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徒然なるままに~ミスティの場合~

「こんな所で……

 いったい何をされてるんですか、ミスティ兄様?」

「あ?

 何だ……誰かと思えばユナか。

 あ~その姿だと、一瞬見違えるな」

「そうなのですか?」

「ああ、どことなく母さんの面影がある」

「それ、母様を知る方達にもよく言われました。

 一応秘薬の効果で10年後を想定した姿を投影しているのですけど……

 若い頃の母様に似ている、って言われるのは嬉しいです」

「ん。ユナはノルン家の長女だからな。

 やっぱ母さんの影響も多いしな」

「兄様は父様にあまり似ませんね」

「確かに俺とシャスは母さん似の女顔だからな。

 今の貌も嫌いじゃないが……

 まあ将来は親父みたく渋い顔になるといいんだが」

「フフ」

「何だよ、その含みのある笑みは」

「ミスティ兄様も父様と母様が大好きなんですね」

「あ?

 何でそんな話題になるんだよ、ったく。

 だいたいお前こそこんな夜更けにどうしたよ。

 さっきまで多忙だったろ?」

「今はひと段落ついたんで休憩してるとこです」

「明日は早いんだ。

 早く休んで備えろよ?」

「そんなに言われなくとも大丈夫です。

 ちゃんと休みますから」

「ならいいが。

 お前は誰かの為に頑張り過ぎちまう傾向があるからな」

「それは兄様も一緒でしょ?

 私のスタンスはミスティ兄様を参考にしてますので」

「……しばらく会わないうちに口が達者になったな、お前」

「兄様が丸くなっただけです。

 昔は鞘の無い妖刀のようにキレキッレだったじゃないですか」

「あ~あれは若気の至り。

 あの頃は俺も若かったんだな。

 昔の事は忘れろ」

「やっぱり学院の影響ですか?」

「まあ、な。

 前にも話したが……

 以前の俺は傲慢にも井の中の蛙、大海を知らずな状態だった。

 世の中は広い。

 本当に色々な人がいる。

 尊敬できる奴も、無論そうでない奴等も。

 そういった人々の触れ合いで俺は自らの愚かさを思い知らされたよ。

 力だけじゃない。

 誇るべきものを持った人達から学ぶべき事が多い」

「何か……大人、って感じです」

「今のお前の姿で言われると変な感じがするけどな」

「違いありません」

「はっ」

「フフ。

 それで、兄様?」

「あん?」

「話を戻しますけど……何をされてたんですか?

 体調も少し優れないようですし」

「ちっ。

 そういうとこは抜け目がないのな。

 契約をしてたんだよ」

「契約?」

「そっ」

「聖霊使いとして比類なき力を持つ兄様が今更契約をするほどの?」

「ああ、気難しい奴でな。

 なかなか交信コンタクトが取れなくてよ。

 まあ先日の騒ぎでレベルはギリギリ到達した。

 後は俺の契約アクセス方法によるな」

「深く聞きはしませんけど……無理はしないで下さいね?」

「お前もな」

「はい。

 いよいよ……明日、ですものね」

「そうだな。

 明日は間違いなく総力戦になる。

 決着をつけるぞ。

 俺達と世界蛇、そして母さんを取り戻す戦いに」

「兄様は……疑わないのですね」

「何をだよ?」

「私達の勝利を。

 母様を取り戻す事を」

「はっ。

 今更そんな事を疑うまでもない。

 父さんも言ってだろ?

 俺達が母さんを取り戻すのは確定事項。

 その為にならどんな対価を払ってでも成し遂げる」

「そう……ですよね」

「まあ心配すんな。

 全部俺に任せておけ。

 こう、泥船に乗った気持ちで」

「沈みます!」

「船名はタイタンチック号にしておくか」

「そんな沈没した豪華客船の名前をつけないで下さい!

 まったく兄様ってばふざけてばかりなんだから。

 私、もう行きますから!」

「ああ。

 俺はもう少しだけやってから休むわ」

「無理を……なさらないで下さいね、兄様」

「心配するな。

 分かってるよ」


 心底身を案じるユナの言葉に苦笑し応じるミスティ。

 ユナは身を引かれる思いを断ち切り、背を向け立ち去る。

 漫才じみた言葉の端々に改めて兄妹の絆を再認識させられた。

 しかしユナは気付いた。

 そう、気付いてしまった。

 強がるミスティ。

 だがあれは以前にも見られた傾向。

 マリーを失ったあの時は知る由も無かったが……

 ミスティは生贄魔術というものを施行した事があった。

 その際に求められたものは寿命。

 ミスティは寿命を対価に再度何かを成し遂げようとしている。

 ユナにも誰にも弱みを見せないミスティの在り方。

 孤高な兄の矜持を傷付けぬ様ユナに出来るのは、何も気付かぬ振りをして……そっとその場を離れる事だけだった。

 


 



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