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無常なる世界の在り方を

 彼は誰時たれどき

 その由来は彼が誰か訊かなければ判らない程の時間帯を指す言葉です。

 魔導照明に照らされているとはいえ、その範囲を外れれば容易に顔の判別がつかない程の明るさの中。

 世界蛇との決戦へ赴く為の転移集合場所である王宮の練兵所には、決闘者全員が揃っていました。

 私を含む12人のメンバー。

 周囲を見渡すまでもなく錚錚たる顔触れです。

 何せ位階値の高さはともかくこの中では私が一番の低レベル。

 冒険者ランクに換算すれば平均値Sクラスに匹敵する構成。

 各々から漂う圧倒的な存在感が、私の心を覆う不安と焦燥を払拭してくれます。

 さらにぐっすりとはい言えない僅かな休息とはいえ、そこは高レベル所持者達。

 集ったメンバーの顔には気負いもなく、覇気にも似た闘志と気迫に満ちてます。

 しかし流石に皆無言でした。

 これからの戦いの事もあります。

 この戦いに勝たねば……

 魔神皇を止めなくては比喩なしに世界が終わる。

 夜明け前とはいえこの静寂に満ちた世界。

 昨夜の徘徊で知った、人のいない孤独な世界。

 もしあれが日常となってしまったら、人の世は破滅を迎えるといっても過言ではありません。

 何より母様を知る者にとっては悲願が叶うかどうかの運命の日。

 昨晩皆と語り合ったとはいえ、その心中は察せられます。


「皆揃っているようだな」


 風船のように張り詰めた雰囲気を打ち破ったのはルナさんとセバスチャンを伴って練兵所に現れたユリウス様です。

 その手には蝶を模したような優雅なデザインの鋏が握られています。

 畏まり臣下の礼を取ろうとする一同でしたが、苦笑するユリウス様が片手をあげて静止します。


「今は非常時だ。

 形式ばった礼など、どうでもよい。

 それより私は皆に謝らねばならん」

「それはどういう事だ?」


 この中では最も世俗の影響から外れた存在であるネムレスが代表で尋ねます。

 赤い闘衣に双刃を携えた彼の武装は完全に守護者のそれです。

 凛々しくも勇ましい。

 威風堂々たるその佇まい。

 高鳴りそうになる鼓動を強引に押さえつけます。


「皆を巻き込んだとは言わぬ。

 ただ……そなた達には不相応な負担を掛けてしまっている。

 魔神皇の力なのかは不明だが……

 これからどうなるのか、

 この戦いがどうなるのか。

 今の私には何も『視え』ぬ。 

 一国の皇という立場でありながら、

 未来視能力所持者でありながら、

 今の私にはそなた達に全てを託すしか方法がない。

 情けない事にな」


 自嘲気味に唇を歪めるユリウス様。

 そんなユリウス様にすぐさま皆が反論します。


「それは違うぞ、ユリウス」

「え?」

「そうですよ、ユリウス様。

 私達は押し付けられたから戦っている訳じゃありません。

 自らが望んでいるからこそ、この場にいるんですよ?」

「まったくじゃ、兄上。

 儂にとっては可愛い甥っ子を救う為の戦い。

 そのついでに奴等と事を構えるだけの事」

「左様です、ユリウス陛下。

 此度の戦いはわたしにとっては家族を取り戻す為にも必要な事。

 陛下が気に病む事ですはございません」

「まあウチの父さんが言ってるように、俺達には俺達の事情があります。

 そのついでと言っては何ですが、世界を救ってきますよ。

 なっ、シャス?」

「そこで僕に振らないでほしいのだけど。

 兄さんはすぐに安請け合いしてしますのだから。

 でも確かにその通りです、ユリウス様。

 僕達は僕達の理由があって戦いに赴きます」

「拙者達にとってはただの露払い。

 友を救い出す為の戦いでござるしな」

「この馬鹿と同意見なのは癪だけど……

 事実だか仕方ない、か」

「もう~素直じゃないねーカエデおねーちゃんは。

 まあ、あたしにとってはさしたる理屈なんて必要ないし?

 ユナおねーちゃんが望むなら、あたしは軍隊だろうと世界だろうと相手取るだけだしね」

「世界に仇為すモノを討つ。

 それもまた幻想郷を守る存在としての責務。

 人族が気にする事はあるまい」

「この戦いは、この世界に生きる者にとっては当然行うべき義務の様なもの。

 たとえ暗雲立ち込める未来であろうと、人は立ち向かわなくてはならない」

「同感だね。

 それに自分はただ勇者たる己が使命を果たすだけの事。

 この身は全て弱き民の為に。

 何も問題はございません」

「皆の者……」


 ユリウス様に掛けられる思い思いの言葉。

 未来を知るが故に絶望し、それでも抗い続けようとした。

 孤独であったユリウス様。

 しかし未来視を封じられた今こそ、初めて自分の意志で選択し、そして自分が皆に支えられているという事を実感しているのかもしれません。

 涙を浮かべるユリウス様をルナさんとセバスチャンが穏やかに見守ります。


「ならば私からは何も言うまい。

 世界を……息子達の未来を頼む」

「ああ。任せろ」


 力強く頷くネムレス。

 ユリウス様は堪え切れなくなった一筋の涙を零し感謝の意を表すのでした。




 

 


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