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揺らぎ映す鏡なり

 身体を覆う浮遊感。

 さらに刹那にも満たない酩酊感。

 エレベータ上昇時にも似た言い難い不快を堪え目を開けると……

 そこには巨大な威容を誇る円形型闘技場が視界いっぱいにありました。

 ロムニョウム大闘技場。

 かつて栄えた、古代の魔導侵略国家に設けられた負の遺産。

 私の世界にあったローマの闘技場と内容と経緯は似てます。

 ただあちらが市民の娯楽を追求したコロッセオなのに対し、ここにある

 この闘技場は国家に歯向かう反逆者や愚劣な犯罪者、さらには侵略戦争

 を仕掛けた過程で捕らえた人々を見せしめに殺す為に造られたという、

 悪趣味極まりない最悪の処刑場テーマパークなのです。

 中は人工的な迷宮になっており、様々な罠や番人が待ち受けてます。

 冒険者組合の危険度カテゴリーでは難度Aクラスに指定されている程。

 その危険性は決闘に対する皆との打ち合わせ過程で、守護者として幾度

 かこの闘技場に関わったネムレスから嫌というほど聞かされてます。


「どうやら無事に転移したようだな」


 ネムレスが共に転移してきたメンバーを見渡し、満足げに頷きます。

 私を含めた一同は各自鷹揚に返答を返します。

 結構な長距離になりましたが無事にこの人数を転移させられた様です。


「では……五月蠅いようだが再度確認だ。

 この大闘技場の内部は迷宮のような多層構造を持っている。

 あらかたの罠や番人は今まで討伐されたと思うが、中にある転移移動

 装置等は便利なのでそのままなので注意が必要だ。

 何か質問はあるか?」

「決闘に赴く順番などはどのように考えているのでござる?」

「確かに気になるのう」

「出来ればこちらが優位に立てるよう組み合わせたいが……

 多分それは叶わないだろう」

「へ~それはどうしてなんだよ?」

「博識な君でも知らないか、ミスティ。

 狙ったのかどうか知らないが、ここの闘技場の入口は丁度12個ある。

 これはつまり――」

「ようやく来たか、命知らずな12人のデュエリスト達よ」


 思案するネムレスを遮るように周囲に響く大音響。

 闘技場を見上げれば私達を睥睨するように宙に浮かぶ魔神皇の幻像。

 どこかで監視していたに違いありません。

 あるいは何かしらの『スキル編成』を使用したか。

 いずれにせよ油断できる相手ではありません。


「逃げもせずにここへ来た事は褒めてやろう。

 だがその愚劣さに伴う対価は、しっかりと払って頂くとしよう」

「能書きは結構だ。

 わたし達はどうすればいい?」

「話が早いことだ。

 まあいい。

 そこの守護者が指摘した通り、入口が12個ある。

 各自、自らの命運を定める道を選ぶがいい。

 その先に決闘に相応しい者達を配置してある。

 我が選りすぐりの配下がお前達の相手を務めるとしよう」

「ふむ。わたし達に拒否権は?」

「残念ながらないな。

 ただ……少しだけサービスをしてやろう。

 中に仕掛けられた罠と番人共は『黙らせて』おいた。

 我が望むのは純粋に決闘の勝敗。

 決して卑劣な勝ちを得るためのものではない。

 どこまで我の言葉を信じるかはお前達次第だがな」

「このような場を設定しているのですからそこは疑いません。

 本来ならば反抗を許さない一方的なワンサイドゲームなのですから。

 ただ……いったいどのような思惑があるかは不明です」

「流石に敏いな、少年。

 ただ我がその言葉に応じる義理はない。

 汝らに可能なのは……自らの意を、自らの威で示すのみ」

「話がシンプルだね。

 その方が分かりやすいよ」

「同感~」

「小利口な者より単純な思考の方が長生きしやすいな。

 さて守護者よ、約束のモノは持ってきたか?」

「ここに」


 ネムレスが全身を包む赤の闘衣をはだけ、ユリウス様から託された

 皇断鋏を示します。

 その姿を確認したのか、深く頷く魔神皇。


「良かろう。

 ここに決闘の成約はなった。

 では……来るがいい。

 我は闘技場最深部、中央大広間にて汝らを待つ。

 汝らも死力を尽くし、その命の火を燈すがいい」


 皮肉げな笑みを浮かべ消え去る魔神皇の幻像。

 何というか、本当にステロタイプですねえ(溜息)。

 同じことを思ったのか、イズナさんが苦笑しつつも皆を見渡します。


「さて現状は今しがた敵の首魁が語ってくれた通りみたいだね。

 残念ながら自分達に選択する権利はない。

 まあ奴の言う通り、素直に応じようと思うけど……

 何か意見はあるかい?」

「二人で組んじゃダメかなぁ?

 あたしはおねーちゃんと一緒がいいんだけど」

「やめておいた方が賢明だろうね。

 向こうの誘いを無碍にして約定を翻されるのが一番きつい」

「俺の魔術で根こそぎ吹っ飛ばすというのは?」

「自分も同様の事を考えたんだけど……

 ここの最深部は地下にあるんだよ。

 さすがに魔導文明時期の耐魔構造巨大建築物を一撃で一掃するのは、

 ちょいと難しいかな。時間をかければ別だけど、気取られる」

「やっぱそうか。

 いい案だと思ったんだけどな~」

「素直が一番ですよ、兄様」

「バッカだな~ユナ。

 いかにルールの裏道を突いて相手を悔しがらせるかがポイントだろ?」


 ミスティ兄様って……ブレないというか何というか(汗)

 あの魔神皇を相手にしても余裕を崩さないこの態度は……

 実の兄ながら心底戦々恐々しちゃいます。

 だっていつかこの人、ラスボスとして立ちはだかりそうですもの。

 ノリノリで高笑いして。


「では……皆、入るべき入口は決まったか?」

「ああ」

「ええ」

「おう」

「ふむ」

「ほ~い」

「任せるでござる」

「はいよ」

「ふん」

「ここだね」

「了解です」

「はい」

「結構。

 それでは皆の健闘と幸運を祈る。

 また会おう……最深部で」


 ネムレスの言葉に一斉に闘技場の入口へ足を進める私達。

 こうして変則的ながらも、ついに大陸に住まう者達の命運を掛けた

 決闘が開始されたのでした。




遅れなせながら新年あけましておめでとうございます。

仕事が忙しく更新ペースが落ちていますが、本年度中に完結させたいと思います。

どうぞ今年もよろしくお願いします。

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