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この世はなべてこともなく

「疲れました……」


 どこまでもお尻が沈み込むソファー。

 心地良いその感触に全身を委ねながら、私は深く溜息を洩らします。

 霊峰への挑戦からの再会。

 転移による王都での攻防。

 たった一日だというのに、まるで数ヶ月に及ぶ時間が経過したかのような密度の濃さ。

 更には大陸規模の災厄とでもいうべき強制的な魂魄退場執行。

 詳しい事はまだ完全に判明はしてませんが、魔神皇の行ったのは魂に介入する術式らしいです。

 位階値でもあるレベルが満たない者を無条件に昏倒させる。

 多くの血と苦悶で描かれた魔方陣だからこそ可能な秘儀。

 その効果は絶大で、常に後手に回っているのが実情です。

 情けない事に弱音を吐きたくなります。

 けどここで私達が逃げたら……いったい誰が世界蛇<ミズガルズオルム>を止められるというのでしょう?

 それに――いったい誰が母様を救い出せるというのでしょう?

 だから私は萎える身体に鞭を打って抗います。

 ありし日の思い出を取り戻す為に。

 幸いな事に私は力を貸してくれる仲間に恵まれています。

 皆の力を結集させれば、きっと不可能を可能に出来ますから。

 今はそっと瞼を閉じ身体を休めます。

 しかし様々な指揮と対処作業には参りました。

 ユリウス様の特別認可により無条件での王宮への出入りと設備の使用許可は出ましたが、いかんせん動ける人材の不足が深刻でした。

 魔方陣の影響を退け駆けつけたセルムスやスカイ、アラクネのメンバー達が手伝ってくれましたが……

 ここ数時間はまさに忙殺の一言。

 多くの事務処理スキルを持つ私でもおかしくなりそうな程でした。

 肉体的な疲労は位階の上昇や<紅帝の竜骸>により癒されます。

 でも精神的な疲労は泥やコールタールの様に沈殿していくのです。

 こればかりは何らかの心身を活性化するリフレッシュ手段を取らなければ回復しません。


「大丈夫、おねーちゃん?」


 そんな私の様子を見兼ねたのか、タマモが話し掛けてくれました。

 狐耳がチャーミングな絶世の美幼女。

 私を慕って尻尾を振る仕草を見てるだけでかなり癒されます。


「ん。大丈夫ですよ」

「それは嘘。

 おねーちゃんはいつもそうやって笑顔で頑張り過ぎちゃうし」

「……タマモに隠し事は出来ませんね」

「実際、かなり疲れてるでしょ?」

「それは、まあ」

「なら――お風呂に行こ」

「へっ?」

「さっきルナから聞いたんだけど、王宮のお風呂もかなり凄いんだって!

 疲れた時には身も心も綺麗にするのが一番だよ」

「ちょっ、ちょっと待って下さい!

 私にはまだやらなきゃいけない事が」

「そんなのはもう他の人に任せなさい。

 明日は決戦なんだから。

 休養を取るのも大事な仕事だよ」

「で、でも」

「ほらほら、早く~。

 お風呂は命の洗濯だよ~」


 強引に手を取り私を引き摺るタマモ。

 可愛らしい外見に騙されがちですが元は妖魔王。

 弱体化してるとはいえS級冒険者に匹敵する力を未だ持っています。

 抗議する私の意見は完全に却下され、私とタマモは王宮にある大浴場へと向かうのでした。









いつのまにやら140万PV達成です。

もう少しでクライマックスになります。

ユナのお話に今少しお付き合い下さい。

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