赤面、らしいです
「怪我はない?」
駆け寄ってきた母様がしゃがみこみ、私達に尋ねます。
一人一人頬を撫で、我が子の無事を確かめてくれます。
慈愛に満ちたその声色。
非常時だというのに、私は安堵で泣きそうになってます。
「ええ。ボク達は。
ただ、兄さんが……」
「ミスティが?」
「いや、何でもない。
只の貧血さ」
「それは本当なの、ミスティ?」
一通り外傷が無い事を確認した母様でしたが、
シャス兄様の指摘を受けミスティ兄様を入念に観察。
兄様の体調が思わしくない事を把握するなり見咎めるように訊きます。
「貴方まさか……」
「母さん。俺は大丈夫だ。
そういうことにしてくれ……頼む」
「そう……貴方が自分で考え、決断したことだしね。
わたしがとやかくいうことじゃないわ。
ただね、ミスティ」
「何だい?」
「……ありがとう、必死に弟妹を守ってくれて。
貴方は自慢の息子よ」
にっこり微笑んだ母様がミスティ兄様を抱き締めます。
「な、なにをsdfghjk!?」
顔を真っ赤にしたミスティ兄様が声にならない言葉を発してます。
素直じゃないですね。
嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに。
まあ男の子は痩せ我慢をする生き物だと父様も言ってましたし。
普段はお澄まし顔のシャス兄様も羨ましそうに見てます。
「勿論、シャスティアにユナティアも。
ホントにありがとう。
他の幼年組の子達は無事保護したわ。
み~んな貴方達のお蔭よ」
母様の大きな胸に私とシャス兄様も追加されます。
あわわわっわわわ。
嬉しいです。
嬉しいですけど……これは何というか恥ずかしいです!
に、兄様が赤面するのも分かります~。
その点シャス兄様は大人で、為すがままに任せてます。
恐ろしい精神力です。
「か、母さん!
こんな事をしてる場合じゃない!
囲まれてるんだ。
早く父さんの手伝いを……」
いち早く我に返ったミスティ兄様。
母様の抱擁による桃源郷から抜け出ると警告を発します。
そうでした。
二人が駆けつけてくれた嬉しさに現状を忘れてしまいました。
慌てて顔を上げる私。
すでに離れていたシャス兄様が苦笑してます。
「もう~慌てないで、みんな」
「そうですよ」
「だって兄様! 父様が!!」
「ユナ……相手を誰だと思ってるんですか?
ね、兄さん。
落ち着いてよ~く考えてみてください」
「あ? ああ。
……らしくねえな。
ちと、取り乱したらしい。許せ」
何故か母様の胸元で話し合う兄様達。
母様もニコニコ見守ってます。
「な、何を言ってるんですか兄様!
父様をお手伝いしないと……」
「だからな、ユナ」
道理の分からぬ幼子に説き聞かせる様にミスティ兄様が語ります。
「元S級冒険者の心配をするなんて……
多分10年は早い」
「ええ。ボク達では足手纏いにしかなりません」
「!!」
「そうね……ほら、ごらんなさい」
微笑んだ母様が立ち上がります。
豊満な胸元に隠されていた景色が見えます。
そこには……
「嘘……ですよね?」
あれだけいたゴブリン達。
増援があったのか、どう見ても150匹以上いるそれが全て。
全滅していました。
闘気を宿した剣を持つ一人の剣士……父様の手によって。
ええ、確かに感動の再会をしてる間にも闘いの喧騒は聞こえてました。
でもまさかアレだけの数を一人でなんて……
「流石は昔取った杵柄ってことかしら。
引退しても腕は落ちてない様ね、アナタ」
「いや。そんなことはないぞ、マリー。
随分錆びついてしまってる。
こんな雑魚共相手に時間が掛かるんだからな。
歳は取りたくないもんだ。
だが……」
母様の指摘に父様は面白くない様に応じます。
そしてゆっくりと剣先を向けます。
ニヤニヤ笑いを止めずに高みの見物をしていた青年、パンドゥールに。
「私の子供達を狙った以上……ただで済むと思うな」
「こちらこそ、それ相応の対価を考慮してくださいね。
魔神皇様を討った忌まわしき先代勇者の仲間。
……<闘刃>カルティア・ノルン」
互いの視線がぶつかり合い、熱い火花を散らします。
前哨戦は終わり、これからが本当の意味での魔戦の幕開けでした。




