徒然なるままに~リューンの場合~
「探したよ、リューン」
「ん?
……ああ、ユナか」
「こんな何もないところで……
何を見ていたの?」
「ふむ。星をな……」
「星?」
「ああ。吾等一角馬の一族が、夜空を神格化し信仰してるという話はしたことがあったか?」
「うん。前に少しだけ」
「そうか。
一角馬はな、身体が力尽き大地に横たえた後、その魂は夜空に召し上げられ万物を見守ると伝えられていてな。
特に生前目覚ましい生き方を為した者は、魂が星々となり輝きをあげるらしい」
「へえ……ロマンティックなお話だね」
「まあ旧い言い伝えだからな。
どこまで本当の事なのやら」
「ん~……でも、
私は嫌いじゃないよ、そういう話」
「……これは意外。
ユナは結構浪漫が分かるのだな。
徹底したリアリストだと思っていたが」
「何それ。ひど~い」
「いや、すまんすまん」
「フフ……
それに前にも同じ話をしたしね」
「ん?」
「わざと、とでしょ?
少しでもリラックスをする為に」
「分かるか?」
「うん。だってリューンもいつになく緊張してるし」
「そうだな。
ユナには隠し通せないか」
「明日の事?」
「それもある。
ユナ達に受けた恩義を返す為、然るべき力を磨いてきた。
だがその吾をしても明日の戦いは身が震える。
バレディヤと名乗った6魔将。
更にはヴィジョンだけとはいえあの魔神皇という存在の威容。
並大抵の相手で無い事は容易に想像出来るからな。
元来一角馬は臆病な性質なのだ。
昔から誤った迷信による乱獲の対象になったりしたからな」
「うん」
「それでは吾は戦おうと思う。
ユナ達に受けた恩義だけではない。
吾はこの大陸に住まう一個の生命体として、奴等に立ち向かわなくてはならないと直感した。
こう見えても結構当たるのだぞ」
「リューンの直感に疑いはないよ。
いつも助けられたし」
「幼き頃からユナはそそっかしいかったからな。
何度死に掛けた事やら」
「それは指摘しちゃ駄目だってば。
でもいつもありがとね」
「それに他の者に対する態度と随分違うようだ」
「だって……
何だかリューンって、いつも自然体っていうか……
幻獣だからかな?
揺るぎ無く泰然としてて……
一緒にいると心底落ち着くな~って。
だからか知らないけど、リューンといると本来の私になれるし」
「それは光栄だな」
「ホントだよ?
この四年間腐らずにやってこれたのはリューンが傍にいてくれたからだと思う。
本当にありがとう」
「礼には及ばない。
汝らには義理があるしな」
「もう。いつもそれ?」
「いや、それだけでもないが」
「え?
ちょっ、ちょっとリューン!?
手、手がね!
その、当たってるし」
「……嫌か?」
「そ、そうじゃなくて!
えっと、その……」
「そうか。
……ユナの心には……
もういるのだな、あいつが」
「え!?」
「まだ自覚はしていない、か。
しかしどうやら間違いはないようだ」
「な、何の話?」
「隠さずとも良い。
吾で無い事は残念だがそれもまた世の摂理。
ユナの想いは当然の事だ」
「わ、私は別にそんな……」
「思えばこうなる事が分かっていたからこそ、
吾はあいつを警戒し嫌っていたのかもしれん。
大事な聖域にすっと滑り込むあいつの在り方が怖く……
それ故に許せなかったのか」
「リューン……」
「ふっ。何をしょげた顔をしている。
別に汝が誰を想おうと、吾とユナの絆が無くなる訳ではあるまい?」
「うん」
「なればこそ明日は共に戦おう。
皆の未来を勝ち取る為に。
何より汝の母をこの手に取り戻す為に」
「はい」
「では吾もそろそろ休むとしよう。
ユナも夜更かしは程々にな」
「そうだね」
「あと」
「え?」
「その想い、カタチにしなくともを伝えておくがいい。
どのような結果が待ち受けようが、決して後悔だけはしないようにする為に」
「リューン……」
「な~に、先達の言う事は聞いておくべきだぞ?」
「ありがとう、リューン」
「もう吾の保護下から旅立つのだ、ユナ。
汝と共に過ごした数年はここ数十年に勝る充実した日々だったぞ」
「私もだよ。
じゃあさよなら、リューン。
私、行くね」
「ああ。
汝の歩む路があらん限りの幸運で祝福される事を祈る」
踵を返しある人物の者とへと走るユナ。
荒ぶる胸の内を強引に宥め、微笑み見送るリューン。
これが長き別れの前に交わした最後の会話となる事を、
この時二人は知る由もなかったのであった。




