのでした。
最終章開始です。
久々に書くと小説の形態をわすれちゃいますね。
加筆・訂正致しました。




