それはまるで布告者みたいです
静まり返った瑠璃宮に現れたのは二人の男。
天蓋を支える梁から魔神皇を睨むのは、少女の様に見目麗しき黒髪紫眼。
誉れも高き大陸最高峰の魔術師養成機関、サーフォレム魔導学院のローブを身に纏った少年。
外への繋がる飾り窓に腰掛けるのは、狐面を被った身体にフィットした戦闘服の青年。
自分に注がれる視線に応じる様に仮面を外すと、その下には端正な顔に刻まれた醜い傷跡が剥き出しになります。
その正体に思い当たったのでしょう。
皆口々に「聖霊使い」だの「闇渡り」という単語が飛び交います。
間に合った。
間に合ってくれたのですね(涙)
「ミスティ兄様……銀狐……」
「よっ。
待たせたな、ユナ。
連絡ありがとよ」
「遅参お許し下さい、盟主様。
しかし――どうにか最悪の事態には間に合った様で」
私の呼び掛けに明るく軽快に手を挙げ応じるミスティ兄様。
今にも臣下の礼を取りそうな銀狐とはそこが対照的です。
しかし二人に共通するもの。
それは紛れもない、魔神皇への敵意。
変わらぬ絶望的状況ですが二人の登場に私は心から安堵します。
これが私の苦肉の策。
運命石による二人への<記し>でした。
多くを書き込む猶予はなく、本当に必要最低限な内容しか送れませんでしたが……そこはそれ。
二人とも大陸屈指の情報収集能力を持つと共に、転移能力を兼ね備えるので迅速に駆け付けてくれたのです。
動けない・さらに状況を打破する術がなかった私には、恥ずかしい話ですが二人に縋るしか方法がありませんでした。
「聖霊の寵愛児ミスティ・ノルン……
それにかつての王都一の情報屋<銀狐>の登場、か」
「こうして顔を突き合わすのは初めてだな、魔神皇。
ノルン家長男ミスティだ。
手前が妹と弟にしでかしてくれた数々の行い、
そして何より母さんを取り戻す為にも……
借りは特大の100倍にして返させてもらう!」
「貴公に対し怨みはない。
ただ貴公は世界蛇<ミズガルズオルム>の総帥。
かの組織が引き起こした数々の非道、最早見過ごす訳にはいかぬ。
そして何よりも貴公は――
我等が盟主様を怒らせた。
ただそれだけで万死に値すると知るがいい」
面白がる魔神皇に対し、二人は凛然とした口調で啖呵を切るのでした。




